■ プロローグ
「ベルトルトなんて、だいっきらい!」
それは君の正しい感情だ。
君は何も間違っていない。
僕は君に好意を寄せられるような存在じゃないから。
急速に離れていく距離の中で、風の音よりも、この三年ずっと聞いてきた声だけが耳に残る。
きっと二度と聞けないだろう。
もう、二度と――聞けない声。
「……何て顔してやがるんだよ、ベルトルさん」
僕の背にいるユミルが言った。今は立体機動で木々の間を移動しているから、彼女には僕へ掴まってもらわなければならない。
「別に、何でもないよ」
「ふーん、あっそ。それにしても『大嫌い』か。まさかイリスの口からそんな言葉が聞ける日が来るとはねえ」
面白がるようなユミルの様子に、何も返さない方がいいと思った。
声がまた聞こえた。
もう二度と、聞こえないと思った声が。
「――なんて、そんなの嘘だからねー! やっぱり好き! 大好き! すぐに追いかけるから! 絶対に! だから、待っててねー!」
ああ、君は、どうしてこの期に及んでも変わらないんだ。
どうしてなんだ。
僕はずっと、皆を、君を、裏切っていたのに。
やっぱりイリスはああじゃないと――とユミルが笑った。
(2017/05/01)
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