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kobakoまとめ *2021.7月号
・ほぼ魔族長と部下夢主(+たまにリザル)の会話文です。
・時系列等々バラバラ
・series設定の話も含まれています。


▼部下がお勤めで一ヶ月遠出してたら情緒不安定になった魔族長_その1

「………………」
「……た、ただいま……戻り、ました……?」
「………………」
「なんでこんなに部屋、荒れ狂ってるんですか……?」
「誰のせいだと思っている」
「だ、誰のせいでしょう……?」
「……この俺が直々に教え込んでやらねぇと理解出来ないようだな? ……監禁と凌辱、あと洗脳まで、徹底的に楽しませてやるよ……!」
「ほ、ほんとにお仕事してきただけですよ私ッ!!?」

▼部下がお勤めで一ヶ月遠出してたら情緒不安定になった魔族長_その2

「……ます、たー」
「あ?」
「…………そろそろベッドから、降りたいかなって」
「下ろす訳がねぇだろ。それとも、鎖か首輪をご所望か?」
「……せめて、噛み跡の治療だけしたいなと、思って」
「ほう? 部下の分際で俺がつけた跡を早々に消したがるとはなァ? あれだけ教え込んでやったのに」
「……う」
「だが安心するといい、リシャナ。そこまでその傷が痛むって言うなら……俺がぜぇんぶ、舐め回して癒してやるよ」
「…………(ああ、今日……死ぬかもしれない)」

▼部下がお勤めで一ヶ月遠出してたら情緒不安定になった魔族長_その3

「リシャナ」
「…………」
「リシャナ」
「…………」
「……リシャナ」
「……なん、ですか」
「……消えたら、許さない」
「ますたー、が、ここまでしたんですよ? ……いわれなくても、きえたりしない、ですけど」
「ん……」
「わたしのきずの治療、あとでいいので。……おちついたら、言ってください」
「……ん」

▼寒暖差無理な魔族長と付き添い部下

「…………」
「(マスターが伸びてる……)」
「…………暑い」
「な、なんでこっち見るんですか」
「……どうにかしろ」
「すごくシンプルな無理難題ですけど……氷の魔術使える魔物の子連れてきましょうか?」
「連れて来なくていい。お前が冷やされてこい」
「は、はい?」
「……そのまま大人しく抱かれろ」
「……マスター……さすがに……人間保冷剤は無理あります……」

▼もうとりあえずどうにかしてほしい

「…………」
「……そんなにこっち見られても、私は何も出来ませんから」
「………リシャナ」
「名前呼ばれても、どうにも出来ませんから」
「…………」
「──抱きしめられてもッ、この暑さをどうにかするとか、私には無理ですからッ!! ていうかくっついたら余計に暑くなるだけじゃないですか!!」

▼保冷剤部下

「ま、マスター……言われたとおり、ひ、冷やされて、来ました、けど……」
「ん(両手広げる)」
「むぎゅ」
「…………」
「…………」
「……微妙」
「だから言ったじゃないですか……せっかく体張ったのに……」

▼暑いんだもん

「だからマスターッ! 拠点の中でも自分の部屋以外では服着てください!!」
「一部下の分際でワタシの行動を留められるとでも思ったか? そもそも、このワタシの美しい肢体を衣服などという煩わしいもので隠してしまうことの方が大地にとって重大な損失だというのに」
「俯瞰的に見て損失だったとしても周りから見れば刺激が強すぎるんです!! 私以外の魔物の子たちは『また全裸になってるわ』みたいな目で見てますけど、決して普通ではないですから!! 決して!!」

▼雷を見ながらなんでもない話

「おおー……すごい雷……」
「雨さえ降っていなければお前を外に放り出してどこまで当たらずに逃げ惑えるか試せたというのにね」
「ふふん、マスター。私ちゃんと学習したんですよ。雷はちゃんと条件が揃わないと人間に落ちてこないって」
「……ああ、そうだったね。ワタシの、足を、舐めて。……学習したんだっけねぇ? そんなことまでしないと学習出来ないなんて、お前の頭は本当に哀れだよねぇ?」
「くっ……あの時から何年も経ってるのに未だにドヤらせてくれない……!」
「いつまでも部下の成長が見られず主人のワタシも心が傷むばかりだよ。頭も、胸もね?」
「……もういーですよ、いつまでも考えナシで胸が薄い部下で。マスターの部下のままならそれでいいです」
「……単純」
「知ってます」

