hp長編「牙の預言者」三番目 | ナノ


▼ ☆1-5


牙の預言者
1.真夏の凶報 5


「新学期の準備もあるから、私も最近ではすっかり忙しい身になってしまった」

 そう告げながらリーマスが足早に去ったあと、アルノーの所には吉報が訪れた。
 それはロンからの手紙に書いてあったのだが、どうやらアーサー・ウィーズリー氏が、ロンのパパが、「日刊預言者新聞主催ガリオンくじグランプリ」に当選したらしい。なんと、その賞金は「七百ガリオン」もの大金。
 ウィーズリー家に転がり込んだその大金で、ロンの家族はこの夏――八月からのほぼひと月を、エジプトで過ごすのだという。エジプトには、ウィーズリー家の長男のビルがいる。ビルは「グリンゴッツ魔法銀行」の「呪い破り」をしているという話は以前に聞いていた。
 ついでにではあるが、その金貨の残りで、ロンは――新しい杖を手に入れることが出来そうだ――と、手紙の隅っこに書いていた。アルノーたちが二年生になったばかりの昨年、学期が始まる前に、ロンは事故で杖をぽっきり折ってしまっていた。空飛ぶ車が墜落したときに、真っ二つに。だから、アルノーはそれを喜んだ。二つに折れて以来、ロンの杖は、度々魔法を逆噴射してしまう、とても危険な物に化していたのだから。
 八月の終わりには家族皆でロンドンに行って、買い物をしてからホグワーツに向かう――とも、ロンの手紙に書いてあった。その時に会えるといいな、と弾むような文字で記してあったので、アルノーは――早速スケジュールの確認をしないと――と、にやけ顔で思う。
 幸せな気持ちでロンからの手紙を読み終えようとしていた。けれど、手紙はまだ少しだけ続いた。

 ――そうだ!書き忘れる所だった!
 夏休みが始まった最初の週に、僕、ハリーの家に電話をしたんだ。そうしたら、ハリーのマグルの家族がカンカンになって電話を切っちゃった。パパが言うには、僕が"受話器"に向かって大声で叫んだのがいけなかったんじゃないかって。
 それからのハリーの安否が気になるところだ……けど、今は電話しない方がいいかもしれない……あのマグルは凄い大声で「もう電話をかけてくるな!」って、僕に怒鳴ったんだ。すごく乱暴に!
 ハリーが無事であることを、毎日祈ってるよ――

 アルノーは頭を抱えた。生粋の魔法使いであるロンこそ、三年生から「マグル学」を選択して、履修したほうがよかったらしい、と思いながら。

 そうして、ハリーの安否を祈りつつ過ごした数週間は、通信販売のカタログを眺め、大半を過ごしていた。それもこれも、なにもかも……ハリーの誕生日が来るからだ。楽しみで楽しみで、仕方がなかった。
 ハリーには何をプレゼントすればいいか、ずっと考えていた。やっと思い出した昨年度の記憶の中で、ハリーが――自分用のゴブストーンのセットがあればいいのに――と言っていたのを思い出した。ハリーはそのゲームが気に入りだった。とはいえ、ゴブストーン(ビー玉のような物を使う魔法界のゲームで、敗者に臭い液体を吹きかけてくる)を、ハリーは持っていなかったので、遊ぶ時はいつも誰かから借りていた。
 アルノーは通信販売の分厚いカタログを眺めながら、よし、と贈り物を決めた。立派な水晶や天然石で作られた綺麗なゴブストーンも数多あったが、持ち運びの出来る携帯式のゴブストーンにすることに決めた。これなら、きっとかさばらないだろうから、ホグワーツに持ち込みやすいだろうと思って。

 それから、また暫くが過ぎた。三十一日まである七月も終わり、八月の一日がやってくる。
ハリーはプレゼントを無事に受け取ってくれたかな――と、ぼんやりと思いながら、一階のリビングで「基本呪文集・二年生用」を読みながら復習して過ごしていると……庭側の大きなガラス窓の外から、窓をコツコツと叩く姿があった。
 この季節には似合いではない、雪のような真っ白な姿。コツコツ、とガラス窓をつついているのは、ハリーのふくろうであるヘドウィグだ。

「ヘドウィグ!?」

 アルノーが急いでそこまで駆け寄る。そして窓ガラスを開けてやれば、ヘドウィグはひょいっと部屋の中に飛び込んできた。しかし、アルノーはヘドウィグよりも気になる物があった。今しがたヘドウィグがいた場所、ヘドウィグの足元だった場所に、恐らく携えてきたのだろう手紙が転がっているのを見つけた。
 くしゃくしゃの紙くずみたいになっているそれには、ボールペンで走り書きがしてあった。


