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kobakoまとめ *2021.8月号
・ほぼ魔族長と部下夢主(+たまにリザル)の会話文です。
・時系列等々バラバラ
・series設定の話も含まれています。


▼膝上ポジションに来たらやりたくなること

「…………」
「…………(腹筋ツン」
「……死ね」
「……マスターの腹筋をこんなに至近距離で見てて触らない方が罰当たりだと思うんです」
「理由になっていない」

▼べったり主従シリーズ_妥協点模索中

「……暑くて脱ぎたくなるのはわかりました。マスター」
「…………」
「でも、私のこと抱きしめなければもう少し涼しくなると思います。嬉しいですけど。……あとそう全裸で全力で抱かれるとさすがに恥ずかしいかなって……」
「…………、」
「(あ、離れた)」
「…………」
「(腰から腕に抱き直した……)」
「…………、」
「(やっぱり腰に戻した……)」
「…………リシャナ」
「はい?」
「……何か文句でも?」
「……もうダイジョブです」

▼短編「こどもはしらなくていいこと」その後
*夢主幼児化後の話

「……とは言え、身長と声質以外はさほど変わっていないようだね? 特にこの辺りは」
「ゼッタイいわれるとおもいましたけど、むねもちゃんとちいさくなってますから……!」
「そういうことにしてあげようか? 子ども特有の、夢に染まった哀れな空想ということに」
「やさしそうなカオしないでください……! わるいオトナにだまされる……!」
「人聞きが悪いね? 日頃から手塩にかけて心身共に育ててあげているというのに。子どもなら子どもらしく、飼い主へ尻尾を振って甘えてみせろ」
「それこどもじゃなくてイヌのあまえかたですからっ! あとなんで、にのうで、もんでるんですか……!?」
「目で見るだけでは把握出来ない変化を調べてあげるのも主人の務めだろう? ……このサイズになってようやく揉みがいのある柔らかさが出るなんて、皮肉な話だけどねぇ」
「もみがいってなんですか! あ、え、ますた、ふとももはくすぐったいのでむり……や、やめてぇ!!」

▼夏バテだったみたいです

「マスター」
「…………なに」
「おでこ、失礼します」
「…………」
「やっぱり、人と違って熱があるかどうかは、わからないですね」
「……あるわけないだろう。そんなもの」
「ならいいんですけど。……ご気分、優れなさそうなので」
「ただの、お前の幻覚だよ。…………、」
「……マスター?」
「お前がそこまで言うのなら。特別に、このままにさせてあげる」
「……喜んで」

 部下の手の甲をおでこに押し当てたまま、ギラヒム様はようやく気持ち良さげにおやすみになられたのでした。

▼部下が目隠ししたら嗜虐スイッチが入った魔族長
*致してないですが卑猥な言葉を口走ってるので注意

 見えるのは闇。と、数分前まで見ていた光の残滓。
 耳に届くのは間近で鳴る衣擦れ音。──そして、

「イイ眺め」
「…………、」

 表情が見えなくとも満面の笑みを浮かべているとわかる、ギラヒム様の昂揚した声音。
 対し、私は口の端を思いっきり歪めて“見えている部分”で抵抗を訴えるのみ。効果はないとわかっているけれど、抗議の視線を送れない分こっちも必死だ。
 ──後頭部から結ばれた布が私の目を覆っている限り、口でしか足掻けないのだから。

 不意に温度の高い吐息を落とし、主人の気配と匂いが近くに寄ったことを察知して肩が跳ねる。警戒はしているはずなのに、見えないと普段の倍は怖い。

「お前の抵抗なんて最初から通用しないとわかっているけれど。……その手段すらも奪われてしまった姿がこんなにもイイものだなんてね。ぜひ、手首や足も縛ってあげたい」
「絶ッ対、イヤです……!」
「つれないね? こんなにも可愛くて仕方のない姿なのに。今のお前なら、おねだりなしでいくらでも愛でてあげられるよ? ……ねえ?」
「……!」

 ねっとりと囁かれ、ふ、と耳に息を吹きかけられる。それだけでなくはぁはぁと荒い呼吸を繰り返され、首元に熱い舌が這う。
 目隠しをしただけで何故こんなに主人が大興奮してるのかはわからない。彼自身が持つ生来の嗜虐心が振り切れてしまったのかもしれない。
 ……もしくは、そんなにも今の私は彼の餌として適した姿をしているのだろうか。

