P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


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Heart Throbs
1.めぐる季節 3


 悠と一緒に話している内に、あっという間に、高校の正門にたどり着く。
 途中、学校前の交差点で自転車通学の男子(傘をさしながら運転していた)が、思いっきり電柱に激突したのを目撃してしまい、可哀想に思ったりもしたのだが……悠が「そっとしておこう」と言うので、莉里もそっとしておくことにした。
 校門の付近には桜が植えられていて、今が盛りとばかりに咲いている。淡いピンク色の花弁の群れは、晴れの日に見れば、きっと見事だと思うに違いない。

「桜、この雨で散っちゃうかもしれないね」

 莉里が残念そうに言えば、悠は「そうかもな」と、頷いた。
 今日が登校の初日なので、莉里はまずは職員室に顔を出さなければならない。それを莉里が告げると、悠も同じだと言うので、一緒に職員室に向かう。
奥まった場所にある職員室の入り口で出くわした教員が「諸岡先生、転校生が来ましたよ!」と、担任になるらしい教師の名前を呼んだ。そして、その諸岡というらしい教諭が、莉里達の前に姿を現す。

「おはようございます、よろしくお願いします」

 莉里と悠が一緒に先生に挨拶をすると、ちょっとひと癖ありそうな風貌をした教師・諸岡は「よろしい」と、二人が挨拶をしたことに対して告げる。

「まずは体育館で集会がある。そこでは一切私語をするんじゃないぞ」
「は、はい……」

 やっぱり、ひと癖ありそうな先生だ――と、莉里が思いながら、これから始まる集会の為に、体育館へ向かう。そしてその集会が終わると、再び莉里と悠は諸岡の所へ向かう。

「よーし……私語はしていなかったようだな。クラスへ向かうが、その途中も一切喋るんじゃないぞ。廊下は静かにだ!」

 どうやら規律に厳しい先生らしい。莉里が、上手くやっていけるかな、と一抹の不安を抱きながら、悠の方をちらりと見ると……彼はしれっとした様子で、諸岡に臨んでいた。どうやら、おどおどしかけている莉里とは違って、悠はかなり度胸が据わっているらしい。
 そうして連れられて行った教室に、二人並んで入る。ガラガラ、と音を立てて開かれた扉の向こうから、一斉に、莉里達の方へ視線が浴びせられた。

「静かにしろー!」

 諸岡の声が響き渡ると、教室内が一瞬だけざわりとざわめく。聞き間違えでなければ、そこかしこで、ゲッ、という下品な声も聞こえた。教壇の方向へ向けられている視線も、なんだか痛々しい。どうやら、この教師……生徒達にはかなり嫌われているようだ。
 生徒達が皆、ダルそうに、けれどサクッと席に座ると、諸岡は声をあげる。

「今日から貴様らの担任になる諸岡だ!いいか、春だからって恋愛だ、異性交遊だと浮ついてんじゃないぞ」

 貴様らには特に清く正しい学生生活を送ってもらうからな!――そう声を浴びせる諸岡に、反論するような勇者は、流石にいない。皆が諸岡から視線を逸らしたり、憂鬱そうな目を、莉里たちのいる教壇に向けている。それらの様子から、このクラス、なかなかのくじ運が悪いクラスらしい。転校してきたばかりの莉里ではあったが、そのことはすぐに察知した。

「あー、不本意ながら転校生を紹介する。ただれた都会から、へんぴな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴らだ」

 諸岡の説明が、いちいち癪に障るのは気のせい……ではないらしい。クラスメイトとなる生徒みんなの目が若干死んでいるか、もしくは刺すような刺々しい視線であるかのような気がした。
 諸岡はそんな視線に構う暇もないのか、それとも気づいていないのか、続けて喋る。

「……いわば、こいつらは落ち武者だ、分かるな?では、鳴上から、簡単に自己紹介しなさい」
「誰が落ち武者だ」

 その一言で、一瞬で、クラスの中が凍りついた。が、莉里は勇気ある悠の発言に、おー、と声をあげてしまう。生徒達の丸い目が向けられているのに気付き、莉里はすぐに口を閉じたので、諸岡に気づかれずに済んだが……鳴上は、諸岡からの怒りを買ってしまったらしい。

「む……貴様の名は『腐ったミカン帳』に刻んでおくからな……。次、天柄」
「え、えっと……天柄、莉里です。よろしくお願いします」

 莉里の自己紹介は、ごく自然に、普通に終了した。諸岡は手に出席簿を持ちながら、よし、と告げる。

「忠告しておくが……ここは貴様らがいままで居たイカガワシイ街とは違うからな。いい気になって異性の生徒に手を出すんじゃないぞ!……と言っても、最近は昔と違って、ここいらの子供もマセてるからねぇ。どーせヒマさえあれば、ケータイで出会い系だの何だのと……」

 諸岡の熱弁は続いているが、それに耐えかねたのか、ぼーっと立っているだけの莉里達を不憫に思ったのか、一名の女子がサッと手を上げた。
 そして、莉里達をちらっと見てから、せんせー!、と声を上げた。

「転校生の席、このへんでいいですかー?」
「……あ?そうか。よし、じゃあ貴様らの席はあそこだ。」

 元気のよさそうな女子のナイスフォローに、莉里は若干の感動を得ながら席に座る。先程莉里達の席について提言してくれた女子の真後ろの席に腰掛ける。ちなみに、鳴上悠の席は、麻緒の左斜め前の席だ。
 悠とはそう遠くはなく、むしろ近い席になったことに莉里は嬉しく思っていると、隣の席に座っている男子が、ひそひそ声で莉里に話しかけてくる。

「天柄サン、だっけ?一年間よろしくな……俺、花村な。花村陽介」
「うん、花村くん、よろしくね」

 莉里もひそひそ声で声を掛けると、陽介はニッと微笑んだ。


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2011/04/23 初出
2014/07/01 再投稿
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