P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ☆11-2


Heart Throbs
11.弾むこころ 2


 結局、あいの家で来週末に「テニス」を行うことになった。
 里中千枝よりも立派な脚線美を披露するには、多少はしたないとしても肌を露出するのがいい。更には親睦を深める為の心身の触れ合いを求めるのであれば、それが一番いい。スポーツというオブラートに包まれて、肌の露出もそれとなく清々しく思えるであろうし。ちなみに、あいの家には屋外プールもあるのだが、それは「まだ寒いからムリ」と、あい本人が棄却していた。
 早速、翌日の月曜日の昼休み、莉里は悠を屋上に呼び出して、相談を持ちかけることにした。あいからの命令では、先ず男子である悠に声をかけて、それから大本命である一条康と、彼とよくつるんでいる長瀬でも適当に誘って来いという話であった。
 昼休みの時間になると、莉里は屋上でお弁当を広げながら悠に話を打ち明ける。莉里がかくかくしかじか、と話せば、悠は普段のポーカーフェイスの上に驚きを浮かべていた。

「エビ、一条の事が好きだったのか……」
「そうみたい。一条君って部長さんだし、しっかりしてるし、惹かれるのも分かる気がする」
「天柄は一条が好みなのか?」
「そ、そういうわけじゃないよ!?」

 莉里は自分の好みの話はこの際どうでもいい事だとして、話を進める。

「という訳で、鳴上君は一条君と長瀬くんと、今度の日曜約束できちんと誘ってきてね」
「ああ、分かった。今のところ、女子はエビと天柄の二人と、男子が俺と長瀬、一条の三人か……人数はどう合わせるんだ?」
「うっ、痛いところを」

 くらりとよろめくような仕草を見せた莉里は、実は人数を合わせる役目も担っていた。誰か女子を一人か二人程度集めてきなさいとも命じられていたのだ。

「テニスできる女子、集めてこないといけないんだよね」
「テニスが出来る女子か……里中と天城は今回の件では誘い難いしな」
「そうなんだよねぇ……」

 今年度になってからこの高校に転入してきた莉里にとって、里中千枝と天城雪子以外には、女子で親しい友人がいるわけでもない。誰を誘えばいいのか途方に暮れかけている莉里に、悠はそういえば、と声をかけてきた。

「天柄はいつも、テレビの中に行く時は武器をテニスラケットのケースに仕舞っていたよな? テニス、出来るのか?」
「ああ、うん、前の学校ではテニス部だったから。できるよ」

 莉里はやや得意げに笑ってみせた。

「鳴上君は? テニスは経験者?」
「テニスは少し……といっても中学の授業でやった程度だから、本当に少しな。けど、その時は結構い感じだったから――」
「なら、鳴上君のテニスにも期待しちゃおっかなー?」
「なになに? テニスするの?」

 二人で和気藹々と話をしていた矢先、突然誰かの声がした。慌てて声のした方を向けば、そこにはカップ麺を抱えた里中千枝、そして天城雪子の姿があった。莉里と悠は血の気が引いたような感覚がした。何故なら、聞かれてはいけない、誘ってはいけない相手がこの話を聴いていたのだから――。

「お隣失礼しまーっす」
「お邪魔するね」

 千枝と雪子も屋上で弁当を広げていた莉里と悠の横に座った。

「今日は天気いーから、お湯貰ったら屋上行こうって、雪子と話してて。いやー、偶然っすねえ」
「それで、テニスの話してたの?」
「あ、えーっと、うん、テニスの話だけど……」

 悠が沈黙している横で、莉里が取り繕うように笑ってみせれば、「いいね!」という声が上がる。

「テニスっていうと、空いてるコート使って休み時間に試合する人、いるよね」
「千枝もたまに誘われてやってるよね」

 雪子がそう言うと、千枝は「うん」と元気よく頷いた。

「うん、テニスって結構体使うから、いい運動になるし、ウデとか鍛えられるし。でさ、どっかでテニスするの?」
「あー……う、うん、あいちゃんちで……」

 あいの名前を出すと、千枝も雪子もきょとんとした顔をする。

「あいちゃんって、海老原さん?……あ、そっか、たしかバスケ部のマネージャーしてたよね? 親しいんだ?」
「うん、あいちゃんとはこないだも沖奈に買い物行ったり、した」
「そっかそっか。で、テニスやるの? テニスするなら私もやりたい!」

 千枝は屈託の無い笑顔で、きらきら輝く瞳で言う。なんとも断り辛い雰囲気が漂ってしまうが、それよりも、莉里は千枝がテニスをそんなに好いているのかどうかが気になって仕方がない。だから、千枝に思わず「千枝ちゃん、テニス好きなの?」と訊ねていた。

「んー、好きっていうか、楽しいじゃん?」
「千枝、それ、好きっていうんじゃない?」
「あーそっか、そうだよね……うん、好き好き」

 えへへ、と笑った千枝は、体を動かすのが好きという以上に、テニスが好きであるらしい。莉里も長年テニスを愛して勤しんできた身として、テニスを好きだという千枝に好感を覚えていた。

「それで、いつ? あいちゃんちでやるんだよね?」
「あ、うん、次の日曜なんだけど……」
「オッケー、オッケー、次の日曜日ね」

 千枝はすっかり、あいの家に来る気でいるらしい。何とも断り辛い雰囲気だと思っていると、雪子もまた「千枝がやるなら、私も行きたい」と言いだした。しかし、そこは控えめな雪子らしく、「迷惑じゃなければ」と付け足す。

「突然押しかけて、迷惑じゃないかな?」
「え?……あー……でも、テニスって皆でやると楽しいから良いんじゃん?」
「そっか、そうだよね」

 雪子の疑問に何故か莉里や悠ではなく千枝が答えるかたちとなってしまった。しかし、これで完全に断り辛くなってしまったのは確実だった。確かに、千枝の言う通り、テニスは皆でわいわいやるからこそ楽しい。少人数でやるのもそれはそれで楽しいかもしれないが、相手がいてこそのテニスであるし、ダブルスを組んで遊べば、その楽しさは更に増すというものだ。
 千枝は意気揚々と、カップ麺のふたをペリペリと外しながら言う――。

「折角だし、テニスするならスコート? 用意したいよね! あとラケットかぁ……いくらするのかな」
「あー……テニスウェアとかラケットなら、私の予備にお古もあるけど?」

 莉里がそう言えば、「本当?」と、千枝はパアッと明るくした顔を上げた。

「天柄、いいのか……?」

 ヒソヒソ声で悠が莉里に囁く。けれど、千枝も雪子も乗り気なのだ。ここで断って無碍に扱っても、かわいそうだと思った。

「大丈夫だよ、あいちゃんもテニス上手だって言ってたから……プレーを見せ付けられればきっと……なんとかなるよ、たぶん……」

 莉里もひそひそ声で言えば、悠はまだ多少心配しているようだったが、仕方ないと諦めてくれたらしい。
 そうして、日曜日のメンツは――いつもの特捜本部の面々が、あいの家に来ることになるのだった。


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2016/06/03
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