「可愛い……可愛い、可愛い。ねぇ、リシャナ……最高に興奮してしまう姿だよッ……!」
「……っ、」
「やはり手足も縛ってあげようか! そのまま抵抗出来ないお前を犯して、泣かせてあげて、体中に射精してあげて……ッ、ああ……考えただけでも勃ってしまうね……?」

 濃厚な色香が体を内側から揺さぶって、頭がおかしくなりそうだ。
 おそらく今言ったことは必ず実行されるのだろう。彼の欲を押し留める要素なんて、一つも見当たらないからだ。

「たくさん愛してあげるよ、リシャナ。ワタシの声にしか縋れない可哀想なリシャナ。……たくさん鳴いて、主人を求めるんだよ……?」

 耳奥へ溶けた声は意志を持ち、視覚以外に残る感覚までもを支配してしまうのだった。

▼大トカゲと雑談

「魔族ってさ、」
「ンあ?」
「名前って、誰がつけるの?」
「また唐突に意味わかンねェこと聞きだすな……お嬢」
「それはよく言われる。でも気になった」
「そもそも名前なンか持ってねェ奴も多いかンな。ギラヒム様くらい上位の魔族じゃねェと名乗る名前なんて必要ねェし。誰がつけるかなンて興味持ったことねェな」
「……そういうリザルは?」
「……自分で言うのも変な感じがすッケド、一族間での愛称が気づいたら名前みてェな扱いになっちまッただけだよ。つーかその名前で呼ぶのも一族の奴ら以外ならお嬢とギラヒム様くらいだしな、今は」
「ふうん……そういうものなんだ」
「人間こそ、どーなンだよ」
「人間は……普通は親がつけるよ。生まれてくる前だったり後だったり、名前の意味はその人によって全然違う」
「めンどくせェことすンのな。名前に意味込めたからッて何が変わンのかイマイチピンとこねェ」
「たしかに、四六時中それを意識する訳じゃないしねぇ。……私も私の名前、誰がつけたのかもどんな意味が込められてるのかもわからないし」
「あ? 親ナシってのは聞いてたケド、お嬢の名前は空の連中がつけたモンだと思ってたな」
「んー、たぶん違うと思う。物心ついた時からそう呼ばれてたからあんまり気にしたことなかったけど」
「へェ。……結局、どこで生まれようと魔族の名前のつけられ方なンて同じようなモンなンだな」
「そうかもね。……でも、」
「何だよ」
「……マスターが呼んでくれるだけで、名前があってよかったって思う」
「惚気ンなら俺ァ仲間ンとこ戻るぞ」
「の、のろけてないよ別にッ! 大体、マスターも普段はお前か馬鹿部下か極貧としか呼んでくれないし! 私が名前呼ばれると喜ぶのわかってるから!!」
「あーあー、俺もそろそろこの主従のイチャつき加減が分かち合える同類が欲しいモンだなァ。つーか主従揃って俺挟んで惚気るくらいなら最初から直接やれよなァ」
「だから惚気てな……え? 主従揃ってって言った今?」
「二度目は言わねェよ。そこまで面倒見切れねェ」
「り、リザル先輩、そこを何とか、なんとか!!」

▼大トカゲと雑談そのに

「……リザルってマスターとどんなこと話すの?」
「どンなことも何も、そもそもそンなに話さねェよ。業務連絡くらいだな。つか大概の魔物はそう気安く長に話しかけたりしねェよ」
「そう聞くと、マスターが偉い人みたいに聞こえる不思議……」
「偉い人なンだッての。お前が異常なンだよ」
「また異常って言った……。他の魔物の子よりも扱われ方がだいぶ雑なだけのフツーの部下でいるつもりなんだけどなー……」
「……フツーの部下は魔族長サマの膝裏ガン見したり匂い嗅いだり夜這いしたりしねェぞ」
「よ、夜這いはまだしたことないから!!」
「まだじゃねェよお前最近発言が振り切れることに躊躇なくなってるだろ」
「…………一応マスター本人の前ではまだ歯止め効かせてる、まだ」
「ンだからまだじゃねェッての」

