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kobakoまとめ *2022.8月号-a
・kobakoにてプチ連載をしておりました「主従とりかへばや物語」のまとめです。
・ほぼ会話文。series本編時系列とは関係なし。
・もし魔族長と体が入れ替わっちゃったら、というお話です。



「んむ、朝……」
「(あれ……何か今日、やたら腕綺麗……? ていうか、前髪、すごく顔にかかってる……)」
「(ん……なんでマスターの足がここにあるの……?)」
「…………」
「……、……え?」

 *

「…………」
「──ッやっぱり! 私の体!!」
「…………」
「あ、あのえっと……そこにいる、リシャナさん……?」
「…………」
「体の中に入ってるのは……その、ギラヒム様、ですよね?」
「…………」
「あ、あれ? 無視……? ていうか何して……へ、」
「……むん」
「って……何自分で自分のおっぱい揉んでるんですかッ!!?」
「チッ、朝から鬱陶しい。ワタシの美声で喚くのなら、透き通った歌声だけにしろ」
「全くもって意味がわからないんですけど何でマスターはそんなに冷静なんですか!? ていうか何でそんなに真剣に私のおっぱい揉んでるんですか……!?」
「目覚めてまず目に入ったのがお前のこの貧相な体だったのが悪い。ワタシの優雅なる朝を邪魔した罰だよ」
「ごめんなさいマスター……ただでさえ訳の分からない状況なのにさらに何言ってるかわからなくて私マスターの体で泣きそうです…………」

 *

「ああ……本当に素晴らしいね……」
「…………」
「次は腕を上げて……、ッああ! なんて美しい曲線を描いているんだ……!!」
「…………、」
「ッはぁ……堪らない……まさかこの煩わしい状況でこんなに貴重な機会が得られるとはね……!! さあ、次は背中を見せてもらおうか……!!」
「…………」
「ああ!! なんて瑞々しい肌をしているんだろうね!!? まさにこれが、究極美!!」
「………………」

 ──主従の体が入れ替わった後、約三時間。
 ギラヒム様の体に入った私は大興奮する自分(中身は主人)に命じられるまま無心でポーズを決め続けたのでした。

 *

「それで? この状況をお前はどう申し開きするというのかな?」
「……私のせいじゃないですし、あんまりにも大興奮する自分の顔を見せられすぎてそんな気分にもなれないです」
「ッフン! むしろそのだらしない顔を自覚出来る機会を与えてあげた主人に感謝をしてほしいものだね?」
「私の顔で鼻鳴らしてドヤ顔しないで下さいよ。いつも生意気って言われる理由、若干わかっちゃう気がするので……」
「お前こそ、いじけていると見せかけて先ほどからワタシの膝裏を撫で続けているだろう。隠し通せているとでも?」
「……せっかくの機会なので普段触ったら蹴り飛ばされるところを重点的且つ念入りに触っておこうと思いまして。……この体なら蹴られることもないですし」
「……どうやら、お前の凡庸な精神は元に戻った時のことを考えていないようだね?」
「ひっ……!!」

 *

「ていうか、誰が何のためにこんなことしたんでしょうか。……自分で言うのもなんですけど、私もマスターもなんだかんだ今の状況満喫しましたし」
「さあね。どうせ、そんな知性も持たない下等な生物の仕業だろう」
「……すごく興味なさそうですけど、犯人探さないとずっとこのままですよ?」
「そんなことはわかりきっている。だから今から探すのだろう?」
「……誰がどう、探すんですか?」
「決まっているだろう。お前が、全力で、探せ」
「えー……やっぱりそうなるんです……? マスターも一緒に探しましょうよ。その方が早いですって」
「ワタシの肉体で頬を膨らませるな。……それに、ワタシはこれを機にお前の貧相な体を徹底的に研究しなければならないからね」
「いつまで私のおっぱい揉むつもりですか……。……そこまで言うなら、おりゃ!」
「は」
「うわ、思ったより軽い!! マスター、やっぱりいつも言うほど私重くないじゃないですか!!」
「お前、このワタシの体を抱き上げるだなんて、自分が何をしているかわかって……!」
「マスターの体じゃなくて私の体です! 結果的にはいつもとしてること変わらないですから安心してください。そういうわけで、犯人探しにいきますよ」
「この、馬鹿部下ッ……!!」

