一応脳内パンク警報発令!の続きとなってます。が、読んでなくてもいけるかもしれません。










いやいやいや。ありえない。顔を真っ赤にして珍しく取り乱した彼女なんて、初めて見た。しかしありえないのはそっちではなく、彼女が出て行った扉を見つめながらサンドイッチをむさぼり食う俺の隣の奴だ。



こいつ、さっき、何て言ったよ。




「おま、男鹿、自分が何言ったのか、判って」



「なんでお前まで驚くんだよ、俺そんな大したこと言ってねーけど」



「いやいやお前大したことだろ!だって、さっきのアレ、」




どっからどう見ても告白じゃねーか!




俺の叫びが屋上に響きわたる。他に人がいないのはラッキーだったかもしれない。いやそんなことより、男鹿の発言だ。




「こいつと付き合えるのは俺くらい」
「じゃなきゃお前に母親になれなんて言うかよ」




直接は言ってないが、これは間違いなく告白だ。アイラブユーって言ってるようなもんだ。え、男鹿が?ないないないない。いやしかし事実は事実。ただ喧嘩しか能がないような男鹿が色恋に、しかもあの彼女に。受け入れられん。というか、いつから?俺が知らないところで、何がどうなって男鹿が恋などに目覚めたのか。というか。




「つーか似合わねー!お前が、恋愛とか、ああもう鳥肌が」



「ほーう、そんなことを言うのはどの口だコラ古市が」



「ちょっまっギブギブ!首、締まる!」




羽交い締めにされ首をホールドされる。男鹿の俺よりたくましい腕をぱしぱしと叩くとようやく離してくれた。顔を見ても、いつものような凶悪そうな三白眼に眉間に皺。いつもと変わりない、デーモン顔。



普通は告白した女子に逃げられたら男は凹む。少なくとも俺はそうなる。じゃあ男鹿のこの態度は。




「お前、ショックとかじゃないわけ?」



「ん?何が?」



「いやだって、告った女子に逃げられるって」




相当なダメージなのでは。そう言うと、男鹿はぽかんとした顔で何で?とか訊き返してきた。いや、訊いてんのはこっちだっての。しかしこの反応はおかしくないか?告白後の男の態度ではない。いや、男鹿が照れたりするのも違う気がするというか見たくない。



これはアレか、男鹿のことだから大した意味もなく言った言葉を俺と彼女が過大解釈しただけなのでは。ありえない話ではない。だってはっきり「好き」とは言ってないし。母親になれとかって発言も子ども好きそうだからとか安直な理由で言ったに違いない。むしろそうであってくれ。




「ショックも何も、あいつが今更逃げようがなー。2年も待ってんだこっちは」




男鹿の言葉に、声が出なくなった。何だと、2年待ったって、それって。




彼女と俺らが同じクラスになったのが、中2の時。男鹿は、そのころから、彼女に恋してた、と。




「…何で俺に教えてくんなかったんだよ!」



「お前に言うと面倒くせーことになるからに決まってんだろ」



「だからってお前、2年前からって、」




ダメだ、思考が追いつかない。男鹿がそういうことに目覚めたのに気付かなかったことと、長いこと一緒にいた俺に何にも言ってくれなかったことと、ダブルでショック。それも核弾頭並の。




「…何でお前が凹むんだよ」



「…言ってくれたら協力くらいいくらでもしたのに」




そうして男鹿と彼女がひっつけば、俺もことごとく邪魔されてきたデートを成功させて彼女の一人でもできてたはずなのに。全く腹が立つ。というかもう情けない、自分が。恋だ彼女だと言い続けてきた自分が、まさか気付かないなんて。




「…だからお前に言ったらそーいう余計なことしそうだから言わなかったんだよ」




男鹿がぽつりと呟いた。見るとむすっとした表情なのに少し顔が赤い、ような気がする。何でそこで照れるんだよ、さっきまで普通すぎるくらい普通だったのに。




たぶんアレだな、恋バナの類なんてしたことないから、好きだけど、周りにやいやい言われるととたんに照れるっていう。素直に照れる男鹿なんて、レアすぎて気持ち悪い。むしろ普通に気持ち悪い。



しかし男鹿にやいやい言えるのも俺くらい。そうなら、俺が動かないで誰が動く。ここは優しい古市君が一肌脱いでやろうじゃないか。




「よし、追っかけるぞ」



「は、追っかけるって、古市」



「決まってんだろ、あんな中途半端な告白、魔王が許しても俺が許さん」



「いや、アレであいつは気付いてんだから他に何言うっつーんだよ!」



「もちろんストレートに好きですって言わすに決まってんだろ、ほら行くぞ」




男鹿を引っ張り上げて屋上の扉まで引きずる。抵抗すると思いきや、意外にも男鹿はおとなしく俺に引っ張られている。




「…何男鹿、お前イヤじゃないわけ」




男鹿に問うと、口元に手を当ててぼそりと答えた。眉間に皺は寄っているが、掌で隠れきれなかった頬の辺りは、ほんの少し赤く染まっていた。




「イヤ、っつーか…ちゃんとあいつの返事、聞きたいっちゃ聞きたいし」




なんだそれ。かわいい理由じゃねーか。笑いが止まらん。にやつく口元を男鹿を掴んでない左手で押さえて隠す。けど男鹿にはバレてしまったようでぎろりと睨まれた。が、顔がちょっと赤いし、普段ほどの怖さはなかった。




「てめ、何笑ってんだ」



「いやさ、友達の恋を応援するって楽しーじゃねーか」




ってのは半分は建前。今まで散々デートの邪魔されてきたんだ、少しくらいは仕返しさせろ。





したり顔キューピッド発生中!





やっべ、自分の恋愛より楽しいじゃんか、ある意味。
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