長編3-4おまけ
*部下が放り投げられる直前の話

「──次に雷龍が攻撃を仕掛けてきた時だ。覚悟は出来ているだろうね? ……ワタシの可愛い飛び道具」
「出来てます。でも今後も投げて使う気満々の呼び方は断固拒否です。……あと、マスター」
「何」
「この時空石、どこにしまってたんですか?」
「……。…………」
「マスター?」
「…………知りたいか?」
「……やめておきます」

▼見られるのはいいけどおさわりはちょっと
*魔族長がやや受け

「ああ……今日も一切衰えも穢れも知らない艶めかしい肌……そして溜め息が出てしまう造形美だねぇ……?」
「そですね」
「この肉体を間近で見られるお前は恵まれてるというのを通り越してもはや業が深いと言えてしまうね? きっと地獄へ堕ちてしまうだろうけれど……その分ここでこの体を拝めるのだから、やはりお前は幸せ者だよねぇ?」
「そですね」
「さあ、存、分、に、その目に焼き付ければいいよッ!!」
「そですね。──ならお言葉に甘えて、」
「網膜に! 脳に! 全神経に! この肉体を焼き付け堪能し、て、ひッ……!?」
「…………おおう」
「お前、何をして……ッぃ!?」
「両手で腰掴んでるだけですよー。マスターの言う通り、思う存分このお身体を堪能してるんです」
「そんなことしていいと思って……ッ!!? どこに手を、伸ばして……!?」
「マスターがすぐ全裸になるからですよ。……でも、ほんとに腹筋も腰も太腿も、永遠に触ってられますね。業が深い身体……」
「そんな触り方をして許されるとでも……ッく、ふ……」
「……そんなつもりじゃなかったですけど、そういう反応されたら私じゃなくてももっと触りたくなっちゃいますよ。……今日はこのまま、ご奉仕しますね、マスター」

▼真面目にパンティの話

「マスター、一回、履いてみません? ……パンツ」
「……へぇ? 随分と思い切ったことを言い出したものだね? 尊い美の概念がこの世から失われるリスクを冒してもなお、そんなことを言い出すなんて……ねぇ?」
「下半身のごく一部が布で覆われるだけじゃないですか……いや人間からしたらそれが結構重要だったりするんですけど……」
「人間どもの凡庸な肉体にとっては然るべき措置だろうね、曝け出す益もないのだから。だが、このワタシの造形美は、布一枚でも隔ててしまえばこの大地における重大な損失となってしまうのだよッ! なんとも儚いものだよね!? 繊細な美というものはッ!」
「あ、マスター、スイッチ入れないで下さい。ポーズ決めなくても伝わるので。……でもマスター、こうは考えられないですか」
「……聞こうか」
「それだけ大切なものだからこそ──絶対守らないといけない、って」
「────」
「マスターの美の中でも際立ったその部分に、もし万が一何か危害が及んでしまったら。私は部下として……いや、大地に生きる者のうち一人として、心の底から後悔すると思うんです。……よく全裸でフラフラしてるし」
「……ふむ」
「私の大切なマスター……の下半身は、いつだって守られるべき財産だと思うんです」
「…………。……一理ある」
「でしょう!? と思って空で買ってきたんですよっ! どうせ布面積広すぎると文句言われるので、ちゃんと趣味に合ってる際どいやつっ!! もはや紐と布だけですけど全裸でぶらつかれるよりだいぶマシ!!」
「……お前、勢いに任せれば何を言っても許されるとでも思っているだろう」

▼ぱんつづき

「マスターが……ギラヒム様が……!」
「──フ、」
「パンツ、履いてるっ……!!」
「与えられて当然の眼差しだね? 遠慮せず、存、分、に、賞賛の言葉は口にしてくれて構わないよ?」
「いつもの全裸の、ほんの、ほんっの一部の、大事なとこにしか布ないのに……なんでこんなに違って見えてしまうんでしょうか……? いやむしろマスターが言ってた秘匿されることによってかえって溢れ出る色気って、これのこと……?」
「ッフン、そうだとも。お前にしては悪くないものを持ち帰ってきたじゃないか? たしかに、慈悲深く平等を貴ぶ精神を持つワタシはこれまでこの肢体を惜しげもなく衆目に見せすぎてしまっていたのかもしれない。無論、求める声が尽きないことは重々承知ではあるけれど、唯一無二の美とはそれ相応の過程を経てようやく手に入れられるべきものだからね。この布を纏うことにより、ワタシの神秘性はさらに高められてしまったわけだ」
「後半何言ってるのかさっぱりわからなかったですけど、恥を捨てて頑張って買ってきたパンツを履いて下さった喜びで全てどうでもよくなってきました。マスター大好き」