 ――アルノーへ。

 突然だけど、今日から一週間のあいだヘドウィグの面倒を見てやってほしい。ダーズリーの親戚が今日から来ることになって、大人しくしてないといけないんだ。ロンはエジプトだし、ハーマイオニーもフランスにいる。だから、君しか頼れる人はいないんだ!
 追伸、誕生日の贈り物をありがとう。これ、ずっと欲しかったんだ、すごく嬉しいよ。ホグワーツでまた一緒に遊ぼう。今度は絶対に負けないから覚悟しといて。

 ハリーより――


 アルノーは、どうやらハリーにまたひとつの試練がやってきたのだろうと察した。なにせ、彼の大事なペットであるヘドウィグを手放さないといけない事態なのだから。

「ヘドウィグ、お前の主人は大変だな」

 そう告げるアルノーをヘドウィグはきょとんとした丸い目で見上げてくる。ダイニングの椅子(いつもアルノーが座っている席)の背もたれのてっ辺にすっかり居座っていて、主人の命令通りに暫くをここで過ごすつもりでいるのだろう。
 たしか、昼食に食べる予定の、チキンのサンドイッチがあったよな――とブツブツ言いながら、アルノーはヘドウィグにそれを分けてやることにした。時刻はもうじきに正午を迎える。

「ヘドウィグもお腹空いてるだろう?」

 アルノーが問い掛ければ、ヘドウィグはホーッと小さく鳴いた。
 それから、ヘドウィグは椅子の背もたれが気に入ったらしく、大人しくそこで佇んでいた。アルノーは少し早めの昼食をヘドウィグと食べ、そしてソファに戻って、今度は「魔法史」の宿題を早めに片付けてしまおうと思った……そんな時だった。
 ヘドウィグが、ホーッとひと鳴きした。

「ん?」

 顔を上げると同時に、ジリリリン、とドアベルが鳴った。どうやらヘドウィグは誰かの来訪を予知していたらしい。アルノーは急いで玄関に向かい、そして扉を開ける。
 すると、そこにはセブルス・スネイプ教授が立っていた。ホグワーツ魔法魔術学校で「魔法薬」の授業を教えている彼は、いつも通りの相変わらずの真っ黒いローブを身に纏い、髪も黒で瞳も黒で、何もかもが黒だった。唯一黒くないのは彼の土気色の肌だけだった。

「こんにちは、スネイプ先生」

 いかにも怪しい彼に、アルノーは爽やかに挨拶をする。
 アルノーは大分、彼とのやりとりに慣れていた。スネイプを仇敵のように見ているハリーとロンからすれば、スネイプと上手くやれるだなんて、到底不可能と思われそうだ。いや、不可能どころか、「仲良くするなんて、とんでもない!こちらから御免こうむる!」と言われそうだ。
 それに、スネイプはスリザリン生以外にはやたらと厳しく、監視の目を光らせてはねちっこく減点をして回る……なので、アルノーもそれなりに嫌な奴だと思ってはいたが……スネイプは、アルノーの生母ポラリスとは仲が良かったらしいから、アルノーはスネイプとはそれなりに仲は良好な方だと――思いたかった。
 そのスネイプは、アルノーから目を逸らしながら、腕をスッと差し出した。そこには一通の、厚みのある手紙があった。

「ホグワーツからの手紙を預かっている」
「ありがとうございます。中に入りますか?……母は仕事に行ってるんですけど、お茶くらいは――」
「いや。それには及ばん」

 スネイプは手紙を掲げ、アルノーに受け取らせながら言う。

「今年はより多くの脱狼薬を作らねばならなくなった」
「あー……なるほど……」

 アルノーは思わず苦笑してしまう。近年になって出来たという「トリカブト系脱狼薬」は、作るのが難しい。並大抵の魔法使いや魔女には作れない貴重な薬品だ。今年からリーマスがホグワーツで教鞭を取るのなら、きっとその薬も必要性が増し……そして、その薬をホグワーツで唯一煎じられるのだろうスネイプの手間も増える……ということらしい。

「お忙しい合間に、すみません……」
「……構わん」

 スネイプは「それでは、失礼する」と短く告げると、「姿現し」という高度な魔法(一瞬にして土地から土地へ移動できる)で、瞬時に姿を消してしまうのだった。


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2015/03/16
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