「マットの告白」-1P
イギリス・ハンプシャー州
ウィンチェスター
「お買い物、お買い物ーっ」
「あ、ダメだよ。カートはボクが押すんだってばー」
「ねぇねぇロジャー、バノフィー・パイが食べたいよ」
「虫歯が治ってからにしなさい。こらセオ、オスカー、喧嘩をするんじゃない……」
この日は、月に一度の皆揃っての、町の中心街への外出だった
施設の中で年長に属す出不精のマットも、この日ばかりは年下の子供たちの面倒を見る役を担って同伴していたが、彼の目線の先にはメロがいた
はしゃぐ子供たちの脇で佇むメロは手すりにもたれて浮かない表情をし、ぼんやりと遠くを見ていた
彼の心が先日日本へ去ってしまったLの元にあるのは明らかだった
Lが去った後のメロは全身のエネルギーを吸い取られたように、いつもこんな風に二、三日はもぬけの殻になった
Lとメロの関係は特異で、第三者が割って入ることの出来ない独特な感情の網で構成されていた
メロといる時のLは、彼に惜しみない愛を注ぐ一方で大切な私物を死守しようと、周囲への威嚇ともとれる鋭さをその瞳に宿していた
Lといる時のメロもまた、マットの知る彼とは違っていた
Lが築き上げた排他的な要塞の中で守られる時メロは、呪わしい過去やトラウマから解放され本来の、強がりを要しない純粋な少年に立ち返った
メロが脆(モロ)さや怯えを包み隠さずに吐き出す相手はLだけだった
Lが触れると、まるで彼に吹き込まれたようにメロの目には生気が充満して鮮やかに色づき、きらきらと光輝くのだ
メロの言動全てに、その真情が表れていた
もしかするとLとメロは、もっと特別な意味で繋がっているのかも知れない
メロに恋心を抱くマットの目にはそんな風に映るほど、彼らのやり取りは親密だった
何かでLと争う気など毛頭なかったが、それでもマットはメロに近付かずにはいられなかった
仕方がない、それが恋というものなのだから―
[ 27/83 ][*prev] [次へ#]
[ページ一覧へ]
[しおりを挟む]