▼ここ最近で一番怖かった話

「──というわけで、無事敵を倒して目的も達成してきました」
「……ふむ」
「報告以上です」
「良いだろう。……ところで」
「はい」
「怪我はなかったかい?」
「……今なんて言いました?」
「怪我はなかったかい?」
「…………あ、魔物の子たちの負傷具合ですか? 今回は慣れてた場所でしたし、大きな怪我した子もいませんでしたよ」
「違う。……お前の、だよ」
「……私の、何が」
「お前の、怪我が」
「──はいッ!!?!?」
「……何」
「ま、ま、マスターが、私の体のこと、心配って、え、今どういう状況なんですかこれ……!?」
「……何かと思えば。そんなもの、」
「ひっ……!?」
「──大切なお前が怪我でもしたら、一大事だろう?」
「は、へ……?」
「本当はワタシも心苦しいんだ。お前がワタシの元から離れている間に、その体に傷がついてしまったらと思うと……想像しただけで胸が張り裂けてしまいそうだよ」
「い、いや、だっていつも、飛び道具として使ったり私が敵に捕まっても放っておいたりするじゃないですか……、あ、大切って、性欲処理道具として大切っていう……」
「そんなわけがないだろう。──可愛い部下として、ワタシの大切なお前が傷ついてしまうのは、あってはならないことなんだよ」
「…………っひ、」
「さあ、今から一緒にシャワールームに行って体を洗ってあげよう。その後はワタシの元で気持ちよく眠ればいい。完全に疲労が取れるまで、頭を撫でていてあげる」
「……ぎら、ひむ、様」
「ん?」
「こわすぎるので、お願いですから、いつものギラヒム様に、マスターに戻ってください……」
「ああ、泣いてしまったのかい? 大丈夫、ワタシがいてあげるから……ね?」
「ひぃ……ひぃぃ……!!」

 *

「──という夢を今日は見まして」
「やけに騒がしい呻き声を上げていたと思えば。しかも夢ごときにうなされて傍らの主人を起こすなんてね。睡眠中ですら馬鹿部下は馬鹿部下でしかないらしい。それに、どう負傷しようと血を吐こうと腕が吹き飛ぼうと、その夢通りワタシがお前を労わることなどあるはずがないのにねぇ?」
「すっごく無慈悲なこと言われてるはずなのになんだろう、この安心感……もはやもっと言ってほしいまであります……」

▼荷台で過ごす夜
*ラネール道中の話、長編3章参照

「へ……っくし! うー、なんで砂漠の夜ってこんなに寒いんですか……」
「鬱陶しい。その騒音でワタシの眠りを妨げたら、外へ放り出すよ」
「くしゃみ一つで凍死させられるって理不尽すぎませんか……」
「知ったことか。ワタシは眠い。とっとと寝るよ」
「はい、おやすみなさい、マス、」
「リシャナ」
「はい?」
「…………(“こっちこい”の指クイッ」
「…………嫌です」
「……は?」
「寒いので一緒に寝たい気持ちも無くはないですけど。……朝になるにつれて気温上がったら、絶対暑苦しくて蹴り飛ばされるやつじゃないですか」
「ふぅん。品行方正の概念を凌駕したこのワタシが、そんなことをすると。お前はそう言いたいんだね?」
「品行方正を凌駕した人は壁薄い荷台の中で部下をおさわりしたりしませ……って、言ってるうちに全力で抱いて締めてくるじゃないですかッ! それ以上力入れたら腰折れ……うげぅ!!」
「うるさい。お前の訴えなど知ったことか。どうでもいいから寝かせろ。眠い」
「そこまで投げやりになってまで抱かなくても……むぐ、つ、潰れちゃう、中身出ちゃうーッ!」

