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02 プラトニックラブ


テストが終われば気分は晴れやか。

ダルい午前中だけの授業を適当にやりすごして待ちに待った放課後が訪れた。後ろを振り返ればちょっと席の離れたところにオレンジ色の頭をしたチャイナがいて帰り支度をしている。

付き合って二日目。
一昨日の昼まではただの友達だったチャイナ。

誕生日に告白などという柄じゃない事をして、晴れて彼女をゲットして。その時からもう頭はチャイナの事しか考えられなくなった。
とりあえずデートっぽく来週の花火には絶対に行きたい。健全な計画を立てているつもりが、いつしかやましい妄想に変わっていくのは男の性なので仕方ない。

だけど妄想と現実は違う事を思い知らされていた。

「チャイナ」
「…っわ!な何アル?」

背後から驚かせてやろうと思って声をかけたわけじゃない。普通に声をかけたつもりだった。なによりそこまでベタじゃない。
それなのにおもいっきり驚いた反応をするチャイナに俺まで少しびっくりした。

「帰ろーぜ?」
「い、今準備するネ。先行っててヨ」
「いやすぐ終わるだろィ?待ってるよ」

そういうと慌てるように荷物を鞄に詰め込むチャイナからはふわっと鼻を掠める甘い匂い。どんなシャンプーを使えばこんな香りがするんだろう。そう思いながらそれに吸い寄せられるように無意識にチャイナとの距離が縮まっていく。

ガタン。

その肩に触れてしまいそうなギリギリのライン、それに気づいてドキッとすると同時。ものすごい音がした。
よいしょと鞄をしっかり握りしめたチャイナが席から立ち上がったのだ。

「お待たせヨ」
「お、おう。じゃー行くかィ」
「…うん」

校舎を出ればミーンと鳴く蝉の声がガンガンと頭に煩く響いて、アスファルトからの照り返しがジリジリと暑かった。

「昼飯、食ってく?」
「そうアルな」
「何喰う?」
「え?うーん…なんでもいいヨ」
「そー?じゃマックにするかィ?」
「うん」
「…」

付き合って二日目。
まだ手は繋いでいない。
こうやって話している間でもチャイナはぎゅっと鞄を握りしめてガードは完璧。自然に手を繋ぐとか出来やしない。

だけどそれはまだいい。
まだ。
隣同士で並んで歩いているはずなのに、なぜか二人の間にはもう一人誰か入れそうなほどの距離がある。
最初は偶然かとおもった。だけど近寄ってみても、すすーっと再び開いてしまうひとり分の距離。
更にまた近寄ってみても、…の繰り返し。

なにこれ。
俺だけが舞い上がってるだけだったりて。告白して舞い上がって勝手にデートの計画まで立てたりして。この温度差悲しすぎるんだけど。

「…沖田」
「なに?」

小さな声でそういうチャイナはやっぱり鞄をぎゅっと握りしめて大人しくて。俺が知っていたチャイナとは別人のようだった。
そのままの状態で何かを悩んでいるように黙り込んでしまって。

「…やっぱりなんでもないアル」

ぼそっとそういうと俺から顔を逸らしてスタスタと歩きはじめてしまう。
なにこれ。絶対なんでもなくないだろ、何かあるだろ。
めちゃめちゃ気になるんだけど。
俺との距離を縮めたくない?手を繋ぎたくない?もしかして俺からそういう下心的なものが滲み出て引いていたりする?
もしかしたら付き合うことになって嬉しいのは俺だけだとか。コイツはなんだか訳が分からずに俺に流されているだけだとか。
つーか今気づけばコイツずっと俯いたままじゃねーか。

妄想が妄想を膨らませ超ネガティブな俺。
だけどそんなのは性に合わなかった。

あの角を曲がれば駅前通りにでる。そうすると目的のマックまであと少し。

「なんでもなくねェだろ」
「え?そんなことないネ!」
「じゃぁ、さっき言いかけたのはなに?」
「…」
「…、ル」

俯いたままのチャイナがの声が小さすぎて、聞きとることができなかった。

ふと見ればチャイナの耳が真っ赤。
こうしている間も容赦ない日差しが照りつけてきていた。この暑さに気分でも悪くなっていたりでもしたら…と心配になってしまう。返答がないのも気になるけど、早くこの場から移動してしまうことが優先となってしまった。

「とりあえず後でまた話は聞くから。早いとこマック行こうぜ?」
「あ、待っ―」
「こんな中じゃあっちーだろィ。ぶっ倒れんぞ」
「あの、ごめんなさいアル」
「…どういう事でィ」

前後で繋がらないそれに先程の嫌な予感が再び押し寄せてきた。
つぎの言葉を聞くのが怖かったけど。避ける事は出来ないのは間違いない。

「怒ってる…よネ?」

別に怒っているつもりはないのだけど。さっきから会話が少ないせいかそういう風に見えてしまっているのだろうか。
それだったら申し訳なく思うけど、だけどその前に確認したい事があった。
やっぱり気になることを胸の内にしまっておくなんて出来ない。

「別に怒ってねーけど。ごめんなさい、ってどういう意味?」
「それは…あの、」

そういうチャイナはものすごく言いづらそうに。チラリと俺の顔を見た。
これ以上は聞きたくないって思っていても避ける事は出来なさそうで、チャイナの口からそれを聞くくらいだったら自分で言ってしまった方が楽なのかもしれない。

「もしかして、俺と付き合うのは無しにしたいとかそういうこと?」
「え?!違う!そんな事ないヨ!!どうして…」
「どうして、って。だってチャイナ、」

慌ててそう否定するチャイナの反応は俺の予想とは遥かに違うものでちょっと驚いてしまったけど。
そしてチャイナの方に一歩踏み出すと、やっぱりびっくししたように鞄を握りしめて後ずさっていく。

「ほら、すぐ逃げる」
「それは…」
「目だってあんま合わせようとしねーし…本当は俺の事好きじゃないのかなって思っちまうだろ。俺だけが好きで舞い上がってるんじゃねーかって思っちま―」
「違うッ!…それは!近すぎる…から…凄くドキドキして恥ずかしいからに決まってんダロッッ!!…私だって付き合うのがこんな緊張するものだと思ってなかったし…ごめん」

顔を真っ赤にして捲し立てるようにいうチャイナ。こんな時にって思うけど耳まで赤くてすごく可愛かった。

「謝るんだったらさ、も一回好きって言ってくれる?」
「え」
「そしたら許してやるけど」

もちろん怒ってなどいないけど、さっき俺を不安にさせた罰って事でチャイにふっかけてみた。

「悔しいけど…大好きだコノヤロー」
「俺も大好き」

友達の時は気付かなかったこと。付き合ってみて初めて気づいた事。チャイナがこんな事言うなんて思ってもみなかった。
結構知ってる仲だと思っていたのに、だ。

付き合って二日目。
まだ二日目なのだ。

「…俺だって、結構ドキドキしてるんだけどなァ」
「嘘。そうは見えないネ」
「嘘じゃねーよ」

「だから、チャイナも…もう少し普通にしてくれると嬉しいけど」
「頑張る…アル」

逆に考えればこんなチャイナは俺しか知らないってことでそれはそれで嬉しくて仕方ない。彼氏の特権ってやつだ。
だからもっと一緒にいてもっとチャイナのこと知りたい。時間がかかるかもしれないけども。少しづつ近づいていけばいい。

「あ…そうだ、チャイナ。来週花火行こうぜ?」

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