血の味
「パフェ食べる?」
 お腹がすいていた。
「パフェ? そんなオシャレな物、仁地君の家にあんの?」
 周囲に見知った人間がいなくなると、小来さんの態度は元に戻った。少し無知で、どこか上から目線で、テンションが不安定。
 今日という日は、僕にとって刺激が多すぎた。人間の暗黒面を見せられて、もう、目なんて見えなくて良いかな、と考えても見た。目が見えようが見えなかろうが、人間の非生産的で破壊的な性質はなくならないし、そもそもそれは目で見る物ではない。どうせならやっぱり目は見えている方がいい。
 どういうことが原因で小来さんは女子に嫌われいじめられるに至ったのかとか、どんな精神構造であの男は好きな女性を徹底的に侮辱したくなるのかとか、考えなくてもいいことを考えてしまう。答えは出ない。ただ、想像も出来ない不幸が身に降りかかる恐ろしさが、逃げ切れない闇のように僕の足を冷たく飲み込む。無力感が腹の底に溜まる。
 その渦中にいる小来さんは一体どんな気分なのだろうか。苦しい? 辛い? 逃げ出したい? もう駄目だ? それとも、死んでしまいたい?
「アイスクリームくらい、こんな季節でもあるさ。疲れた時は甘いものを食べるに限るよ」
「疲れてないよ?」
「そりゃ普段の小来さんに比べたら全然運動してないけどね。ここが疲れた時も甘いものがいいんだよ」
 自分の頭を人差し指で示して見せた。
 心が疲れた時はつまり、頭が疲れた時だ。
「エンドルフィンって言ってね、快楽物質が出る。モルヒネを服用した時と同じ感じになるのかな、脳内麻薬とも呼ばれる。鎮痛作用に至っては、モルヒネの六.五倍」
「知ってる知ってる、いっぱい走った時に、ふって体が軽くなるんだよね、どこまでもぐんぐん走っていけそうになって、めっちゃくちゃ気持ちいいの。その後にがっくり疲れが来てさっきまでとは逆に体が重たくて足を一歩も上げるのが苦しくなるの。お前はペース配分が滅茶苦茶だ、長距離の練習は短距離の延長じゃない、走って体を作るものだって顧問の先生に言われた」
「ランナーズハイだね、それは。確かに同じ状態になる」
 僕は自ら小来さんを自宅へ招き、冷凍庫からアイスクリームを出して振る舞った。ビールを入れるための尻すぼみの円錐代グラスへ、コーンフレークとバニラアイスを詰める。チョコレートで層を作り、クリームチーズを練り込んで作ったチーズアイスも詰める。電子レンジで溶かしたチョコレートをかけ、苺ジャムでフルーツとした。横で見ていただけの小来さんはすごい! お手軽! と僕のすること一つ一つに大げさな拍手と喝声を上げていた。
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