「そんな訳でお前、コイツもらってくれ」
「いやいやいやいや、ちょっと待とうか男鹿君よ」
何故か新学期から石矢魔高校の連中がうちの高校に通い出し、何故か中学時代のダチがその連中の中にいて、何故か片方は子持ちで、何故かその子供を押しつけられている今の状況って。
「マジで意味が分かりません」
「だから説明しただろーが、コイツは大魔王の子で」
「いやそっちは分かった。あたしが言ってんのはこの状況そのものだ」
昼休みが始まったとたんにいきなり拉致られ屋上で魔王だの悪魔だの聞かされて挙げ句の果てに子供やるって。もう訳分からん。タダでさえ石矢魔の連中とは関わるなってお達しが来てるのに。六騎聖に目付けられたらどーしてくれる。
「でもよく信じてくれたね、こんな話」
横で古市が感心したように言う。いやだってそりゃ電撃発する赤ん坊なんか人間じゃねーっつの。そんなん見りゃ信じたくもなるし。
「第一男鹿にこんな作り込まれたウソ吐くのは不可能だし、古市が突っ込まないなら本当なんでしょ」
「古市は俺のウソ発見器か」
「あれ、知らなかったんだ」
ざけんなてめーとか言ってる男鹿は放っといて、ベル坊なる魔王に視線を移してみた。じっと見つめていると何故か顔を赤らめて目をそらした。何照れてるんだオイ。
「アダー」
「どーしたベル坊、いきなりもじもじしやがって」
サンドイッチをむがむが頬張りながら男鹿が胸元にしがみついたベル坊の頭を撫でる。拉致られたせいであたしは昼ご飯食べ損ねてるってのに、本当に腹立つ奴。ベル坊はさっきからあたしをちらっと見てはダッとか声を上げて男鹿の胸に顔をうずめる。
「…もしかしてベル坊、千春ちゃんに一目惚れ、したとか?」
古市が呟く。赤ん坊に一目惚れされたとか。喜んでいいのかコレは。すると相変わらず恥ずかしがってるベル坊を男鹿が抱き上げて胡座の上に座らせた。
「そいつはやめとけベル坊」
「ダ?」
「そいつに惚れてもロクな事ねーよ、凶暴だし可愛げねーし頭だけムダにいーくせに口わりーし」
「何だとコラ」
「だからそいつと付き合えんのは俺くれーしかいねーよ」
…ん?んんん?
え、今コイツなんて言った。付き合えるのは、俺くらい、って。どーいう意味、だよ。
「おおおお前男鹿!何つー事口走ってんだ!」
古市が叫ぶように問うが、当の男鹿は真顔で答える。
「いやだって事実だろ?なあ笹木」
あたしの方を向いた男鹿。どこまでも真っ直ぐに。こんな冗談を言える奴じゃないのは知ってる、けど。男鹿は相変わらず真顔でまた口を開く。
「じゃなきゃ、お前に母親になれなんか言うかよ」
いや、それってまさか。冗談じゃないのか。顔に熱が一気に集まるのが分かった。
「…っもうマジで意味が分からん!馬鹿すぎて死ねもしくは馬鹿をこじらせて死ねハゲ!」
叫ぶように言い捨ててその場に背を向けてダッシュした。誰がハゲだお前が死ねとか怒鳴る男鹿に顔を見られないよう。
ああもう石矢魔の奴等が来てからロクな事がない。ひんやりとした空気の階段を駆け下りても、体にはわだかまった熱がこもったまま。どうしよう、どうしていいか分からない。
脳内パンク警報発令!
(理解の許容範囲を超えました)
次に会ったとき、どんな顔すればいいんだろう。ああもう、分からないことだらけだ。