▼魔物の毛繕い的な

 背後から伸びてきた手は私の横髪を二、三度撫でて一房毛束を摘んだ。体育座りをする私を後ろから抱え込み、頭に顎を乗せたままギラヒム様はその毛束をじっと見遣る。

「せっかく主人が整えてあげたというのにもう伸びてきたなんて。毛先まで身勝手な部下を持つワタシの苦労も考えてほしいものだね」
「髪の毛にまで文句言わないでくださいよ……それは不可抗力ですもん……」

 理不尽極まりないご不満を述べながらも彼は私の髪を指で弄び続ける。何が楽しいのか完全に無意識なのかわからないが、よくあることだ。
 だから特に反応もせず満足いくまで彼のお戯れを野放しにしておくつもりだった。のだが、

「──!?」

 唐突に伝わってきた奇妙な感覚に私は目を見開いて勢いよく頭上を見上げようとする──が、その前に羽交い締めにされて阻止される。

 顔を上げられず続くその感覚。そして微かに聞こえる、リップ音。
 私は主人の奇行に耐えきれず、唇を震わせる。

「ま、マスター、な、なんで──何で私の髪の毛舐めてるんですかっ……!?」
「……躾の一環だよ」
「今絶対理由考えるの面倒くさくて適当に答えましたよねッ!?」

 部下の訴えを華麗にスルーし、あまつさえ喚けないよう口まで手で塞いで私の髪をしゃぶるのに没頭する主人。味がするのかしないのか、理由も定かではないが、やはり私の体は文字通り毛の先まで主人に支配される運命にあるらしい。

▼肩車

「たっっっか! か、か、かつてないほど高いですマスター!!」
「そこで喚くならすぐにでも振り落とすよ」
「マスターが先にやり出したんじゃないですか! こんな森の中で見晴らしよくなっても意味な……っぶふ!!」
「ほら、お前がそうして引っ掛かればワタシが歩きにくいだけだろう? 主人の歩行を妨げないよう全力で避けろ」
「む、無茶ですよ、なんでギリギリ私だけ枝に引っ掛かる位置歩こうとす、ぅぐむ!!」

▼うなじも大好きです

「……本来なら引きずって帰ってあげたいところなのだけどね」
「すみません……」

「(…………)」
「(たまにおんぶしてもらった時に見られる、マスターのうなじ)」
「(……なんたる役得)」

「…………すぅ、」
「……そこで深呼吸をするな」
「ごめんなさい完全に無意識でした」

▼噛まれても致し方ない

「……最近強く噛みすぎじゃないですか、マスター。いつにも増してくっきり残ってるんですけど、歯形」
「お前にとっても喜ばしいことだろう? 主人の愛をその貧相な体に刻めているのだから」
「……愛って言って誤魔化せると思ったら大間違いですからね。これ以上強く噛まれたら本当にしんじゃうかもしれないですよ私」
「フン、その加減が出来ないほど短絡的でもなければ食するにもお前の肉じゃ欠片もそそられないから、安心しろ」
「くっ……なんか素直に受け入れられない……!」
「大体、お前もお前で噛まれる直前にワタシの美に魅入られているじゃないか。気づいていないとでも思ったか?」
「それは、」
「何」
「…………噛まれる直前の、マスターの前髪除ける仕草が、ちょっと……いいなって……」
「……つくづく救いようがないよね、お前は」
「自覚はあります……」

▼実際すごく心地良さそうだった

「あ」
「……何をしている」
「……頭、撫でたくなっちゃいました」
「許可もなくしていいことではないね? この捕まえた手首、どうされたい?」
「う……、折られるのだけは、嫌です」
「嫌なことを伝えられたなら率先してやってあげたくなってしまうけれどね。……だが、」
「?」
「今日のワタシは機嫌が良い。……もうあと五時間、この造形美に触れる許可を与えてあげるよ」
「……ええと、意訳すると、マスターの美しい後頭部を五時間撫で続けろってことですか」
「お前がそうしたいなら“仕方なく”そうさせてあげる、それだけだ」
「…………喜んでナデナデさせていただきます」

▼床に落ちてる主従

*部下が落ちてる
「そんなところで這いつくばっているということはつまり踏んでほしいと、そういうことか?」
「……誰のせいで落ちてると思ってるんですか。なんで私の部屋のベッドなのにいつも引き摺り下ろされないといけないんですか」
「就寝前だというのに騒がしいね。ほら、ここを踏んであげたら少しは大人しくなるか?」
「うううう踵で腰ぐりぐりしないで下さい穴空きます!!」
「……さて、馬鹿部下の躾も済んだことだしワタシは寝るよ」
「…………」
「……おい」
「…………なんすか」
「寝る、と言っただろう?」
「……へい」
「いつまでもそこに這いつくばっていないで、とっとと責務を果たせ」
「結局私を抱き枕にするならなんでわざわざ床に落としたんですか……!?」

