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kobakoまとめ *2021.6月号
・ほぼ魔族長と部下夢主(+たまにリザル)の会話文です。
・時系列等々バラバラ
・series設定の話も含まれています。


▼雨の日

「────」
「……そう珍しいものでもないのに、まだ見飽きていないとはね。たかが雨ごときで」
「空では珍しかったんですよ。それに降る量だって大地の方が全然多いですし、音聞いてるだけで楽しいです」
「そんなことで満足感を得られる単純なお前が羨ましいよ。主人は部下の扱い方に日々頭を悩ませ、ささやかな安息を得る時間すらないというのに」
「…………」
「……なんだい、その顔は」
「……マスターがそう言うなら、時間、作りましょ」
「は?」
「今から一時間、一緒に雨の音聞いたままのんびりだらけて過ごすんです。……じゃなくて、過ごしてください。おねだりします」
「…………」
「部下からの切実なお願いなので、部下の躾の一環だと思ってやってください。……ちゃんと、頑張ってお仕置きは受けますし」
「……お前は本当に、愚かな部下だね。自ら進んでなじられたいと望むなんて」
「そーです。マスターの安息のために体張れる、馬鹿部下です」
「フン。……仕方ないから、聞いてあげるよ。感謝するんだね」

 それから一時間、本気でしょうもない話をして過ごしました。

▼雨の日のしょうもない話抜粋

「そういえば空にいた頃、夜になると騎士学校のトイレの中から誰かの手が伸びて来るって話、聞いたことあるんですけど……あれも魔物だったんですかね?」
「……その不潔な存在を同族として認めろと?」
「……おっしゃる通りです、すみませんでした」



「矮小な存在でしかない人間共に興味はないけれど。……強いて言うなら、お前が以前言っていた鍛冶職人とやらは興味があるかもね」
「え……意外です、マスターからそんなこと聞けるなんて」
「あまりに悲惨な腕だったなら、その場で切り捨てるけれどね」
「命懸けだぁ……」



「たまーに私がマスターより先に寝ちゃった後って……何してるんですか?」
「…………聞きたいか?」
「……いや……やっぱりいいです……悪寒が……」

▼本当になんとなく

「…………(じっ」
「……(すごい見られてる……)」
「…………(すっ」
「……ふがっ!?」
「…………」
「なんれ鼻つまむんへすかっ!?」
「……大した意味はない」
「ないって……!? は、はなとれちゃいますマスター!!」

▼一番普通のことされると一番困惑する

「ッひいぃ!!?」
「…………何」
「なに、て……なにって、何してるんですかマスター……!?」
「お前の手を捕まえているだけだろう」
「捕まえてる、ていうか、繋いで……繋いで!!」
「……大した意図もなかったけれど、そう頭のおかしい反応をされると遊んでやりたくなるね。騒ぎ続けるならこのまま舐め回してあげるけれど」
「違うんです、わ、私の反応がおかしいのはそうなんですけど……! いきなりそんなことされたら……って、本当に舐めないでーッ!!」

▼でっかいてるてる坊主に見えるかなと思った

「毎日雨ばっかですね、マスター」
「……本当に、鬱陶しいことこの上ない」
「さすがに、雨は魔術でも魔法でもどうにもならないですもんね。……するとすればおまじないなのかな」
「そんな根拠のない方法に頼るのは人間だけだよ。まあ、実に愚かな種族らしい発想ではあるけどね」
「一刀両断ですねー、私もそう思いますけど……」
「…………」
「…………ッふわ!!?」
「…………、」
「ま、マスター? なんで私のケープのフード、いきなり頭に被せてきたんですか……?」
「……別に」
「???」

▼塩対応主従

*主人の塩対応
「いつか、マスターと一緒に街でデートとか出来たらいいなってたまーに思います」
「ふーん」
「……部下のささやかな夢に対して冷めすぎじゃないですか、マスター」
「興味がないからね。そもそもこのワタシの貴重でかけがえのない時間をお前への相槌に使ってあげているという事実にまず感謝を捧げてほしいものだよねぇ?」
「……アリガトウゴザイマス(相槌の十倍労力使ってそうな屁理屈で攻めてきた)」

*部下の塩対応
「ほぉら……お前の大好きな主人が構ってあげているのだから、もっと幸せそうな顔をしたらどうだい? 嬉しくてたまらないんだよねぇ? ワタシに頭を撫でられるだけで」
「……撫でられるのは好きですけど、そんな単純じゃないです。……やっとお仕事終わって寝られると思ったら叩き起こしてくるし」
「可愛い部下が愛する主人を待ち望んでいると思ってわざわざ来てあげたんだよ? 眠気など吹き飛んで当然のはずだ」
「……マスターが来て安心したので眠くなっちゃいました、寝ます、おやすみなさい」
「寝かせてあげるわけがないだろう? 部下なら意地でも起きて、このワタシの、相手を、しろ」
「ううううなんでいつも私が眠い時にばっか構ってほしくなっちゃうんですかマスター……!!」

