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長編3-4_雷龍ラネール



「──龍」

 喉奥から絞り出された声は微かな震えを隠しきれず、かつて主従を窮地に追い遣った存在の名を表す。傍らの主人は剣呑な視線をたたえ顎を引いた。

 主従が放った魔力の弾丸により身を覆っていた魔力の膜が剥がれ、姿を現したその存在。主従それぞれの驚愕を受け、龍は品定めをするように片眉を上げた。

「驚いているようだなぁ魔族ども。それもそうだろうよ、この雷龍ラネール様にこんなところで出会っちまうなんてな。ついてないにも程が──、」

 瞬間。その言葉尻を遮ったのは、ギラヒム様が指を鳴らす快音だった。
 音に呼応し雷龍の周りにはおびただしい数の短刀と長剣が並び、巨大な体躯を包囲する。瞬刻の余地も許さず一斉にそれらは放たれ高く砂煙が舞い上がった。だが、

「チィッ……!」
「っうぇ!?」

 無数の刃に狙い撃たれたはずの雷龍の姿を捉える前に、私の首根っこは舌打ちをこぼした主人の手で後方へと引き摺られる。間抜けな声を上げ私が目を見開くと、主従が今まさに立っていた砂地が稲妻に穿たれ真っ黒に変色していた。

「──フィローネから聞いてた通り魔族と対話ってのは無駄っつうことか、せわしいねぇ」

 傍観するようなラネールの口調に対し、雷は一切の猶予を与えず主従を追い立ててくる。
 瞬間移動で逃げ回り、主人に抱えられたままの私は目を凝らしようやく雷龍の姿を認識した。
 片手をかざし空気中に電流を走らせる雷龍は、あれだけの猛勢を受けたというのに傷一つ無い。それどころかその身を襲ったはずの短刀や長剣は見る影もなく消え失せている。

 雷の追撃を躱し切り砂地に着地した魔族長を見下ろし、雷龍は自身の髭を撫でながら鼻を鳴らした。

「おめぇらもうろついてる魔物の亡霊どもと同じだ。問答無用で叩きのめして地下墓地へ送ってやろうじゃあねぇか」

 かつて封印の地で戦った水龍フィローネに比べその口調は軽薄ではあるが、突きつけられる鋭利な敵意に身が竦み上がる。
 それを横目に見遣った主人が、結んだままだった唇を静かに解いた。

「フン……果たして、亡霊と言われるべきはどちらなんだろうね?」
「……ほぅ?」

 大気を震わせる覇気に対し嘲笑を返す主人。
 その言葉の意図がわからず主人の方へ振り向くと、端正な顔立ちには皮肉げに嗤う微笑が浮かんでいた。

「雷龍ラネール。万年の生を授かっておいて、病なんて無様な理由で呆気なく命を落とした龍。──大精霊ともあろう存在がその体たらくだなんて、思わず女神にも同情してしまうよね……?」
「ま、マスター……」

 隣で聞く私も耳が痛くなる盛大な煽りに、雷龍の形相はさらに険しいものとなる。
 しかし主人の言葉が事実ならば、彼が告げた亡霊という言葉の意味は自ずと推測出来る。要するに、私たちの目の前にいるラネールは──、

「“命を落とした”って……あれ、お化けってことですか……?」
「気の抜けた言い回しをするならお前もここで地縛霊にするよ」
「流れ弾……!」

 敵に向けられるはずの冷たい視線と嘆息が容赦なく返されたが、同時に問いかけに対する否定も肯定も返ってこなかった。
 一見、目先で立ちふさがるラネールの姿は幽霊らしく透けていることもなく、記憶に残る水龍の姿と差異はない。他に思いつくのは幽霊型の魔物のポウ族だが、彼らと比べても少し違っている気がする。

