11:45
「よし、この家か」
「元メイドはここで暮らしているらしい」
「ふっふっふ、我らにかかれば女ひとりなど赤子同然。さっさと誘拐してアジトへ戻るぞ。扉を開けさせればこっちのものだ。――こんにちはー、お届け物でーす!」
「……出て来ないな。返事もないし。不在か?」
「まあ待て。――ほら、扉が開いたぞ」
「ほう。どうやらあの手紙に書かれていたことは真実だったらしいな」
「……あれ?」
「……家を間違えたか?」
「まずは確認からだ。何をしにここへ来たのか吐いてもらおうか」
「……え? え?」
「……家を間違えたようだ」
私は無事にゲデヒトニス家へ着いた。
「あら、リーベ!」
「やっと来たわね!」
「久しぶりじゃないのよ!」
「元気そうねえ」
懐かしいメイド仲間と再会し、私は彼女たちに抱きついた。
「みんな久しぶり!」
「ん? あんたちょっと大きくなった?」
「私の背が伸びたってこと?」
そんな風に私が訊ねれば、
「いや、背は全然変わってないし、そもそもあんたの歳でもう伸びるとは思わないんだけど――私が言ってんのはここよ」
「な、どこ触ってるの!?」
そんなやり取りを交わしつつ、まずは彼女たちと一緒に昼食を取ることになった。
招待されたとはいえ長年仕えた家でお客様扱いされるのは落ち着かないので、かつてそうだったように時間を過ごせるのはとても嬉しい。
ちなみにメイド長やアルト様とは後でお茶をご一緒する約束をしている。
「おいしーい!」
狭い部屋で料理人のお爺さんが作った昼食を口にして、私はつい頬が緩んだ。懐かしい味だ。残り物の材料でこんなに味良しかつバランスの取れた食事が作れることを尊敬する。
「へえ、人類最強って思ってたより歳食ってたのねえ」
「意外だわ」
食事を取りつつ、リヴァイさんの年齢を聞かれたので答えればそんな反応が返ってきた。
すると、一人がふと声を上げた。
「今気づいたけどさ、リーベは指輪してないの?」
「うん、いらないって言ったから」
「式も挙げてないよね?」
「うん、いらないって言ったから」
パンを千切って食べながら、私はそれぞれに言葉を返す。
すると、
「全然結婚らしいことしてないのね。確認だけどさ、籍はちゃんと入れた? あんたの名字は何なのよ?」
「さあ、手続きは全部やってもらったから……そもそもリヴァイさんの名字を知らないし」
わずかな沈黙の後、嵐が吹き荒れた。
「はあっ!?」
「何やってんの!」
「馬鹿なの!?」
「いや、馬鹿でしょ?」
言いたい放題だなあと思いながら私はカップを傾ける。おいしい紅茶だ。
「ちょっとリーベ! 結婚相手の名字も知らないとかどうなってんの!?」
「もしかしたら私みたいに名字がないのかもしれないじゃない?」
「それを聞けっつーの! あと昔は地下街のゴロツキだったとか! あの話はどうなのよ?」
「ああ、うん。知り合いの分隊長さん経由で噂は聞いた」
すると全員から心底不思議そうな顔をされた。
「直接は聞いてないってこと?」
「聞いてないよ。聞こうとも思わなかった」
「どうしてよ。どうして何も知らずにいられるの?」
「だって――」
私は言った。
「リヴァイさんの過去を聞けば、私も自分のことを話さなきゃならないでしょう?」
(2014/06/08)