 *

「それにしても、やっぱり魔族長様の体だと、魔物の子たちがすごく怯えて去っていくのがよくわかりますね」
「語弊があるね。ワタシの長としての威厳と麗しい姿に心を灼かれて身を引いているのだよ」
「ソデスネ。その威厳保つためにも魔物の子たちにバレないうちに早く元に戻らないとなんですけど……」

「……お、ギラヒム様。と、お嬢」
「む」
「り、リザル……」
「ンあ? ……どしたンすか」
「なッ……んでもないとも。それより、リザル。こ、の、美しいワタシに、何か違和感があるとでも?」
「は? えーと……あるッちゃありますケドいつもそう……じゃなくて、別に気になンねッす」
「良かっ……ッフン! 当然だとも! このワタシはいつ何時でも美じ──ッたぁ!!」
「!!? お嬢!?」
「な、何すんですか!! せっかくマスターになりきってたのにいきなり足踏むなんて!!」
「お前がワタシの体で気色の悪い言動をするからだ。あと、このワタシの美しいつま先を踏みつけた責任は体が戻った後に取ってもらうよ、リシャナ」
「自分で踏んだんじゃないですか!! そう言うならもう少し手加減して踏んでくださいよ!!」

「……俺ァ今、何を見てんだ?」

 *

「……ンで、朝起きたらギラヒム様とお嬢の中身が入れ替わってたと」
「フン」
「……そうなんです」
「…………」
「……リザル?」
「いや……なンでもね……ック、」
「……普段は従順なお前でも、腹の内で笑うのなら容赦はしないよ」
「いや、無理ッスよ……!! あのギラヒム様がお嬢みてェにソワソワしてッところ見せられたら俺じゃなくても笑いますッて!」
「り、リザル! 私もそれは思うけど、今のマスターの前でそんなこと言ったら戻ったと、ぎゃう!!」
「ワタシの美声で悲鳴を上げるな騒音部下。……やはり体が戻った暁には裸に鎖をつけて外を歩かせてあげるしかないようだね? リシャナ」
「何で私だけっ!? ていうかマスター、そんなに何回も足踏まないでくださいよ! マスターの足なんですから、指先まで労って優しく踏んでください!!」
「……お前らもお前らで真面目に戻る方法探すつもりねェだろ」

 *

『そういや、最近トカゲ族ン中にフィローネの森の精霊に幻覚見せられて森を抜け出せなくなってたヤツがいたナ。お嬢たちのそれも、その精霊の悪戯の一種じゃねェの?』

「こっちで合ってるんですかね。……リザルが教えてくれた、悪戯好きの精霊がいる泉」
「さあね。お前が先陣を切って歩いているのだから、責任を持ってワタシを導いてみせろ」
「マスターが先に歩かせたんじゃないですか……。それにしても、フィローネの森の中でもこの辺はあんまり来たことがないですし、今にも迷子になりそうですね」
「フン、お前の軟弱な肉体で無ければこんな術、すぐにでも弾き返すことが出来たというのにね」
「……やっぱり、私の体じゃマスターがいつも使ってる魔術は使えないんですね」
「当然だろう。お前の魔力量でワタシの術を使えば、すぐさま魔力が枯渇してこの体が使い物にならなくなる。……もっとも、壊れた体を返却されたいというのなら、話は別だけれど?」
「い、いや、遠慮します……。…………」

「(今自分が入ってるっていうのはあるんだろうけど……マスターなりに、私の体を気遣ってくれてるってことなのかな……)」
「(……ちょっとだけ、嬉しいかも)」

 *

「あ、マスター、ありましたよ。精霊の泉」
「ふぅん。……で、どこに精霊がいるというんだい?」
「……精霊どころか妖精も動物もいないですねぇ」
「……なら、ここはこの瞬間から精霊の泉ではなくお前を沈めるための生け簀と名付ける他ないね」
「い、いやこれマスターの体ですよ!? 今それを実行するのは絶対によろしくないです!!」
「チッ……元に戻った時、覚えておくがいいよ」
「順調に負債が溜まってる気がする……。それにしても、違う泉に来ちゃったんですかね、私たち」
「知ったことか。貧相な体のくせに暑苦しい装備をしているお前の格好のせいで、可憐なワタシの心は今にも折れてしまいそうだと言うのに」
「暑苦しいのは仕方ないじゃないですか。人間の体は脆いので、ちゃんと装備しなきゃすぐ傷ついちゃうんです」
「フンッ、仕方ない。ならば今ここで、この鬱陶しい汗を流させてもらうよ」
「流させてって……ちょ、マスター!! ここで全裸になろうとしないでください!! 外で女の子の全裸は各方面から怒られますから!!」