〜明け方
「ん……、ますたー……」
「……うぜぇ」
「いい匂……、ぐふゥッ!」
「…………すぅ」
「うう、寝ながら部下の頭蹴る人の、どこが品行方正ですか……!」

▼短編「インシグニスブルー」おまけ

「本当に、変わってないですか? 胸は置いといて、顔とか背とか」
「顔は相変わらずの間抜け面で、背は伸びただけで面白みがない」
「今面白み求める場面じゃないです。……ちょっとだけ期待してたのに」
「…………、」
「……マスター?」
「変わって、ない。少しでも変わっていたなら、過去の記憶が掻き消されてしまうと思っていたのに。そんなことを一切させようとしないくらいに……お前はお前のままだった」
「────」
「リシャナ」
「……はい」
「…………ただいま」
「おかえりなさいです、マスター」

▼ちゃんと女の子と恋バナしてみた
*もしいろいろ上手くいって、ゼルダちゃんと普通にお話出来たら

「ん、やっぱりゼルダちゃんが淹れてくれた紅茶、すっごく美味しい」
「本当? よかった。でも、リシャナが持ってきてくれた葉っぱのおかげだと思うわ」
「んーん、私もこれ試してみたけどこんなにいい香りしなかったもん。……マスターにすんごく文句言われたし」
「それで、いつも通りいじけちゃったからわたしのところに来たの?」
「……さすがです、ゼルダお姉さま」
「ふふ、そんなリシャナもすごく可愛いって思うけど、お姉さまじゃなくてお友達のままがいいわ。その方がリシャナのお話、たくさん聞けるもの」
「こんなに良い子なゼルダちゃんにあの人の話をしていいものか、私は日々良心の呵責に苛まれてるよ……」
「いいのよ。わたしから聞いてるんだから。でも、正直最初に知ったときはびっくりしちゃったけど」
「そりゃそうだよねぇ……私はむしろそれでも普通に付き合ってくれてるゼルダちゃんにびっくりしてるもん」
「そうね。どんな形であれ……リシャナに恋人が出来たのはわたしも嬉しいもの」
「──────、」
「……リシャナ? リシャナがフォーク刺してるの、ケーキじゃなくて手の甲よ?」
「…………ゼルダちゃん……今なんて?」
「え? ……恋人?」
「…………コイ、ビ、ト……?」
「うん、恋人」
「私と……マスターが?」
「うん」
「ぜ──ぜぜぜるだちゃん!! いやこれはむしろ女神様!!? ど、どどどどっちにせよ!! そんな!! 教育に悪い!! 言葉を!!」
「ふふ、女神さまでもわたしでも、リシャナが幸せそうなのはとっても嬉しいわよ。女神さまの立場だと、相手にはすこーしだけ目を瞑らないといけないけど」
「むしろ瞑ったまま見ないで欲しかった!!」
「いつだってわたしはリシャナの恋を応援するつもりよ? それはリシャナが大地に行っちゃう前から変わらないわ」
「う……。……ていうか、コイビト、なの? 私たち」
「リシャナの反応を見ている限りは、そう思ったわ」
「……未だに扱い雑だし、剣技の模擬戦容赦ないし、胸のなさ馬鹿にされるのに?」
「場合によっては友達として怒りたいところだけど……、でも幸せそうに見えるもの、リシャナ」
「────」
「それに、前と今で何か変わったこともあるんじゃない?」
「前と、今……」
「…………」
「……。……愛してるって、言ってくれるようになったの」
「うん」
「私が言っても、馬鹿にはするけど、聞いてくれるようになったの」
「うん」
「でも、あの人の一番は決まってて……あと、こんなに幸せでいいのか、不安で」
「……うん」
「……時々、怖くなる」
「リシャナ……」
「……なんて、命懸けで戦ってた時に比べたら贅沢な悩みだけどね」
「そうね。そうだけど……でも、リシャナにとってはすごく深刻な悩みなんだってこともわかるわ」
「……ありがとう」
「でも……だからこそ、その想いは正直に打ち明けていいと思うの」
「────」
「きっと答えはリシャナが決めることだけど……答えを出すための勇気をくれる人は、リシャナの中でもう決まってるもの」
「ゼルダちゃん……」
「だからわたしからはきっと大丈夫って、それだけ伝えておくわ」
「……ゼルダちゃんからそう言われたら、他のどの人から言われるよりも大丈夫って気がする」
「えへん、女神さまの言うことを信じなさい」
「……女神、というか……天使だよ、ゼルダちゃん……」
「女神さまでも天使でも、わたしはリシャナの友達よ。ずっとね?」
「……うん」