▼風邪ひき部下

「移っちゃいますよ、マスター」
「本気で言っているなら、その風邪とやらによっぽどやられているようだね。お前の頭は」
「心配してるのに相変わらずのひねくれ具合ですね……。……でも、」
「……何」
「……本当に移らないなら。おでこに手、当てたままにしててほしいです。すごく安心します」
「……与えた飴の分は、働きで返してもらうよ」
「もちろんです」

▼聞いてしまった

*雨に降られて濡れて帰った主従

「…………激烈に不愉快極まりない」
「い、今拭くもの持ってきます……! シャワールームの魔石も焚いてきますから……!!」
「チッ……」

「ま、マスター、これ使っ、」
「……っくし、」
「…………」
「…………」
「…………マスター、今、くしゃみ、」
「それ以上言ったら口を引き裂く」
「……すみませんでした」

▼ゆびぱっちんの練習

「…………(すかっ」
「…………(パチンッ」
「………………(すかっ」
「…………(パチィンッ」
「…………ッ、(すかっ」
「…………(パチィンッッ」
「──なんで!! 私の後に!! 良い音で鳴らすんですかァ!!」
「不器用の極みに立つ可哀想な部下へ主人自らお手本を示してあげてるだけだとも。もっとも、虚しいほど上達していないところを見るに、また一つ可憐なワタシの悩みが増えてしまいそうで敵わないけれどねぇ?」
「指パッチン一つ出来ないだけで精神ごりごり削る罵りよう……!!」

▼ひざまくら

*部下がする
「微妙な寝心地だね」
「……そですか(すっごい気持ちよさそうな顔してるけど)」
「で? その手はなんだ」
「……頭、撫でたくなってしまいまして、ですね」
「フン、どうしてもというのなら特、別、に、許可を与えてあげようか?」
「ぜひ、ぜひに! お願いします!!」

*主人がする
「……わたしいましんでもしあわせかもしれません」
「間抜けな死に方だね」
「この後頭部に当たるかたやわらかい感触が、あったかさが、ていうか見下ろされてる光景が……なんかもう、いろいろだめです」
「そのまま死んでしまっても構わないよ? ワタシのこの脚が命をも奪ってしまうほどの美しさだと証明することになるのだからね?」
「その死因でもいいかなと思ってる自分がいる……」

▼風呂上がり

「マスター」
「…………」
「…………」
「……そうやって両腕を広げるだけで、素直に抱いてあげるとでも思ったか?」
「抱き締めてくださいお願いします」
「却下」
「なんでですか!? 正直にお願いしたのに!!」
「…………シャワーを浴びた直後の主人の匂いを嗅ぎたいだけの部下の要求をすんなりと呑み込む訳がないだろう?」
「紛うことなき正論……」

▼これも仕事のうち一つ

「ああ、見てみなよリシャナ……この引き締まった腰の曲線美……見る者が思わず涙してしまうほどの艶やかさだよね……?」
「そですね」
「この肢体を映す衆目は本当に恵まれているよねぇ? 一生涯脳に刻まれ続けてしまうほど強烈な美なのだから」
「……そですね」
「恐ろしいのはここまで完成された美の概念が大地において他に存在しないということだ。だからこそ決して失われてはならないし、多くの者の目に焼き付かれなければならない」
「……マスター」
「これこそ万人に見せつけてしかるべき、……何」
「……とりあえず、早くお着替え終わらせませんか」
「へぇ? これだけ間近でこの身体を目にしておいて、無粋極まりない発言をしたものだね?」
「最初は私もすごく魅入ってましたけど、さすがにマスターの服持ったまま二時間立ち続けてるので心身共に限界が、ですね……ていうか、ずっと全裸ですけど寒くないんですか……」
「完成された美は時間と空間の概念すら狂わせるものなんだよ。故にお前が何時間立ち続けようが知ったことではないし寒さなど感じるわけがない」
「…………昨日の朝は寒くてベッドから出てこなかったくせに」

▼これすらも部下の仕事のうち一つ

「ほら、仕事だよ」
「…………マスター」
「何」
「……服くらい自分で脱ぎません?」
「与えられた役割に文句を言うとは飼い犬の風上にもおけないね? この柔肌を至近距離で拝むことが出来る権利まで得ておいてそれとは、救いようがない」
「……マントとかローブだけならやりますけど、部下にやらせた方が手間じゃないですか? ていうか、脱ぐのめんどくさいなら外でやる時みたいに魔力で消したらいいのに」
「ほう? それはつまり、お前の怠惰によって主人の貴重な魔力が削がれても良いと、そして主人が敵地で魔力不足によって危機に曝されてしまっても良いと。そういうことかな?」
「微妙に反論しづらい屁理屈……。もう、やりますからせめて脱がしやすい体勢になってください。はいバンザーイ」
「……お前も同じように全身剥いて敵地へ放り出してあげようか?」