 *

「フッフフン」
「……なんで生き生きと全裸で水浴びする自分の姿を体育座りで見てないといけないんだろう」
「お前こそ、ワタシの肉体を使っておいて身を縮こめるとは、その行為が世界にとっての損失だとわかっていないようだね?」
「私自身は見るのと触るの専門ですもん。……この体勢ならふくらはぎのモチモチ感が楽しめますし」
「……お前、よほど戻った時に吊し上げられたいようだね」

『────クスクス』
「!」
「あ」
『──クスクス』
「マスター、今……」
「姿を消して覗き見とは、この体にそんなことをしてまで見る価値はないというのにね……! とっとと追いかけるよ、馬鹿部下」
「散々な言われよ……、っていうかマスター!! さすがに服着てください!! 全裸で森の中駆け回る自分は見たくないです!!」

 *

『──クスクス、クスクス』
「ッはあ……本当にあの精霊、なんですかね……体入れ替えたの……」
「…………」
「ちっさいしフワフワしてるし、気抜いたら見失っちゃいそう……」
「…………」
「しかもこんなに走ってるのに全然追いつかない……、マスター、別の方法考え、」
「………………、」
「マスター!? うずくまってどうしたんですか!?」
「…………この、貧弱……め……」
「ま、まさか私の体の体力が無さすぎるせいで酸欠に……!? とりあえず水飲んでください、マスター!!」

 *

「絶対に、体を戻した暁には、徹底的に、締め上げて、やる…………」
「私の声帯、そんな亡者みたいな声出せたんですね……、じゃなくて大丈夫ですか、マスター」
「……全部お前のせいだ。ワタシ自身の肉体なら、あんな精霊すぐにでも焼き払えたものを……」
「(わあ、キレちゃってる……早く戻る方法、考えないと……)。……こういう時、リンク君たち女神側は力を持った大妖精とか大精霊に頼るらしいですけど、魔族の場合はそういうわけにもいかないですしね」
「フン、このワタシが女神側のチンケな力を借りるわけがないだろう。支配をしてやるならまだしも……」
「支配……。……あ、」
「……何」
「思い付いたかもしれないです。あの精霊探す方法」
「言ってみろ」
「えーと……、……ちょっとだけ、マスターのお手を煩わせてしまうというか、たぶん怒られるかもなんですけど……」

 *

『──女神の子』
『女神の子』
『迷子の女神の子』

「……フン。中身が美しき魔の魂でも、外見が人間ならば精霊の目は欺けるようだね。見る目のない」
『──女神の子』
『迷い込んだ、女神の子』
「鬱陶しい。ワタシがお前たちに聞きたいことは一つだけだ。それ以上、口を開くことは許さない」
『聞きたいこと、聞きたいこと』
『何だろう、何だろう』
『こわい、こわい』
「ッフン! ワタシの美しき立ち振る舞いはこの極貧体型であろうと芸術品に変えてしまうようだね? 安心したまえ、有象無象の精霊ごときに手出しはしない。存分に平伏すがいいよ」
『こわい、こわい』
『こわい、こわい』
『逃げよう、逃げよう』
「ハッ!! わかっているじゃないか!! この美しきワタシの前に立つこと自体がそもそもの間違いだとね!! だからさっさとこの術をかけた精霊の居場所を吐いて……、……ん?」
『────』
「……ッおい!! 質問に答える前に消えてるんじゃねぇッ!!」