*主人が落ちてる
「んー、今日もお日様の見えない良い朝……。早くマスター起こしにい、ッこ!?」
「────」
「な、な……なに、え……足に何か、絡ま、」
「──リシャナ」
「ヒィッ!!!?」
「主人をこんなところに放置しておいて良い朝とは、大した度胸だね……?」
「ほ、放置って、昨日は別で寝たじゃないですか……!? なんで床にいるんですか!? ていうかなんで服着てないんですか!!?」
「愚昧なお前は覚えていないだろうね……? 昨晩せっかくこのワタシが来てあげたというのに、寝入ったまま一度も目を覚まさないという許し難い無礼を働いたことを」
「だからって何でこうなってるんですか……? 朝起きたら全裸の魔族長が床に落ちてるってさすがの私もトラウマになる勢いなんですけど泣いていいですか……?」

▼もし部下の胸が突如大きくなったら

「ま、マスター、見てください!!」
「騒がしい」
「ご機嫌斜めなのは重々承知なんですけど! 一回! 見てください!」
「鬱陶しい。怠惰を極めたお前と違ってワタシは忙し…………は?」
「起きたら──胸が大きくなってたんです!!」
「………………」
「もう極貧だの壁だの虚無だの言わせないです! 何なら今日に限って存分に揉んでくださっても……、……マスター?」
「…………違う」
「はい?」
「……頭が残念なだけならともかく見た目まで主人の意に反するなんて、部下のくせに勝手が過ぎるな? どうやら調教のし直しが必要らしい」
「は、え、調教って……ていうかマスター、何で怒って、」
「何で? そんなことも理解できねぇとはな? 胸に栄養がついても頭の中身が空っぽなら意味ねぇよなァ? ……罰としてその胸削ぎ落としてやる」
「け、結論が絶対おかしいですマスター!! なんで私の胸が大きくなっただけでそんな……ひ、こ、こないでぇえ!!」

 *

「……という夢を見まして」
「心底くだらないね。……神が残した古代遺産とやらにでも願わない限り、お前の胸がそうなることはないと言うのにね?」
「……夢の中の出来事がトラウマに残りすぎてこのままでいいかなと思ってる自分がいます」
「やはりお前は極貧だね、体も頭も」

▼朝の葛藤

「マスター」

 その呼びかけに私の服の裾を摘む指がぴくりと震えた。が、それ以降の反応はない。ただただ細い指がそこを摘んだまま離そうとしない。

「私、剣技の練習行きますから」
「────」

 彼の顔は見えない。お布団に引きこもったまま、裾を捕まえる手だけが見えている状態だ。だからその手に向かってお話をするけれど、声が返されることはない。

「いきます、から……その……」
「────、」

 だからなのか、面と向かってお願いするより申し訳ない気持ちになってしまう。けれどここで打ち負けて剣技の練習をサボってしまうのもよろしくない。

「……あ」

 困り果ててしばらくその手を見つめていると、不意に力尽きたように手放された。
 そして柔らかなお布団から綺麗な手がだらりとはみ出ているという何とも言えない光景が出来てしまって、それがあまりにも恋しくて心が折れそうになった。

 なんとか彼の元から離れ剣技の練習に赴いた私は、邪念を振り払うようにひたすら剣を振るうことしか出来なかったのだった。

▼飴鞭主人とやっぱりちょろい部下

「い、言われた通り……一人で……あそこの、敵、みんな……倒してきましたけど……」
「遅い。次はあと三十秒早く完了させろ」
「お、鬼……」

「ぜぇ……たおし……まし、た……」
「二秒オーバーだよ。帰ってからお仕置きだね」
「あく、ま……」

「…………終わりました」
「やけに不服そうな顔だね。まだ何も言っていないというのに」
「別に」
「……フン、仕方ない。……リシャナ、」
「何です」
「頭、撫でてあげよう」
「へ、」
「──イイ子」
「────」
「はい、終了」
「…………マスター」
「何」
「……何でもなんなりとご遠慮なくお申し付けください」
「…………(ちょろいな)」

▼ゆびぱっちんの練習その2

「剣、両手に持って……右手、上げて……」
「…………」
「人差し指と、親指だけ、離して……」
「…………」
「指、ぱっちん……!(すかっ」
「フン(パチィンッ」
「両手に剣持ったままって物理的に不可能じゃないですか? たぶん今指つったんですけど……」
「一挙一動が華麗かつ芸術的なこのワタシにとって物理的不可能などという言葉は存在しないのだよ(パッチィンッ」
「……今日も満点なドヤ顔で安心しました」

