P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ☆1-2


Heart Throbs
1.めぐる季節 2


 田舎の高校だけど、結構制服はなかなか良い感じかも――と、思ったのは、数日前にサイズ確認の為に制服を試着した時のこと。
 それ以来袖を通していなかった新しい制服を身につけると、莉里は仕上げにと黄色いスカーフを結ぶ。そうしてきっちりと制服を着こなした自分自身を鏡に映しながら、莉里は、よし、と気合を入れた。
 美鶴の手配した彼女の使いの者が、莉里の体のサイズを余すところなく測っていったせいか、制服はピッタリすぎるほどにピッタリ(今後成長するだろう分はゆったりと作ってあるが)、莉里の細身の体を包み込んだ。
 莉里は誰もいない家の玄関で、いってきます、と一言告げて、家を後にする。

 今日は四月の十二日。初めての登校日にして、始業式のある日だ。
 初日から悪い天気になったことに、不運だな、と莉里は思う。その天気は、雨。莉里はビニール傘を広げながらの登校になった。

 数日前まではぽつりぽつりとしか人影の見えなかった、田舎の川辺の道。
 その河川敷には、今日の朝は莉里と同じ制服に身を包んでいる学生が、ぞろぞろと歩いていて、学校へ向かっていく。目的地は皆同じ、八十神高校だ。莉里もその流れに乗って、とことこと歩いて、ひとりで高校へ向かうのだが……。
黒い制服の中に、黄色い傘をさし、ランドセルを背負った小学生がいた。すぐにその赤と黄色の色が目に着き、莉里が前方のそのまぶしい色をじっと見つめる。
 すると、そのランドセルを背負った少女が突然振り向いて、莉里の方、後ろの方向へと駆け足で向かってきた。
 すぐに避けようと思った莉里だったが、ほとんど目の前でくるりと振り向いたそのランドセルの少女に、莉里はつい、衝突してしまった。

「わっ!」

 ぶつかった方、ぶつかられた方、どちらともなく大きな声を上げてしまう。その際、莉里は咄嗟に小さな体を抱きとめたので、赤いランドセルを背負ったその少女は転ばずに済んだ。
 衝撃で落としてしまった傘を急いで拾い上げるが、少し濡れてしまった。
 少女の黄色い傘も落ちてしまったので、一緒に拾って、莉里は傘を渡してあげようと、すぐにその少女へ傘を差し出したが……少女のその見覚えのある顔立ちに、莉里は、あっ、と声を放った。

「大丈夫?……って、菜々子ちゃん?」
「あっ……お姉ちゃん!」

 菜々子は顔を赤らめながら、莉里から離れる。
 莉里が「怪我はない?」と、聞くと、菜々子はうんと頷いた。

「大丈夫か?」

 菜々子のすぐ背後に立っていた、八十神高校の制服を身に纏った男子が、心配そうに菜々子に声をかける。そして、うん、ともう一度頷いた菜々子は、恥ずかしそうに、頬を赤らめた。

「菜々子ちゃん、おはよう――えっと、菜々子ちゃんも、学校に行くの?」

 莉里が改めて菜々子に挨拶をすると、菜々子は再度、うん、と頷く。

「ななこは、えっと、『こうこう』までのみち、おしえてあげたの」

そう告げて、菜々子が、グレーの髪をした男子生徒と顔をちらと見合わせた。

「そうなんだ、偉いね……えっと、あなたは――、」
「俺は、鳴上悠。菜々子の従兄だ」

 その男子生徒は、鳴上悠(なるかみ・ゆう)、と名乗った。なので、莉里も彼に向けて、自分の名前を名乗った。

「私は……天柄、莉里。堂島さん、菜々子ちゃんとはご近所なの」

 ね、と言うと、菜々子はちょっぴり照れながら、嬉しそうに、うんと頷く。

「えっと……菜々子、こっちだから。おくれちゃうから、またね」
「ああ。ありがとうな」
「菜々子ちゃん、またね」

 ばいばい、と言った菜々子に、またね、と告げて、そこで別れた。どうやら、莉里の向かおうとしている高校と、菜々子の通う小学校とは、別々の方向にあるらしい。

「天柄さん」
「えっ、あっ、はい?」
「俺達も遅刻するから……」

 行かないか?――と、告げる鳴上悠に、莉里は急いで頷く。そして、河川敷を二人一緒に並んで歩いて行く。莉里も悠も、一緒に行こう……とはハッキリ言わなかったのだが、なぜか、成り行きでそのまま並んで歩いていく。
 ちら、と莉里が悠を見上げると、悠は無表情に、まっすぐ前を見ながら歩いている。菜々子と莉里がぶつかった時もほぼ無表情だったので――もしかしたら、彼はポーカーフェイスの持ち主なのかも――と、不意に思った。
 そんな風に、隣を歩く悠を黙って観察、そして色々と彼について考えを巡らせるだけ……というのも気まずい気がして、莉里は何か話題をと思い、どきどきしながら、彼に声をかける。

「えっと、鳴上くん?」
「うん?」

 そういえば、引っ越しの挨拶をしに行った時に、菜々子の父が――俺の姉の息子を預かることになっていて――と、話していたと、莉里は思い出す。もしかしたら、それが彼なのかもしれないと思って、莉里は彼にその事を聞いてみることにした。

「鳴上くんは、最近引っ越してきた、とか……?」
「……よく分かったな」

 ポーカーフェイス風の男子だと思っていたけれど、感情ははっきりしている方らしい。彼が驚いたように目を開いて告げるので、悠に対して「この間、堂島さんから親戚の子を預かるって聞いたから」と、告げれば、悠は成程と頷いた。

「天柄さんは、ずっとここに住んでるのか?」
「ううん。私もこの春に引っ越して来てね、八十神高校の二年生なの」
「そうか……俺も二年生だ」

 同じだな――と、告げながら、悠は小さく微笑んだ。先程からずっとポーカーフェイスを見せていた彼だったので、不意に見せられた笑顔に、莉里は不意にどきりとしてしまう。

「転校生同士だな。よろしく」
「う、うん、よろしくね」

 莉里もまた、悠にヨロシクと微笑んだ。


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2011/04/21 初出
2014/07/01 再投稿
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