 主人もその正体を断言出来ずにいるのだろう。答えは出さずに肩を竦め、魔剣を携え前へ出る。私も彼の背に倣い魔剣を手にしようとした、その時。

「リシャナ」

 主人の剣が真横に掲げられ、肩越しに主従の視線が重なった。
 向けられた流し目に刹那目を見張った私に、彼の唇は余裕げな弧を描く。

「あれだけ飴を与えてあげたんだ。存分に、ワタシの剣戟を盛り立ててもらおうか?」
「……もちろんです」

 彼の言葉の意図するところを呑み込み、私は自身の魔剣から手を離して頷く。
 代わりに腰から魔銃を抜くと、彼は艶っぽい笑みを見せつけて正面に向き直った。

 そうして主従が立ったのは普段とは逆の布陣。主人が前線で戦い、私が援護に徹する。
 ──つまり、ギラヒム様でなければ倒せない相手だということだ。

「黙って聞いてりゃあ好き勝手言いやがんじゃねぇか、魔族」
「……!」

 前に出た魔族長へ、低く唸る声が応じる。
 下位の者ならば立っているだけで呼吸が奪われる圧力を放ち、雷龍は背から襤褸切れを纏った大剣を抜く。周囲に電流が走り、雷龍が先程までとは比べ物にならない魔力を放っていると見て取れた。

「……昔の仲間がいる地獄まで落としてくれてやらぁ」
「既に戦場を退場した者どもに興味は欠片も湧かないね」

 感情のない言葉の応酬を交わしやがて生み出された沈黙に、小さな電流が威嚇するように弾ける。
 互いの一挙一動を見逃さない張り詰めた静寂は砂の一粒が風に乗る音すら耳に届きそうで──、

「──フ、」
「るァアアッ!!!」

 それを断ち切ったのは同時に落ちた短い呼気と吠え猛る喊声だった。

 雷龍が巨躯に見合った大剣を勢いよく振り回すと、砂を纏った大気が真一文字に切り裂かれる。
 一振りで暴風を起こす剣撃を主人は軽やかに飛んで潜り抜け、身を捻って細身の魔剣を振り下ろした。
 雷龍に比べれば彼の身も刃も小さく、到底敵わないように思える。が、下される剣圧は大剣に劣らぬほど重く、鮮やかだ。

「ぬうッ!」

 高い風切音を響かせ斬り下された黒刃を、雷龍はすかさず身を引き大剣で受け止める。鍔迫り合った刃からは電流が迸り、散り弾けた閃光が視界を明滅させた。
 幾度か刃が交わされた後、一際激しく電流が弾け、反動で主人が後ろへ大きく飛び退く。

「打たれろぃ!!」
「!」

 その隙を見逃さず雷龍が威勢良く声を上げ片手を突き出すと、黄の装束の懐が刹那瞬いた。雷龍の手に瞬時に集約された魔力は周囲の空気を鳴動させ、雷槌を生む。
 魔族長が視線を向ける前に雷槌はその身を狙い──、

「む!?」

 体を穿つ直前、雷は横からの衝撃に打ち払われ、驚愕に目を見開く雷龍の眼前へ魔族長が飛び込んだ。
 頭を叩き割る勢いの魔剣の剣圧を寸前で受け止め、獣のような怒号を上げながら大剣が横薙ぎに払われる。
 即座に身を引いた魔族長の元から雷龍が背後へ視線を走らせると、地上には銀色の銃を構えた部下の存在があった。

「け、結構魔力、持ってかれる……!」

 目論見通り魔銃で雷を相殺することは出来たが、やはり雷龍クラスの魔力を吹き飛ばすのはかなり骨が折れる。
 大精霊の無尽蔵な魔力量に顔をしかめていると、主人の攻勢を往なし切った雷龍がこちらへ振り返り腕を突き出した。

「上手い援護をするじゃあねぇか嬢ちゃん! 魔族じゃなければ弟子に迎えてたんだがなッ!!」
「──!」

 先ほど主人を狙ったものと同等の魔力を集約させ、雷龍の雷が私の身を貫くべく放たれた。
 が、瞬間移動でその前に現れた主人が魔力を込めた一閃でそれを弾き返し、勢いを殺さぬまま雷ごとラネールの体躯を圧し返す。
 重量感に見合わぬ速度でラネールが大剣を翻せば双方の刃は交わされ、甲高い金属音が空に響き渡った。