▼べったり主従シリーズ_したくなったのですが

「マスター」
「…………」
「……ギラヒム様」
「……何」
「こっち、向いてください」
「なにを──、」
「────」
「……いきなり主人の唇を奪うなんて、部下のくせに無礼が過ぎるね? ……しかも、」
「…………、」
「自分からやっておいて、その間抜け面は何だ」
「なんか、予想以上に、私からちゅーするのは、恥ずかしかったです……」
「……相変わらずの馬鹿部下具合だね」

▼服の構造的に

「ほぉら、ワタシの足だよ? 心から感謝して丁寧に舐め上げるんだね」
「…………マスター」
「何」
「足舐めることに対してはもはや何も言いませんけど……それをするためにマスターに下全部脱がれるとよくわからない罪悪感が湧くんですけど……」
「フッ、安心しなよ。この美しい足を前にして呵責の念を抱くのは至極当然の反応だ。存分に噛みしめればいい」
「念抱いてるのはそっちじゃないです。あとしれっと頭踏まないでください」

▼胸のことになると大真面目によくわからない会話をしだす主従

「ま、マスター、今度こそですよ……!」
「……お前にはそろそろ、実りのない戯言で主人のかけがえのない時間を奪う罰を毎度与えてあげるべきだね」
「爪磨きながらでいいですから! 一瞬! 見てください!」
「はぁ…………何」
「胸! これなら大きく見せられます! 空で売ってた、ばすとあっぷブラってやつです!」
「…………リシャナ」
「はい」
「ワタシは今、お前を手元に置いてから一番の失望と憐れみを抱いているよ。こんな部下を持ってしまった自身への哀愁の念以上にね」
「な、なんて言われよう……!」
「言われてしかるべきだろう。所詮、今お前の胸に存在しているのは、」
「────」
「ハ、リ、ボ、テ──だろう?」
「────ぁ、」
「貧しさを極めたその頭と胸に現実を叩き込んで、ワタシにこれ以上の失望をさせないことだね」
「…………マスター」
「何」
「私が、間違っていました…………」
「フン、それでも捨ててあげない寛大な主人に心から感謝するんだね」
「はい……」

▼歯磨きプレイ

「全くもって、人間は哀れだね……? 魔族ほど用途のない弱々しい歯ですらこんなものを使って磨かなければならないのだから」

 私の視線の先に見えるもの。奥から天井、室内を照らす魔石、整ったご尊顔、細い指先。そしてそれが摘んでいる──歯ブラシ。
 ただでさえ私の後頭部が乗る固くて柔らかいそこ、すなわちギラヒム様の太腿の感触に脳が茹ってしまっているのに。私から歯ブラシを奪い取った彼が今からしようとしていることはあまりにも危険がすぎる。

 だがそうして怯える私の表情を見て、彼はさらに笑みを深めてしまう。

「とは言え、充分遊べそうな物であるという点は、褒めてあげようか?」

 こんな状況でも魅入ってしまう端整な微笑みをたたえ彼が珍しく人間を称賛するが、歯ブラシを開発した人もそんなふうに使われることは想定していなかったと思う。

 盛大に顔をしかめて抵抗を試みるも、問答無用で親指を突っ込まれてぎゅっと結んでいたはずの唇は容易くこじ開けられる。そしてわずかに開いた隙間から、細くて硬い先端をねじ込まれた。

「むぐ、まふた、もっとやさひく……!」
「お前が抵抗するからだろう? 大人しく間抜けに口を開いて……危機感を覚えたなら右手でも上げればいい。その滑稽な様を見て笑うくらいはしてあげる」
「ただの闇医者って言うんですよそれ、ふぐむッ!」

 反論虚しく強引に奥歯の方へブラシを突っ込まれ、表面をごしごしと撫でられる。全然優しくない。むしろちょっと痛い。……でもなんだか、ものすごくそわそわする。

「っふ、んむ、」
「涎、垂れてるね……? ダメだろう? せっかく磨いてあげているというのに、汚してしまっては」

 歯列をなぞりあげるように擦られ、口内の唾液を混ぜて弄ばれ、ついでに耳へ息を吹きかけられる。
 恥ずかしさとむず痒さが限界を超えたのか目の縁には涙が溜まり、それは当たり前のように彼の舌に舐め取られた。

