P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ☆3-4


Heart Throbs
3.醒めるちから 2


 陽介と悠の後ろから、莉里と千枝がついていくこと。そして、前には出ないこと。
そう忠告を受け、そしてそれを呑んだ莉里と千枝は、店内をぐるりと見回した。それぞれ自分に扱えそうな武器と防具を品定めして、いかにも職人気質そうな主人の所へ持って行く。身を守る物は兎も角、武器って必要なのかな――と、少しばかりテレビの中の世界に不安を覚えつつ。
 その時に、莉里は手持ちの現金がそう多くは無かったことに、少しばかりの焦りを感じた。こういういざという時の為に、何に使っても良いようにと、桐条美鶴からクレジットカードを渡されていた莉里だったが、まさか武器や防具を購入する為に使いましたなんて弁明など、次回美鶴と話す際に出来るわけもない。そう思い……結局自腹で購入した。(食費に取っておいた五千円札が飛んで行った。)
 軽い片手剣、ショートソードとベストを購入した莉里は、千枝の選んだシューズと防具とを見せあいっこをして、男子の買い物を待つ。

 陽介は何を買ったらいいのか相当迷っていたようだった。莉里が、過去にシャドウという名の敵と戦った経験を生かして陽介に似合う武器を見立ててあげようかと思ったが、そう思った次の瞬間には、陽介が悠に助けを求めているのが見えた。
 悠は素早そうな陽介に見合った武器をちゃんと選んでやっていたし、防具もしっかり購入しているようなので、莉里はぼんやりそれを眺めるだけにとどまっていた。
 意外に時間がかかっている男子陣に、既に店内も見終えていた千枝が、早く雪子を探しに行かないと、と声をかける。

「こっちはもう買い終わったよ。そっちは?」

 こっちも選び終わった――と、悠が答える。購入した物を抱えて、それぞれが店の入り口から出ようとした瞬間に、陽介がアッと声をあげた。

「つか、あのさ……俺らここで武装しちゃったらまた警察連れてかれるよな? かと言って、ジュネスん中、こんな物騒なモン提げて歩けないし……」
「制服着ちゃえばよくない?」
「そうだね、制服って結構ゆったりしてるし、上から着込んじゃえば……結構分かんないね」

 莉里が千枝の言葉に頷いてそう声を放つと、男子陣もそれに納得してくれた様子を見せ、そして「んじゃさ」と陽介が切りだす。

「んじゃさ、一旦解散して準備しようぜ。夕方のセール終わんないと店も混んでるし、警察いたら、四人一緒じゃ目立つだろ」
「じゃあ後で、ジュネスのフードコートに集合だな」

 悠の言葉に頷いて、四人はそれぞれ家で準備をしてくることになった。
 悠は、すぐ近所に住んでいる莉里と一緒の方向に向かう……と思われたが、悠は不意に"だいだらぼっち"の店の脇に目をやると、莉里に向けて短く、先に行っていてくれと告げた。一瞬、悠の立ち止った場所に何か真っ青な色の物体が見えたような気がしたが、莉里が目をこすって瞬きをした次の瞬間には、そこはただの壁があるだけで何も無い。
 今のは何だろう?、と莉里は思ったが、悠に頷いて、何も無い壁の前からすぐに立ち去った。

 程なくして自宅に帰って来た莉里は、すぐに制服に着替えた。買ったばかりの怪しげな防具の上に冬服を着こんで、よし、と気合を入れると莉里は部屋から出て行こうとした。
 しかし、ハッとしてすぐに歩みを止める。莉里は自分の鞄の中に放り込んだままになっていた"召喚器"の存在を思い出した。大型シャドウなどの強敵との戦いが終わり、ペルソナを呼びだす必要が無くなった今、その銃が必要になる事は無いと思っていた。
 特別課外活動部が解散になる時、桐条美鶴は――これからの生活、新しい世界に巣立っていく私達が、いずれ人生の色々な困難に立ち向かうことになった時に、この銃を見て、各々の決意を思いだせるように――と、告げた。そう告げて、皆に召喚器を渡したままになっていた。
 今、私は友達を助ける決意をするよ――と、莉里は頭の中で思う。そして、ホルダーと共に召喚器を持って、ギュッと抱きしめる。ペルソナを呼ぶ必要も無くなって、もう一人の自分であるその存在から離れて久しい莉里が、今もまだペルソナを呼べるかどうかなど、分からない。
 けれど、その銃を持っている限り……かつて自分を守ってくれた、結城理という青年が、莉里のことを守ってくれるような気がした。
 莉里は銃を入れた学生鞄と、ショートソードを隠したテニスラケットのケースを担ぐ。そして、玄関にトトトッと駆けていくと、誰もいない家の中に――行ってきます――を告げた。


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 その日の午後は晴天で、気持ちのいい青空が広がっていた。フードコートに向かうと、悠以外の二人……千枝と陽介が既にそこで待っていた。

「制服、日曜だから、ちょっと目立つな」

 そう言ってへへっと笑った陽介は、これから雪子を助けに行くというのに、結構楽に構えているようだった。
 それを見て、緊張して動けなくなるよりは、いいかもしれない――と思う。少し緊張していた莉里も、自分の緊張をほぐすべきかと思って小さく笑うと、悠も姿を見せた。

「もうじきタイムセール終わるから、人も少なくなるはずだ」
「……そろそろ行くか」

 陽介、そして悠の言葉に頷くと、莉里達は家電売り場に向かう。テレビの前に立つと、莉里の体は少し緊張の色を見せた。先にテレビに入った事のある三人はともかく、今回が初めてとなる自分も無事にテレビの中に入れるかどうか、不安に思えてきたのだから。

「里中、それに天柄さん、やっぱりさ……」

 陽介が付いて来るなと言わんばかりのオーラを放っている。

「行くからね!」
「ここまできて置き去りなんて、嫌だよ」
「……絶対、無理すんなよ!?」

 そう言うと、陽介は先に入ると言って、テレビの中に手を突っ込んだ。すると、その手はテレビの中に突き刺さり……そして、陽介の体はテレビの中に消えていった。千枝もまた、陽介に倣ってテレビの中に侵入を果たす。
 次は、自分か、それとも鳴上くんか――と、莉里がわたわたとしていると、悠は先に莉里を行かせようと、莉里の背中をそっと押した。

「天柄さん、テレビの中に行くのは初めてだったよな」
「う、うん、そうだよ」

 悠は「大丈夫だ、俺が見てるから」と告げる。莉里は勇気を振り絞り、うんと頷いて、手と足をテレビの中に突き刺した。見事にテレビの中に自身の体が入った瞬間には、莉里もぎょっとしてしまったが、通りかかった人に見つかる前に早く中に入ってしまわないといけないと思ったので、一気に飛び込むようにテレビの中に入った。
 落ちていく感覚が、莉里の体に走る。そして――。

「……いたっ!」

 どさっ、と尻餅をつきながら、見事とは言えない着地をした。
 いてて、と腰の辺りをさすりながら、莉里はゆっくり立ち上がる。深い霧の中にいるような、もしくはスモークの炊かれたような周囲の視界の悪さに目をやっていると……こっちこっち、と千枝が手招きしていた。
 急いでその場を退くと、上から悠も降ってくるように現れて、莉里は――そのまま立ち尽くしてたらあぶなかった――と、衝突してしまいそうだったことに若干のひやりとした感覚を覚えていた。

 莉里と悠が、その空間の隅っこに急いで駆け寄ると、ひとつの塊が目の前にどんと現れた。それは着ぐるみの可愛らしいクマだった。


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2011/09/15 初出
2014/07/01 再投稿
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