▼べったりパラシフ主従
*主従逆転(夢主=主、魔族長=部下)if

「──結局今日も、ダメ主様のダメ戦術のせいで、幼気な従者は心労を負わなければならないのですね……」
「……ダメなのはわかったからそんなに綺麗な憂い顔見せないで。割と本気で傷つく」
「へえ。か弱い従者をぞんざいに、非情に扱う主様にもそんな心があったとは。その御心がワタシに向けられないのは何とも心苦しいお話ですね」
「ギラヒムが!! 私の心を!! 抉ってるんでしょ!! すごく楽しそうに!!」
「この美しくも儚く彩られた顔を見て楽しそうだと形容するなんて。さすがはダメ主様、横柄かつ横暴そのものだ」
「私が何をしたぁッ!!」

 今日も私の剣は容赦がない。
 こうして形だけの敬意を被って弄ばれていると、どっちが主でどっちが従者なのかわからなくなってくる。
 というより、彼はそれが明確にわかっていたとしてもこの対応をしてくるのだろう。私を都合の良い遊び道具だと思っている節があるのに、命令を下した時や戦場では従順かつ優秀だから、余計に何も言えない。

「どうしたんです? 情けなく蹲ってしまって」
「……もういい、ダメ主様で。むしろギラヒムの玩具で。そのかわり何にもしない」

 結局はこうして子どものように拗ねることしか私には出来ないのだから、目も当てられないと自分でも思う。

 ──と、数秒その様をじっと見つめていた彼が、ふと柔らかく吐息をこぼし、

「──リシャナ」

 いつもの呼び方も、従者という建前も取り払って、低く名を呼んだ。

 同時に後ろから羽交い締めにされ、いきなりのことで喉がつっかえている私の表情を見下ろし、彼は頭を数度撫でる。

「何もしないならしないままでいればいい。……それでもワタシは同じようにお前を愛でてあげるけれど、ね?」
「ん……、」

 建前を捨てた彼が生身の言葉で注ぐのは、普段のひねくれた言動からは想像もつかない直接的な愛情だ。

 従者の口調を砕かれ、ここに存在するのは主従としての殻を被ったやり取りではなく、一人の男が無防備な女を捕らえたという事実だけ。
 そしてその事実一つだけで、私が続けられる言葉は全て奪い去られる。

 その様を見下ろしていた彼も「フ、」と笑みをこぼし私の後頭部に頬を押し当て体を引き寄せた。

「可愛い……間抜け面」
「……二言目がすごく余計」
「むしろ、そちらの方がお前に適しているけれど?」
「……じゃあただの罵倒でしょ。やっぱりもう知らない」

 一挙一動を観察するような視線に耐えきれなくて無理矢理そっぽを向く。

 私の剣であった彼が。──それ以前に、もっと意味のある関係であったような気がする彼が。
 こうして私に対して何の遠慮もなく、全ての体裁を取り払って甘えてくると、どういう顔をしたらいいのか本当にわからなくなる。

「……面白いくらいに動揺しているので、そろそろ許してあげましょうか」

 私の心の内側の困惑を見透かした彼は、言いながらようやく私の体を解放する。
 口調もいつもの従者のものに戻ったが、向けられる眼差しは変わらず私を所有物として見るもので、ぞくりと体が疼いてしまう。

「その顔、ワタシは大好きですよ?」
「──っ、」

 当然、それすらも目敏く見抜かれ嫣然とした笑みを向けられる。
 彼はそのまま私と額を突き合わせ、唇が触れそうな距離で言葉を続ける。

「いつまでも、そうして哀れに戸惑っていればいい。……ワタシのことだけを考えていればいい」
「────」
「従者一人飼い慣らせない主様でも。このワタシに飼い慣らされてしまうお前でも。……手放してあげない」

 結びに、欲と共に唇を与えられて。

 その熱によって完全に陥落した私は、ぐらぐらと自我を揺らされるまま彼の懐で俯くことしか出来なかった。

「……私の剣、欲深すぎる」
「欲深い貴女の剣ですから」

 一体いつ私が貴方に欲深いところを見せたんだ、と喉奥まで出かけた反論は、彼の艶やかな笑みを見ていれば呆気なく霧散していってしまった。



9月号もお楽しみに!