「夜明け」-2P

「もしもしッ?」

<あ……、月君>

勢い良く電話を受けたことに、少し言葉をつまらせる

「竜崎…」

<はい、私です>

電話の主は竜崎だった

「どうしたんだ?珍しいじゃないか。お前から僕に電話をかけてくるなんて」

<そうですね>

心の乱れを悟られまいと努め発した、いつもと変わらない僕の皮肉を竜崎は単調な受け答えでさらりと聞き流した

慣れたものだ

<一年の締めくくりに色々考えて、たまには珍しいことをしたくなりました>

「へぇ……色々って?」

僕の追求に竜崎が指をくわえて瞬(マバタ)く様が想像できる

<……>

<……………>

<月君>

「ん?」

<月君がキラですよね?>

「……」

突飛に繰り出された露骨な質問の裏に見え隠れする曖昧(アイマイ)なその真意

「いきなり何だ?」

<"はい"か"いいえ"で答えてください>

有無を言わせぬ尋問に、僕は電話口で失笑した

「…その質問なら、今までに散々受けた」

<"はい"か"いいえ"で>

感情を置き去りにした声

何を考えて、今更そう尋ねる

お前はまた電話口で、あの冷たく感情を殺(ソ)いだ顔で、僕の愛を疑いの篩(フルイ)にかけているのか

「竜崎……何度訊かれても答えは同じだよ。答えは"いいえ"だ、僕はキラじゃない」

溜め息混じりに答えながら嘘を塗り足(タ)し、互いの間を隔てる壁が厚みを増すのを感じていた

<………>

竜崎が貝のように黙って、僕は内心突然電話を切りはしないだろうかと考えた

<……………それなら……それをどうやって私に証明するんです?>

耳元に低く愛想のない声が返ってきた

<月君。どのような筋道で推測しても、私にはあなた以外に考えられない>

「…知ってる」

ああ そうさ、お前は正しい

僕がキラだ

電話の相手を疎ましく思う潜在意識が、無意識に僕を黒く歪んだ表情に変えた

「お前が何を言いたいのかわかってるよ、竜崎。僕がすべきことは、お前の中にある僕への疑いのパーセンテージを"ゼロ"にすることだ」

<………はい>

「わかってる。二人で捕まえよう…キラを。覚えてるか?お前、いつか言ったよな。全てが終わったら、僕とアメリカで探偵事務所を構えたいって」

<はい。月君と組めば、その稼ぎで私は何もせずに好きなだけお菓子を食べて、好きなだけゆっくり休めそうですから>

遠慮を知らない本音で淡々と言い切る

「え?何だよ、初めて聞いたな。それが僕と組みたい理由?」

僕がオーバーに不満を漏らすと、竜崎の柔らかな低い笑い声が微かに聴こえた

果たすことが不可能な約束だとわかっている

竜崎が一度だけ口にしたその思いの100%が本心だとは思わない

それでもいつからか僕の切なる願いとなり、有り得ない未来でも、心に描けば儚(ハカナ)い幸福に包まれた

お前の控え目な笑い声を脳裏に浮かべる時、僕は心から、心の底から幸せでいられるんだ


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