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04 プラトニックラブ


「それじゃあ」
「うん。またネ」
「また夜にメールするから」
「うん」

只今の時間、午後6時。
繋いでいた手を名残惜しく離して、バイバイと手を振った。

チャイナと付き合い始めて1カ月程。
夏休みということもあって、学校があるときみたいに毎日は会えないけど毎日メールはするし電話もする。
もちろんデートだってしてる。
今日は電車に乗って買い物に行って、帰りは地元のカフェでお茶したりした。

1カ月、という期間が長いのか短いのかは分からない。でもそろそろ手を繋ぐだけでは物足りなくなってきているわけで。ぶっちゃけて言ってしまえばもっと触れたい訳で。
抱きあったり…ちゅーとかだってしたい訳で。
つまりはそういうこと。

せめて夏休みが終わるまでには何とかしたいこの下心。

チャイナと俺の家は近くでもないけども遠くもない徒歩で行ける範囲内で、そんなことを悶々と考えているうちに間もなく家に着いてしまう。
そんなとき。

トゥルルル―。
ポケットに入れてある携帯が振動とともに鳴った。取り出してみると着信はチャイナからで。今さっき別れたばかりだというのにどうして電話がという気持ちもあり、慌てて携帯を開いて出る。
…もしかして何かあったのだろうか。

「もしもしチャイナ?」
『―沖田。も、もう、家に着いちゃったアル?』
「いや、まだだけど。どうした?」

歩きながら電話に出たのでもう既に目の前が家の玄関だった。けどチャイナの話からするとまだ家には居て欲しくないようなそんなニュアンスで、中に入るのを躊躇ってしまう。

『うん、あの…ネ』
「??忘れものでもしたかィ?」
『ううん、違うネ。そうじゃなくて―』

わざわざメールでなくて電話してきたからには何か言いたい事があると思うのだけど、なぜか言いにくそうにするチャイナ。…今日何かあったっけ。
よく聞いてみると受話器の向こうからは車の走る音っぽい少しざわついているような音がして、チャイナが家の中じゃなくて外にいるということがわかった。
さっきチャイナの家の前で別れたはずなのに。

「チャイナ。もしかして今、外にいる?」
『あ、うん。あの…ネ、もしよかったら今から少し…会えないアル?』
「いいけど。チャイナ今どこにいるんでィ?」
『今は3丁目の交差点過ぎたところヨ、公園に行こうかと思って』
「わかった、今そっち行くから。その近くにコンビニあるだろィ?そこで待ってて」
『あ、あったヨ。それじゃ待ってるネ』

そこで電話を切って、家を目の前にしてチャイナの待つコンビニまで走って向かう。ここからはそんなに遠くは無いけど早くチャイナに会いたかった。
別れたばかりで電話してきたのも気になるし、その理由が会いたいからなどと言われればそれは俺だって早く会いたくなってしまうだろう。

息を切らして着いたコンビニのドアを開けるとすーっと冷房の涼しい風で暑かった体が冷えて。
雑誌コーナーで立ち読みしているチャイナを見つけて歩みを寄せる。するとこちらに気づいたチャイナが少し気まずそうに小さく手を振った。

そして飲み物を二人分買ってコンビニを後にして公園に向かう。その間チャイナは何があったのか話すことなかった。だけど片手にコンビニの袋を提げて、もう片方の手をチャイナのそれに絡めると彼女も少し恥ずかしそうにきゅっと絡めてくる。

「どうしたんでィ」
「ごめんネ。急に」
「俺は構わねェよ…ていうか嬉しいし」

そういうとチャイナはまた黙ってしまった。
ただ会いたかったっていうなら俺としては嬉しい限りだけど。だけどそう思えば思う程に繋いでいる手がもどかしくなってきて…もっと触れたくなってくる。
そのまま公園についてベンチに座ろうかというとき。徐に繋いでいた手にぎゅっと力が込められた。

「…今日はもっと一緒に居たかった…アル」

ちょっと目を伏せていうチャイナ。
その言葉に心臓がぐっと締め付けられて、今すぐにでも抱きしめたくて。

その手をぐっと引き寄せて腕を背中にまわして閉じ込めるように包み込んだ。
思った以上にちいさくて細いその体にドキドキが止まらなくて、鼻をくすぐる髪の毛からは甘い匂いがしてさらに強く抱きしめる。

「…チャイナ」
「お、沖田…」
「ごめ―」

腕の中でそう小さく名前を呼ばれて我に返り慌ててチャイナを解放してやりベンチに座る。
まだ時間的には明るくて人目もあるのに、チャイナもそういうの苦手そうなのに。だけどそれ以上にチャイナがものすごく可愛くて、抑えられなかったっていうのが本音。
そして俺に続いてちょこんとベンチに座ったチャイナは俺のTシャツの裾をひっぱった。そのなんともいえない仕草に再び心臓が高鳴り始めてくる。

「ね、沖田は私の事スキ…アル?」

一体チャイナに何が。
どうしてそんなに可愛い事ばかり言うのだろう。
もう抑えている下心が抑えきれない、限界。

「あたりまえだろィ」
「私もスキ、アル。―だから…」

肩を引き寄せようかと手を伸ばそうとするその前にチャイナの細い指が再び絡んできて。
恥ずかしそうに目を伏せるその横顔はほんのり赤く染まっていて。
そして俺の方にトンと寄りかかってくる。

「チャ…」

そんなひとつひとつにドキっとしているのも束の間で。
耳元に小さな唇が寄せられて、囁かれた。

「スキ、の反対をして欲しくなくないかもしれなくもない」

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