「ここまで主人に世話をさせるなんて、お前は本当に幸せ者だね? ……ぜひ、分けて欲しいものだ」
「あ、ふ……、」

 言いながら私の口内からゆっくりと歯ブラシを掬い上げられる。と、深くキスをした後のような細い糸が伝って、途切れた。
 彼は私の唇に残ったそれを舐め上げ、その流れのまま唇を重ねる。熱を持った浅い吐息がこぼれ、その後の流れを察した私はすぐさま右手を上げたが、絡め取るように彼の大きな手が重なり封殺されるだけだった。

▼長編3-2でリンク君の話をしている時のこと

「そういえば、この間森でリンク君に会った時思ったんですけど」
「何」
「……知らないうちに、すごい色の服着てるなって」
「ふむ。……珍しく、お前の感性に同意せざるを得ないね」
「なんで私の感性に同意するのにちょっと抵抗ある感じなんですか。……誰が決めたんだろ、今年の騎士服の色」

 ──この時、私は気づくことが出来なかった。

 リンク君が着ている緑の騎士服。
 ──その何十倍もすごい格好をしている人が隣にいる、という事実に。

▼大トカゲとレンアイそーだん

「おー、お嬢。何ボーっと突っ立ってンだよ」
「あ、リザル。……ううん、なんでも」
「そーかい。パッと見、顔死んでッケド」
「…………ごめん、やっぱり何でもなくない」
「だろーな。……どっこいせ」
「え……まさか、話、聞いてくれるの?」
「俺がここに座ってる間だけならな。暇潰しになるよーな話じゃねェと飽きちまうかもしれねェケド」
「……たまに、トカゲ族の下っ端の子たちが羨ましくなる」
「気持ち悪ィこと言ってねェでさっさと話せや」
「うん……。……あのさ、」
「おう」
「魔族って──みんなスキンシップ激しいのがデフォルトなの?」
「……何があったのか大体理解はしたケド、一魔族としては頭からケツまで否定してェとこだナ」

 *

「普通、ちゅーもぎゅーもその先もただの性欲処理ならともかくそれ以外の目的でするものなの……? それともあれも全部含めて処理、」
「あー、お嬢、察してッからそれ以上は明言しなくていいぞ」
「……ギラヒム様の、前までの側近もそうだったの?」
「俺は知らねェよ。他の側近は俺ら下位の魔物とは関わろうとしなかったしな。命令があった時くらいだよ。……ンで、知らねェうちにいなくなってンのがいつものオチだ」
「……そっか」
「つーか、人間にとっちゃそこらヘンのスキンシップとやらは喜ぶモンだと思ってたケドな」
「……魔族から見てもそうなんだ」
「そーゆーのを襲った時の絶望する表情が好物だッて魔物から聞いたンだよ」
「うぇ、悪趣味。……でも、喜ぶモンって言うのは合ってる。嬉しいって、大抵は思う。……けど、」
「けど、なんだよ」
「……嬉しいって思ったら、その先がしんどくなる」
「…………」
「……リザル?」
「──哀れだねェ、ニンゲン」
「────、」
「……ッてのが本音だが、一応先輩風吹かせとくンなら考えねェ方が吉だろーな」
「……本音って言っちゃったじゃん」
「どうせお前……ッてか、魔族の部下なんてロクな行く末は待ってねェンだ。今のうちからあえて過酷な道を進む必要性もねーだろ」
「……うん」
「それでも、その道が選びたくなった時ァ、何かを捨てなきゃいけねェだろーしな。それが人間性なのか命なのか何なのかは知らねェケド」
「…………」
「……で、お嬢の悩みは解消するどころかさらに深まっていくと」
「他人事……。……でも、」
「ンあ?」
「……やっぱり人間と魔物は違うって、すごく思った」
「ああ、違うな。それこそ、天と地ほどの差ッてやつだよ。……だからせいぜい、その時が来るまで悩み苦しめや、半端者。時間は無いかも知れねェが、ゼロじゃねェンだ」
「……うん。……リザル」
「あ?」
「ありがと」
「……感謝されるよーな話はしてねェケドな」

▼ずっと言いたかったこと

「暑苦しい」
「……今日だけは、このままがいいです。抱きしめ返さなくていいので……このまま」
「……たったこれだけの期間帰らなかっただけでそんなふうに惨めになってしまうなんて、飼い主がいなくなればすぐにでも狂ってしまうのだろうね、お前は」
「そう、ですね。……命より大切な、マスターですから」
「……主人に対する献身だけは褒めてあげようか」
「ありがとうございます。……マスター」
「何」

「──おかえりなさい」
「────。──ただいま」



8月号もお楽しみに!