どうして騙し通せると思ったんだろう。どうして何でもないふりをして、彼の横でいつものように笑えると思ったんだろう。
猫の細い目が私を射抜く。声にならない疑問が、喉の奥でつっかえていた。
「もっかい聞こうか?あの夜、あいつとどこに行ってたの?」
「なんのことか分かんな、」
「……いい加減にしときなよ」
ボリスの声が一層低くなった。それと同時に勢いよく壁に体を押し付けられた。衝撃で下を向いた頭をすくい上げたのは顎に掛けられた彼の右手だった。強制的に合わされた視線はまるで凍てつく氷のよう。
「……ボリス」
「ほら、さっさと吐けよ。あんたはあの夜、エースと会ってたんだろ?そんであいつに抱かれたんだろ?」
断定的に迫る口調にもう誤魔化すことは無理だと悟った。目の前にいる彼の顔が滲んで見える。涙を抑えきれなくなった私を見て、ボリスが舌打ちをした。きっと彼は分かってしまったんだろう。涙の理由が彼に追い詰められた恐怖ではなく、はたまた身体に受けた衝撃によるものでもなく。突きつけられた事実に対する、肯定だということに。だって彼はとても目敏いから。隠し通せるわけ、なかったのに。
「……よりによってアイツかよ、サイアク」
「ごめ、」
「今更謝られても。俺、あんたのこと結構大切にしてきたつもりだったんだけどなぁ…」
まさか浮気されるとは思わなかった。
そう呟いて、ボリスは切なげに眉を寄せた。やだ。やめてよ。なんで、そんな、表情。
「俺の気持ちはあんたに届いてなかったってことだよね。あんたのこと、どんだけ好きだって思ってソレを表現してもなんの意味もなかったんだね」
「…や、そんな、」