▼仕返し未遂

「……あ」
「…………」
「(マスターがうたた寝してる……)」

「(本当に口開かなければ美人なのに。……開いてても大好きだけど)」
「(これだけ近づいても起きないし、お疲れなのかな)」
「(……ほっぺ、柔らかいんだよね)」
「(……この間すごくいじくられたし、今なら仕返しのチャンスかな)」
「(ゆっくり、指先で、触るだけ……)」
「(…………う)」
「(……む、無理だ……いつもああなのにこんな安らかな顔されたら、触れない……なにこの庇護欲掻き立てられる感覚……!!)」

*主人起床後
「……ずるいです、マスター」
「は?」
「隙見せてる間も防御硬いの、ずるいです」
「……端から端まで意味がわからないけれど、心底どうでもいいことを話しているというのは理解できたよ」

▼お目覚め直後

「……あ」
「…………」
「起きました? マスター」
「…………起きた」
「…………」
「…………」
「……目、覚めるまで寄りかかってていいですよ?」
「……ん」

▼肌見えてないのに

「どこかの国の風習で、今の時期に結婚すると幸せになれるーみたいな言い伝えがあるらしいんですよ」
「ふーん」
「私はマスターの部下のままが一番ですけど、婚礼の衣装は少し憧れます」
「ふーん」
「マスターが着る、婚礼の衣装……」
「…………」
「…………いつもより布面積多いはずなのに、なんで健全な格好に見えないんだろう……」
「……勝手に妄想を膨らませて勝手に文句を言うな」

▼懸念事項

「ま、マスター、行ってらっしゃい……!」
「……ああ」

「……ふぅ」
「なンだよお嬢、フツーの見送りにしちゃやけに慌ただしいじゃねェの」
「リザル……」
「そンな必死に見送らなくても、今日は森に出るだけだし夜には帰ってくンだろ」
「そうなんだけど……。…………」
「なンだよ」
「…………マスターなら、いつか全裸で外に出かねないと思い、そうなれば止められるのは私しかいないと思って……」
「……否定できねェあたり、俺もどうかと思うわ」

▼歯も好きです

「リザル、包帯巻くの手伝って」
「ンだよまた怪我し…………てねェな。相変わらず目立つ歯形だこと」
「こんなことで手伝ってもらって申し訳ない気持ちはとてもあります……」
「あの人も魔物だかンな、噛むのは仕方ねェケドそのうちホントに大怪我つくって来ンじゃねェの、お嬢」
「逃げる努力はしてるつもりなんだけど……ん、」
「ンだよ、何かあンのかよ」
「……噛まれる寸前に見えるマスターの八重歯が、どうしても頭から離れなくて…………」
「……実はそンなに悩ンでねェだろお前」

▼リザルとキースとことばのべんきょう

「エサ、エサ」
「ヨコセ、エサ、エサ」
「んー、もうちょい待って。今あげるから」
「今日はキースの世話か。お嬢も毎日忙しねェなァ」
「食べられかけたりしなければ、お世話自体は嫌いじゃないけどね。それにキースみたいに言葉使える子たちは意思疎通しやすいからすごく楽」
「世話が必要な下位の奴らで言葉使えンのはキースくらいな気もすッケド、それでもそこそこ数はいッからな」
「そうそう。……そう考えると、キースは下位の子なのに言葉が使えるってすごいよねぇ」
「俺も詳しくは知らねェケド、音波を出す器官が発達してどーのこーのしたらしいな。脳みそはちっせぇから、俺らの言葉の真似しか出来ねェケドよ」
「ほんと、リザルは何でも知ってるねぇ。……ん、また一匹寄ってきた」
「ブカ、ツタエル、デンゴン、ツタエル」
「え……私? なに?」
「ブカ、ゴ……ヒン」
「……? ごめん、いま、なんて……、」

「──ブカ、ゴクヒン、ゼツボーテキ、ゴクヒン」
「────────」
「……お、お嬢?」

 *

「…………マスター」
「いきなり何かと思えば、主人に向けて許される顔じゃないねぇ? ──極貧」
「やっっぱりそうじゃないですかッ!! キースに変な言葉教えて遊ばないでください!!」
「ワタシは絶望的な真実を包み隠さず下位の者に伝えてあげたまでだ。誰もが従う長の務めというものだよ? 極貧」
「極貧連呼しないでくださいよッ!! ちょっと語感気に入ったからって乱用しないで下さい!!」