「生憎、この駄犬はワタシにしか扱えないものでね?」
「はんッ、話に聞いた通りの執着具合だなぁ!」

 剣戟の間に敵意の滲んだ言葉を交わし、一度背後へ飛び退いた主人が身を捻って短刀を放つ。無数の刃は雷に弾かれず一直線にその体躯へと迫った──が、

「──!?」

 短刀が辿った末路に私は思わず目を見開く。
 刃は、雷龍の身に当たらなかった。
 弾かれたわけでも振り払われたわけでもなく、それらは、

「消えた……!?」

 雷龍の身を貫く前に、何の前触れもなく“消えた”。
 視線の先で起こった現象に呆気に取られる私の前へ主人が着地する。
 部下と同じ光景を目にしていた彼が吃驚を露わにすることはなく、苛立たしげに眉根をひそめた。

「フン、ただの亡者のくせに煩わしい」

 彼は短刀が消えることを想定していたらしい。だがその理由を私が問いかける前に雷龍が一気に主従の元へと距離を詰め、大剣を構える。

「まとめて三枚おろしにしてやらぁッ!」
「うぁッ……!!」

 横殴りに振るわれた大剣は咄嗟に身を引いた主従の体を両断することはなかったが、巻き起こされた剣風に私の体は上空へ吹き飛ばされた。
 振り回される視界を辛うじて捉え直し、身を捻る。そのまま私の真下で片腕を掲げる雷龍の姿を睨み付け、空いた片手で魔剣を抜いた。
 呼吸を止め、雷が放たれる前にその腕を切り落とそうとして──、

「あ……っ!」

 円を描き一閃を放った魔剣の刀身は短刀と同じくラネールの体に触れる前に消え、虚空を裂くことしか出来なかった。
 行き場を失い空中で無防備になる私を雷龍の視線が捕まえ、その巨躯の懐が瞬く。本能が警鐘を鳴らし、世界が停滞する。

「や、ば──!」

 喉が凍り付き、視界一杯に光が押し寄せ白一色になった瞬間。
 私の体を主人が掻き抱き、雷に貫かれる直前、間一髪瞬間移動で回避した。

「次に短絡思考を振りかざしたなら、わざと雷に当てて串焼きにするよ」
「ごめんなさい食べないで下さい……!!」

 雷で丸焼きにされかけた部下を胸に押し付けながら言い放ち、ギラヒム様は再び追駆する雷を避け、逃げ惑う。
 私は先ほど目にした光景を脳内で巡らせ主人の顔を見上げた。

「マスター、あの龍、全然攻撃当たらないです!」
「見ればわかる」

 いつかと同じ報告を口走り、同じように淡白な返答が返された。
 先ほどまで繰り広げられていた剣戟を見る限り、ラネールの大剣と主人の魔剣は何の違和感もなく交わされていたはずなのに、何故ラネールの体に触れる直前に武器が消えてしまうのか。

 同様に対抗策を模索しているのか主人は思案げに唇を結んだままだ。そうしている間も雷の猛追は止まず獲物を追い詰めていく。
 白い光に網膜を焼かれながらも視界の端でラネールの懐が瞬く様を捉え、私はすかさず魔銃を構える。

「……っ、」

 主人の死角から落ちてきた雷を弾丸で弾いたその時、銃を持つ手が奇妙な脱力感と共に軽く麻痺する感覚に陥る。……短時間で魔力を使い込みすぎたらしい。

 ──するとその時、部下の様子を見ていた主人が何かを推し量るように視線を下ろし、私の体を片腕で抱き寄せた。

「……リシャナ」

 名前を呼び、私が返事をする前に彼は薄い唇を私の耳元へと寄せる。そしてそのまま、

「────」
「え……」

 私の鼓膜に直接言葉を吹き込み、同時に右手同士を重ねてぎゅっと握られた。
 温もりに紛れその中にあった感触に私が瞬きを繰り返し、ゆっくり身を引くとそこには整った得意顔が待っていた。
 一瞬魅入られ、すぐに私はたった今吹き込まれた彼の言葉に対し盛大に顔をしかめる。

