「エンドレス」-2P
あなたの死は、私の中の何かを壊し、持ち去ってしまった
メロ、メロ
喉元まで込み上げて、決して囁くことのなかったこの言葉を、私と同じようにあなたも胸の奥で焦(ジ)らし続けていたのか
もはや考えることが苦痛になっていた
L、世界、人々
私の中で途端にそれは溢(アフ)れ、何もかもを灰色に変えた
見るものの新鮮さは失われ、食物を口にしても味はなく、瞳は乾き、心臓は不規則に混乱して体と心を辛くした
自分を閉じ込めたくなったのだ
メロのいた、激しくも色鮮やかだったあの世界に
部屋に閉じこもり扉の鍵をかけると、ニアはソファーの上に置き去りにしていた「それ」に縋(スガ)りついた
壊れてしまったオルゴール
それは、メロからもらった唯一の有形物
それは、メロの母親の記憶がつまった唯一のもの
母親と自分を繋ぐ唯一の物を、ある時何を思ったか、いらないといってメロはくれた
そしてメロが亡くなった年のクリスマス、彼の死に共鳴するかのように息絶え、何度も修理しようとしたがオルゴールが息を吹き返すことはなかった
眠り際に繰り返し聴いた優しい音色は、もう聞こえない
穏やかに魂を愛でるあの曲
それでもこの小箱を抱えている時だけ、ニアは安心していられたのだ
大きな鏡の前に配された白いソファの上に丸くなり、膝元に彼の「残り香」を抱えると彼の心はたちまちあの頃に帰った
キラ事件を機に再会してから、メロは何度か特殊回線を介してニアに電話をかけてきた
ニアの、会えない寂しさを素直に伝えない性格を彼はよく把握していた
メロの方も甘やかすのは趣味ではなかったが、自分からは折れない強情な彼の気持ちを汲(ク)んでそうした
「おまえ…まだそんなもの聴いて寝てるのか?捨ててしまえよ」
雨の降る11月のある夜
寝入り際に電話をとったニアの背後から聞こえたメロディーにメロは吐き捨てるように言った
「嫌です。人の気も知らないで無神経なことを言わないで下さい、メロ」
「人の気も知らないのはどっちだ?…。そんな物なくたって、傍にいる」
たった一度口にした愛情は、彼のありのままの心だったか
折れない性格の二人は衝突も多かったが、昔から互いに己の活力を見出す「価値ある存在」でもあった
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