「…………マスター、ちゃんと精霊たちと交渉出来てるかなぁ」

 *

「チッ……手こずらせやがって……」
「!! マスター、おかえりなさい!」
「何でこの俺がこんな手間をかけなきゃならねぇんだ……」
「マスターの体で私が会いに行ったら精霊逃げちゃいますもん……。でも、ありがとうございます。マスターが捕まえてきてくれたこの子から情報を引き出せば全部解決です!」
「とっとと締め上げて吐き出させろ。吐かなければ森ごと燃やしてやる」
『こわい、こわい』
「怖がってるじゃないですか、マスター。この手のちっさな精霊は優しくしてあげた方がいいですよ、たぶん。……ほぉら精霊さん、素直に話してくれないかなぁー?」
『……こわい、こわい、こわい』
「あれぇ」
「……俺の声帯で猫撫で声を出すんじゃねぇ」

 *

『こわい、こわい』
「……マスター、この子こわいしか言わなくなっちゃいました」
「お前のせいだ」
「うう、やっぱりです……? 優しくしたのに、私……」
「ワタシの体を使っておいて愚かな真似をするからだ。とにかく、どうにか、しろ」
「無茶振りですね……、どちらにせよ、しばらく話してくれそうにないですし、空き瓶に入れたまま一旦拠点に連れ帰った方が良くないですか?」
『こわい、マモノ、こわい』
「……なんだか可哀想になってきちゃいました」
「同情を誘うくらいなら、素直にこの術を解けば良いだけだよ」
「たしかにそうですけ、」
『マモノ、こわい──タオス』
「……へ?」
「は」

 言葉尻に声色を一変させた精霊。
 私と主人が疑問符を浮かべている間に、小さかったはずの精霊は空き瓶の中でどんどん大きくなって──、

「……うそ」

 巨大な光の化け物へと、変化したのだった。

 *

『──タオス、タオス』
「ま、ままマスター……あの精霊、おっきくなっちゃいましたよ……!?」
「チッ……面倒な」
『マゾク、タオス、体、戻してアゲナイ』
「体戻してあげないって……もしかして、私たちの体入れ替えた犯人、この精霊ですか!?」
「進んで自白をするとは、やはり低俗な精霊は愚かなものだね。つまり、ここでこいつを潰してあげればこの馬鹿げた術も解けるということだ」
「そうだと思いますけど、ま、マスター」
「何」
「私、どうやって戦えばいいんですか? ……マスターの体で」
「…………」
「指パッチンしたら、剣って出せるものなんですかね……?」
「お前……」
『タオス、タオス、魔族、タオス──!』
「わ、わ! き、きちゃいました、マス、」
「──仕方ない」
「へ?」
「────ッ、」
「!!」
『あ、え』
「ッフン、この貧弱な体が使う剣ごときで両断されるとは、やはり大したことのない存在だったようだね」
「ま、マスター……」
「……何」
「私の体で、そんなに俊敏な動き、出来ちゃうんですか……?」
「当然。……ワタシは、お前のマスターだから、ねぇ?」
「なんだか、むず痒いです……」

 *

「──そんなわけで、魔術かけた精霊をマスターが真っ二つにして、精霊の魔力が切れたらしっかりばっちり元に戻れました」
「なるほどな。とりあえずまァ、ご苦労サン」
「本当、元に戻れて良かった……半日くらいなら良いけど、ずっとあのままだとソワソワしっぱなしだったもん」
「ンなこと言って、どーせお嬢はここぞとばかりに飼い主サマの体を堪能しまくってたンだろ?」
「そんなことな……くないですけど」
「ま、あの人もあの人で楽しンでるだろーしな。たまには良かったンじゃねーの?」
「すごく呑気な感想だけど、否定もできない……さすがリザルはわかってる……」
「誰でもわかるッての」

 *

 ──別の日。

「ん、んむー……朝……」
「(あれ、綺麗な足が目の前に、ある?)」
「(このツヤスベな肌って、えっと……、……あれ?)」

「──マスター!! なんでまた入れ替わってるんですか!?」
「……ふむ(もにもに」
「なんでまた私の体でおっぱい揉んでるんですか!!?」
「朝から騒がしい。あの精霊が使った魔術をワタシ自ら使ってやったまでだよ」
「な、何のためにッ……!?」
「決まっているだろう。お前の未発達な体を成長させるにはワタシ自らこの体を研究してやる方が手っ取り早い。可愛い部下を思っての、主人の粋な計らいというやつだよ?」
「事件通して変なこと覚えちゃった……!!」


次回もお楽しみに!