「……やりますけど。出来れば今回限りがいいです、その作戦……」
「フ、善処しよう」

 十中八九部下の要望を聞く気がないギラヒム様は笑みを深め、私の体を抱え直した。

 一向に勢いの衰えない雷の嵐を主人が掻い潜り、私は魔力を温存するためにひたすら彼の腰にしがみつく。
 轟音と閃光に支配された戦場を飛び回り、牽制の短刀を放ち──そして雷龍が力を溜めるために生まれた数拍の時間、主人が地上へ足を着いた。

「隙を見せたな、魔族ッ!!」
「──!」

 その瞬間を見逃さず、ラネールが荒々しく唸り声を上げ、電流を帯びた片手を天へ振り上げる。
 雷龍が溜めた魔力は急激に膨れ上がり、これまでの数倍の速さと質量を持った雷が魔族長の元へと降り注ぐ。
 砂埃が巻き上がり、片腕に部下を抱えたままの魔族長が雷の鉄槌を耐えきることは不可能で──、

「……やはり部下は、撒き餌として使うに限るね?」
「何──ッ!?」

 砂埃が晴れ、そこに立っていたのは艶然とした笑みを深める魔族長ただ一人。

 その言葉を耳にし、魔族長の傍らに部下の姿が無いことに気付いた雷龍は咄嗟に四方を見回す。
 雷に打たれて影ごと焼かれた可能性もあったが違う。余裕をたたえる魔族長の表情と、微かに感じる女神の血を持つ者の気配。それは、

「んなッ……!」

 ──部下の姿は、空にあった。

 雷が主従の元へ降り注ぐ直前、ギラヒム様の手により天高くに放り投げられた私は重力に従い一直線にラネールの元へと落ちていく。
 そして目を見開くラネールを見据えて魔剣を抜き、主人から手渡された小さな石──時空石に魔力を込めた。

 私の微々たる魔力に反応した時空石はその大きさに見合った範囲、すなわち私の手の中の魔剣のみを覆う範囲で時間遡行を起こす。
 青の光が燦然と輝きその中で閃く黒い刀身。陽光を反射する刃は普段目にするより鮮やかに見えて──、

「モルちゃんの仇ッ──!!」

 身を回し、全身を使って斬り下した黒閃は、ラネールの懐を真っ二つに切り裂いた。


「……イイ子」
「わ!」

 剣撃を放ち、宙に投げ出された私の体をギラヒム様が受け止め一気に距離を取る。彼が私に命じた“部下打ち上げ奇襲作戦”は何とか成功したらしい。
 ギラヒム様は私の手の中で既に魔力を失った石を摘まみ上げ、透き通った青色を覗き込んだ。

「それにしても、まさか“でぇと”の拾い物がこんなところで役に立つとは。たまには部下も甘やかしてみるものだね」
「ようございました……」

 主人の細い指が摘まむ小さな石。それは主従で“でぇと”をした時に彼が砂地から拾い上げていた時空石だった。
 やがてその視線は懐に奇襲を受け初めて表情を引き歪めたラネールの元へと注がれる。
 魔剣の斬撃はラネールの体を装束ごと浅く裂き、鮮血が滴ると共に青い光が灯った石の首飾りがこぼれ出ていた。雷龍が雷を打つ度に懐で瞬いていたのはあの光だったらしい。

「……時空石って、あんな使い方も出来ちゃうんですね」
「女神が従える大精霊故にだろうね。鬱陶しいことこの上ない」

 ラネールが首からさげるそれは、先ほど私が使った石と同じ輝きを持った鉱石を磨き上げたもの。──時空珠、と主人は言っていた。

 つまり、今私たちの前に存在する雷龍は石が復元させた過去の姿そのものだったということだ。
 時空珠の効果範囲内では過去に存在しない現代の物理攻撃は消え去ってしまう。通用するのは魔銃のように魔力を込めた攻撃だけで、逆に雷龍の魔力が時空珠の効果範囲を操作すればあちらの攻撃は通されてしまう。……過去に死んでしまっている相手だとは言え、素直にずるいと思ってしまう。

 よって、ラネール本体に攻撃を与えるにはこちらも時空石を使い同じ条件下で戦わなければならなかった。
 まさか火山に続いて砂漠でも飛び道具として使われる羽目になるとは思わなかったけれど、時空石が手元にあったのは幸運だったと言えるだろう。

