シークレット・エピソード〜口約〜-3P

「メロ、いますか?私です。入りますよ」

数回ノックし耳を傾けてみても返事がなかったので、Lは扉を開けて中に入った

見渡すまでもない広さの部屋に置かれた窓際にある方のベッドの上にメロは居て、横になって丸まった全身はほんの僅か、頭の頂が覗くほかは毛布に隠れて見えなかった

Lは傍までいってすぐ脇に立ち、優しく起こすようにして彼の髪に触れた

「来てくれなかったんですね」

一言だけ囁き、返事を待つ

「メロ、顔を見せてください」
「やだ」

意地を張った声が毛布の下から聞こえた

「私が言ったことで気分を害したとしても、施設での守るべき規律を乱すのはよくありません。私に怒りを向けるのは構わないが、そのことで周囲を動揺させたり不安にさせてはいけない。あなたには周囲に対して、Lを継ぐ可能性が大いにある人間としての責任がー」
「やめろよ!!」

メロは飛び上がり、髪を乱した怒りむき出しの顔で怒鳴った

「そんなものどうだっていい!!あんたなんか、どうにでもなればいいんだ!僕の知ったことじゃない、Lになんか絶対になるものかッ!!」
「メロ」
「今すぐ帰れよ!日本に帰れ!もう二度と来るな!僕の前から消えろ!!」

殴打を繰り出す腕を冷静にまず一本確実に仕留めたあとはもう簡単で、体格の違いからくる圧倒的な力の差でメロは簡単にLに捕まってしまい、毛布の下から引きずり出されてしまった

「本心か?」

諦めの悪いメロは目を合わせず、拘束に憤慨して興奮した野生動物のような唸りを上げた

「二度と会いたくないと本気で言っているのか?メロ。それが本心なのか?」

怒気に満ちた追及に、メロの表情が崩れ始める

「だってッ…!邪魔だって言ったじゃないか!僕が邪魔だって…ッ!あんたが考えているのはLの利害得失だけだ!あんたが欲しいのは僕のLに成り得る才能で、初めから僕自身に関心なんてないんだ!!」

「メロ…何て事を言うんだ」

心外だと、らしくもなくLは打撃を食らったように顔を歪め、悲鳴を上げるメロを抱きしめた

「あの時…おまえが日本に来たいと言った時、おまえを失うかもしれないという思考が率先して働いて怖くなったんです。私にはおまえが全てだ。私の元におまえを置くことで生じるリスクはあまりに大きく、犯せるものではない。キラが標的に手を下す方法はいまだ不明だ。おまえに会っている今この瞬間も、私は何か起こるのではないかと怖くて仕方がないんです」

Lは辛く悲壮に満ちた表情でメロの体を強く抱いた

「キラなんか怖くない。離れて暮らすなら死んだ方がいいよ、ねぇ…!」
「メロ…」

感情を吐露し自分の胸にすがりつくメロを、Lは愛おしそうに抱き寄せて前髪を掻き上げ、額に優しくキスをした

「僕がもし馬鹿で出来損ないでLになる可能性なんかなくても、今みたいにするのか?」
「ええ…勿論です。もはや私にとって、おまえがメロか否かは重要ではない。確かに最初は違った。おまえの頭脳に惹かれた。けれども今、私が見ているのはどんな仮面もかぶらないおまえ自身なのだから、ミハエル」

メロを本当の名前で呼んだそれは、確信を持った静かで力強い言葉だった

メロは心を開き見せるように、至近距離でLの目をじっと見つめた

普段あまりアイコンタクトをとらないLもまた、メロだけに差し向ける情熱を灯した目でじっと彼を見返した

「初めて僕を本当の名前で呼んだね」
「……ずっと呼びたかったんですよ」

低い芯のある声を、メロは耳に焼き付けた

「……私が規則を守れとは、言えたものではないですね。おまえのことを私情を絡めた目で見てしまった。私は、一番侵してはならないルールを破ったんだ」

「好き…好きだよ。好き、エル」

熱っぽく耳元で繰り返すメロの首に唇を押し付けてそのまま歯を立て、Lはメロのうなじを味わうようにゆっくりと甘噛みした

「あ…」
「いけない子だ」

それだけで感通し、か細い声を洩らしたメロの首に舌を這わせながら呟く

目の前には纏(まと)う空気をがらりと変えた大人の男がいて、面識のない男を相手にしているようで、メロの鼓動は今までにないほど早打ちし、急激な緊張感に襲われた

彼の知らないLがいた

メロの内心に生じた不安を、Lが察知しない筈はなかった

「背伸びをする必要はないよ、ミハエル…。おまえの体は、私の愛撫を受けるにはまだ早い」

髪の隙間から覗いた耳に吹き込むようにして説くと、まだ幼さの残る顔がうっすらと赤らんだ

「何それ、エロ…」

メロが呟くと、意中の彼は耳元で低く静かな笑いを潜らせた

「私にもおまえの知らない顔はあるが、今はまだ知らなくていい顔だ。リスクを伴うという面もあるが、日本で四六時中おまえの気配を傍に感じていたのでは、私の我慢がもちませんからね」

「わ…」

余りの驚きに、メロは反射的に声を上げた

「だからここでいい子にしていてください。おまえの成長を待って…… その時まで触れるのは、よしますよ」

未来の危うい関係を暗示するLの決定的な言動は、確信を求めて揺れていたメロの心に色欲の炎を灯した

メロは主に手懐けられた子猫のように大人しくなり、Lと視線を合わせ続けることで彼に対する従順さを示した

目で唇へのキスを欲しがるメロに、Lは静かに笑った

それからなだめるように目元と左の耳に何度も口付け、メロの感情を司る右脳に向けて囁きをして暗示をかけた

「私のかわいいミハエル……何事においても、最初というのは代えのきかない特別なものだ。焦りは禁物です。私を受け入れる準備が出来るまで、大切にしていなさい。他の誰かに靡(ナビ)くことなく時を迎えた時に、私はおまえに特別なキスと心を添えて、この身を贈ろう」







シークレット・エピソードー完−
2017.3.7-21
イギリス・ウィンチェスター大聖堂前にて執筆
(〜2018.12.22 細部修正および執筆完了)



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