Novel
彼らの会話-A&L-

「アルミン、見張りの交代だ。休め」
「いえ、続けます。眠くありませんから」
「休め。二度も言わせるんじゃねえ」
「……わかりました。――あの」
「何だ」
「あと少しだけ、構いませんか?」
「…………少しだからな」
「はい」
「…………」
「……兵長」
「どうした」
「あの場所に残って……リーベさんは無事でしょうか。おかげで僕たちは逃げ切れたとはいえ、やっぱり――」
「巨人相手にああやって留まりやがったら脚の骨を折ってでも連れて来た。だが、相手は妙な武器こそ使ってはいたが人間だ」
「心配ではないんですか」
「考えても仕方ねえだろ。わかっていても気にはなるがな」
「それは心配しているってことですよね」
「…………」
「僕、リーベさんは何かを変えるために何かを捨てられる人だと思っています」
「あ?」
「前の壁外調査でわかったことがあるんです。『何も捨てられない人は、何も変えられないだろう』と。エルヴィン団長もピクシス司令も、それが出来ます。――リーベさんもそうだと思いました」
「…………」
「隠れ家にリーベさんが来た日、そう話したら――




『何かを変えられるのは大切な何かを捨てられる人……この条件は前提であって、必ずしも果たされる道理じゃないけれどね。たくさんのものを犠牲にしても、一生懸命努力しても、結果に繋がらないこと、実を結ばないことなんてよくあるから』
『知っています。でも、何も捨てられない人に何も変えられません』
『もちろん何か捨てたからには何かしら変わらざるを得ないけれど、それは百八十度ひっくり返すような変化もあれば、斜め十五度くらいに逸らすような変化もあると思う』
『……リーベさん、もしかしてご自分は何も変えられないと考えています?』
『エルヴィン団長やピクシス司令と並べられたら一兵卒は誰だって否定するよ』
『リーベさんは一兵卒の括りじゃないでしょう』
『そもそも、アルミン。そういったことは本当に「変えた」ことなのかわからないじゃない?』
『え?』
『何かを変えたつもりになっているだけかもしれない。実は最初から決められていた道筋かもしれない。成るべくして成った結末かもしれない。捉え方と考え方次第だよ』
『そんなことはわからないじゃないですか』
『そうだね、わからないことだね』
『……そう思われるならリーベさんはどうして仲間と一緒に戦う現状を捨てて憲兵団へ行くんですか?』
『諦めているわけじゃないよ。サシャにも言ったけれど、何もしないことは出来ないし、したくない。――たとえこの先に起きることが決まっていて私に何も変えられなくても、私は私の信じる未来のために力を尽くしたいと思う』




――そこでリーベさんは『夕食にしようか』って話を切り上げたんですけれど」
「……そうか」
「『変えられる』にしろ『変えられない』にしろ、リーベさんは『捨てることが出来る人』です」
「つまりあいつは俺を捨てたと言いたいんだな?」
「ち、違います! そういう話ではなくて……!」
「うるせえ。でけえ声出すな」
「す、すみません……。あの、兵長はリーベさんを大切にされていますよね」
「……聞きてえのか? 俺が何かを変えるためにあいつを捨てるかどうか」
「いいえ」
「…………」
「ただ、今の状況で聞かせて頂きたいのは」
「何だ」
「リーベさんが……誰かを殺すこと、どう思われてますか」
「どうも思わねえ。それがどうした。あいつ自身がどう思っているにしろ、あいつが殺されるよりずっといい。今回の場合だとおかげでお前たちや俺が殺されることもなかったしな」
「…………」
「いいか、アルミン。さっきも話したが何が本当に正しいかなんざ誰にもわからない。それでも、あの時あの場所で銃口を敵へ向けたお前もリーベも間違っていなかった。誰も殺さず手を下さねえ人間が正しく強い? 笑わせんな。――この世界は違うだろ。そんな夢物語とは無縁だ。誰も殺めていなくても汚ねえヤツはごまんといる」
「…………」
「誰に何を言われても結局はお前が自分の中で納得するか折り合いつけるしかねえだろうからこれ以上は言わねえ。ただ、俺は――」
「……兵長?」
「例えば、昔、リーベが十年以上誰も掃除していなかった部屋を綺麗にした時、代わりにあいつ自身がどれだけ汚れていても俺はあいつを尊いものだと思った。だから、誰から見てもあいつの手が汚れていたって、俺にはかけがえのないものに思える」
「……そんな風に、そこまで大切にされているのに、兵長はリーベさんを憲兵団へ行かせられたんですね」
「…………」
「あ、ええと、その、すみません、勝手なことを言ってしまって。早くリーベさんとまた合流が出来たらいいんですけれど。僕も会って話したいことが――」
「もういいだろ。長話をしすぎた。いい加減寝ろ」
「は、はい、横になります。――兵長、ありがとうございました」
「さっさと行け。……………………………………………………おい、リーベ。お前に何も変えられねえだと? ふざけるな。お前は誰より俺を変えたじゃねえか。おかげで俺はここ最近お前の夢しか見てねえぞ。さっさと戻れ。よりによってヤツが……ケニーがお前の近くにいたら、めんどくせえことになるだけだ。いや、もうなってやがるのか? この一週間あいつと何してやがった? とにかく早く帰って来い。お前がいねえと俺は――」


(2016/02/29)
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