▼魔族長とことばのべんきょう

 ──数時間前。

「極貧」
「ゴ、ヒン」
「極貧」
「ゴーヒン?」
「極、貧」
「ゴク……ヒン」
「極貧」
「ゴク、ヒン……ゴクヒン」
「フ……では行ってこい」
「ブカ、ゴクヒン、ツタエル、ゴクヒン!」

▼リザルフォスと魔族長

「──ギラヒム様?」
「ああ、リザル。馬鹿犬がここへ来なかったか?」
「えー……っと、お嬢なら来てねッスね。……また何かやらかしたンで?」
「新しい躾の方法を試そうと思ってね。生意気なことに悪い予感を察して逃げられてしまったが」
「あァ……そーいう時のお嬢、動物並みの勘の良さッスからねェ……」
「いくら逃げようとも結局ワタシの手から逃れられないというのに、困ったものだよ。地の果てにまで逃げたとしても結局は引き摺り戻される運命なのにね」
「ソッスネ。…………、」
「何か言いたげな顔じゃないか」
「あ、イエ。……本当にお嬢が地の果てまで逃げたとしても、追っかけンだろーなと思っただけです」
「……フ。馬鹿犬ほどではないが、お前も大概の身の程知らずだよね。一族の長に平然と知ったような口を聞くなんて」
「……知ったようなッてか、たぶン仕えてる中で俺が一番知っちまッてるからじゃないッすかね。……それが本当だってことも」
「そういうことにしてあげようか。ワタシは寛容な長だからね。従順かつ優秀な部下の多少の不遜を咎めたりはしないとも」
「そンな評価をいただけてンのは光栄ッすね。……とりあえず、お嬢見ッけたら早いうちに諦めて大人しく使われとけッて言っときますわ」
「ああ、任せたよ」

 *

「絶対、絶対嫌だ、絶対素直に出て行ってもロクなことにならない……!」
「そりゃーならねェだろーケドよ……。つーかあの人もお前の居場所わかった上で野放しにしてンだろ。弄ばれてンぞたぶン」
「知ってるけど!! あの笑み見た上で潔く出て行くのは絶対無理!! そうするくらいならどこまでも逃げ続ける!!」
「だから、地の果てまで逃げても逃げらンねって。諦めとけ」
「嫌だぁ……!!」

▼箱詰め主従

外から見られる透明な箱の中に……

*部下が詰められる
「ほ、ほんとに、閉めちゃうんですかッ……!?」
「そうだとも。せっかく口は塞がないであげたのだから、いい声で鳴いてしっかり主人のことを求めるんだよ?」
「意味がわからないですッ!! こんな狭いとこ嫌で……ッ──(バタン!!)」
「ああ……予想以上に良いものだね、こうして自分のモノを檻の中に入れる瞬間は。どちらかと言えば、これは水槽という方が正しいのかな? いずれにせよ、生きるためにワタシのことを必死で求める姿は……最高に興奮してしまうねぇ?」
「──! ──!!」

*主人が詰められる
「ほんとはこんなこと、無礼以外の何ものでもないと思うんですけど」
「……ッ、」
「……縛られて、口塞がれて、こんな箱に閉じ込められちゃってるマスターを見てちょっとだけザワザワしてる私は、悪い部下ですよね」
「──ふ、ッむ、」
「大丈夫です、ちゃんと解放します、ちゃんと。……でももう少し、見てていいですか?」
「──ッッ、!!」

▼こわい瞬間

 数十秒、あるいは数分。そうしたままでいた。

「おい」
「…………」
「……いい加減、離れろ」
「…………」

 主人の腰にしがみついている部下はその命令にも無反応だ。眠っている訳でも意識がない訳でもない。ただただ固い意志を持って、主人の体に額を押し付けている。

 当分、離れようとしないのだろう。天邪鬼のくせに、こういう時は頑固な部下に嘆息をこぼす。
 ……が、それを無理矢理引き剥がすまでには至らなかった。甘やかしている、という自覚に内心で苦笑する。そしてその事実に二つ目の嘆息をこぼしたくなる衝動を抑えながら、部下の丸い後頭部へ手を乗せた。

「……そうして必死に縋り付かなくても、呆気なく消えたりしないよ、このワタシは」
「────、」
「お前の単純な頭で思っているほど、魔族長ギラヒムは簡単に死んだりしない。……するはずがない」

 ぴくりと、部下の肩が震える。そのままわずかに顔を離して息を吸い、再び強く額を押し当てられる。
 ──さしずめ、「少し前に死にかけたくせに」とでも言いたいのだろう。相変わらず生意気な部下だ。

 だが、やはり今は振り払う気になれない。とどめていた嘆息を逃がし、ワタシは微かに震える体を引き寄せる。
 今日くらいは見逃してやろうと、小さく肩を竦めた。


7月号もお楽しみに!