「夜明け」-1P
僕は今、迷っている
わかるか、竜崎
迷っているんだ
灯りも点けずに暗い部屋で濃度を増してゆく心の靄(モヤ)に埋もれて、僕は現れる陰鬱と独り対峙する
携帯電話を片手に馬鹿みたいに判断しかねていた
何時間が過ぎただろう
年明けの日の出を一緒に見たいと思い、電話をかけようとして、僕は自分自身を咎めた
竜崎の言葉が頭の中にフラッシュバックした
「月君、私と日の出を見たいなんて……お互いが、私たちに同じ明日が来ることを期待するようで嫌です」
………
あの時の、竜崎の神妙な顔
爪を噛み、悲壮感を浮かべ、口の端をぎこちなくひきつらせたあの時の目
一度たりとも僕を見ずに
寒さに手が悴(カジカ)む12月の日暮れ
照らす太陽がビルの谷間へと沈み眠りにつくと、竜崎の色白な横顔からは血の気が失せ、陰鬱な表情と同調し、まるで冷たく固まる死人のような印象を与えた
「……」
僕は黙り、着ていた厚手のジャケットを無言で脱ぐと竜崎の正面に立ち、体を抱き込むようにして寒そうに見えた丸い背にそれをかけてやった
向き合った竜崎の、逃れるように視線を俯(ウツム)けた仕草が僕の胸を裂いた
「そう…期待してはいけないのか」
竜崎は言葉を形どる僕の口をその目に焼きつけるように、すぐ傍の距離でじっと見つめた
そしてそのまま何も言わず黙り込み、遠い目をして僕らの迎える未来を見据えているようだった
感情の欠落したその無機質な顔を見ながら、僕は自分が竜崎の繰り出す言動にひどく臆病になっていることに気付いた
そして僕は今も、携帯電話を片手に戸惑っている
僕はこれが、竜崎に抱く愛が更に深みを増したことの現れなのだと認識した
傷付くからじゃない
いつからか、自分の行いによってあの表情をさせることが堪らなく辛くなっていた
竜崎があの遠い表情をする時
それは僕が、素肌に触れる時
微笑みかける時
僕が、本気の愛を伝える時……………
もはや抜け出せない深みに嵌(ハマ)った気がした
「くっ…」
僕は竜崎を殺しめたいキラと、愛し抜きたいと切望する夜神月の二面性に板挟みになり、頭をもたげた
心が入れ替わり立ち替わり双方に支配され、気が遠くなる
一体どっちが、本当の僕だ
ピピピピッ
朦朧(モウロウ)としていると、手元で鳴り響いた着信音に驚かされて、画面に現れた名前に目を見張る
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