「でも、これで戦う方法はわかったってことですよね」
「そうだ。……あの時空珠を破壊するか奪い取ることが出来れば奴は元の亡骸に戻る。所詮、死者は生者に勝てはしない」

 主人が目を細めて魔剣を握り直す。大きな負傷はしていないものの、やはり先ほどの雷の一斉攻撃を防ぎきることが出来なかったのか、彼の体にはところどころに細かな亀裂が刻まれていた。
 その姿を一度だけ目にし、私は唇を結んで再び前を見据え直す。

「──ッ!」

 その瞬間。
 ぞくりと体の奥底がざわめき、血が逆流するかのような感覚が襲いかかった。
 通常の流れに背き、血が意志を持って何かの元へ誘われてしまうような不快感。内腑が弄られるような感覚に揺らされながらもその感覚が指し示す対象が何なのかはっきりとわかる。

 唇を噛みながら何とか地に崩れ落ちてしまわないよう踏みとどまり、傍らの主人にそれが示す意味を小声で告げた。

「……マスター。ゼルダちゃんが、時の神殿に近づいています」
「────、」

 彼はこちらに視線を寄越すことはなかったが、その頬が微かに強張りを見せた。
 ゼルダちゃんが具体的にどこにいるのかまではわからないが、森や火山で受けた比では無い倦怠感が全身にのしかかっている。おそらく巫女の中の女神の力が完全に目覚めた影響なのだろう。

 とにかくすぐにでもこの場を離れ、時の神殿に向かわなければならない。しかし雷龍をここで倒さなければ、追従を振り切って神殿にたどり着くことはおそらく不可能だ。
 光明が見えた矢先の戦況の悪化に冷たい汗が首筋に伝う。そして、

「巫女の元へは行かせねぇよ」
「……!」

 私の脳内を見透かしたように、低い恫喝が投げ出される。
 顔を上げれば、自らの魔力で傷を塞いだ雷龍が冷然と魔の者を見下していた。

「おめぇらの目的は時の神殿に向かってる巫女だろう? んなことぁ最初からわかってんだよ」

 襤褸を纏った大剣が振りかざされ、射竦められるほどの鬼気が迫る。大剣の剣先は砂の地面に突き立てられ、首から下がった時空珠が薄青の光を宿した。

「過去の戦争と同じだ。どれだけ大地を支配しようとも、戦場で優位に立とうとも、おめぇら魔族は必ず討ち取られる」

 雷龍が魔力を込めれば時空珠の光はさらに広範囲に広がり、周囲一体が新緑の地へと塗り替わる。
 そこに現れたのは戦意に満ちた赤い光を双眸にたたえる機械亜人──ロボットだった。

「おめぇらを叩きのめすんには、ちぃとばかり骨が折れるとはわかったさ。だが、時の神様はまだ魔族側に落ちちゃいなかったらしい」

 出現したロボットたちは意志のない表情に二つの赤の光を宿し主従を取り囲む。
 時空珠の効果範囲内に入り、ラネールへの攻撃は先ほどよりも通りやすくなった。しかしこの数のロボットを相手にしながらの戦闘はあまりにも分が悪すぎる。

「こいつらは戦闘用の機械亜人だ。こんだけの数がいりゃあ時間稼ぎどころか釣りが出るだろうよ」
「……チッ」

 舌打ちをこぼし両目を歪める魔族長に対し、雷龍は鋭い眼光を向けながら大剣を真上に掲げる。──そして、

「大人しく観念して、こいつらの光に焼かれて──、」

「この錆臭ェ機械がどうしたッて?」

 ──ロボットたちは、背後から襲った灼熱の炎に一瞬にして包まれた。

 その地にいた誰もが何が起きたのかを理解出来ず、炎から逃れたロボットの残党も次から次へと片手剣で掃討されていく。

 鉄を断つ破壊音と燃え盛る炎の円舞の中から姿を現したのは、一匹の大トカゲ。

「──噛ンでも味のしねェ機械どもは、大人しく火に炙られとけや」

 別軍として分かれていたはずのリザルフォスたちの炎が、新緑の地を赤へと変えた。