prologue
 もう二度と会えない人たちがいる。

 例えば壁外調査で死んだ調査兵の仲間たち。
 存命であっても訓練兵団で過ごした同期たちの中にはもう会えない人もいると思う。

 あと、それから――過去の時代を生きた人たち。

 そうでなくても、出会えるはずがなかった彼らと私。

 もしかしたら現実から目を背けたかった子供の見た刹那の夢だったのかもしれないけれど、それでも私にとって確かな、かけがえのない日々だった。

 確かなことは他にもある。

 もう二度と、会えない。

 生きる時代が違うから。

 私はこの時代を生きると決めたから。

 そう思っていても、時々会いたくなる。

 だからそんな時、私は本を手に取る。

『アンヘル・アールトネンの功績』

 本を開けば会えるから。

 でも、本当はもっと傍に感じていたかった。話したかった。見つめていたかった。

 憧れだった。あの人はずっと、強く、まっすぐに未来を見据えていたから。

『リーベ』

 私を呼ぶ声がする。

 あの人は意地悪だけど優しくて、才能と勇気がある強い人だった。

「…………ん」

 ゆっくりと意識が浮上して、目が覚めた。朝だ。

 夢を見ていたらしい。昔の夢を。

 身体を起こして、見慣れた自室を眺める。狭いけれど一人なら充分な調査兵団兵舎の一室。それからカーテンを開けて窓の外を見た。

 849年の空を。


(2017/05/01)
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