-4- [しおりを挟む] それからというものの、私はいつだって彼に“死なないで”を何度も繰り返していた。ちょっと高い所の物を取ろうと椅子に乗ったときですら、私は手に汗を滲ませながら「気を付けてね、死なないでね。」と繰り返すのだ。 異常とも言えるほどにその言葉が繰り返される度、彼は呆れた表情も見せずに「大丈夫、俺は死なないよ。」と笑いながら言って、優しく頭を撫でる。 「気を付けてね、って、何度言ったって、みんな死んじゃう。私がどんなに願っても、声を掛けても、みんな死んじゃうのよ。」 ある日、私が膝を抱えながら言った言葉にも、彼はただ優しく微笑んで、私を抱き締めて、頭を撫でて。 「大丈夫、俺は違う。死なないよ。」 それが酷く温かくて、全てを委ねたくなった。彼は死なない、彼なら大丈夫、私の生涯も漸く幸福な終焉を迎えることが出来るんだ。 そう信じ込みそうになると、私の脳内をあのテロップが埋め尽くす。 ――気を抜くな、お前はまた独りになるんだから。早く心の準備をしておけ。 嘲笑うかのように、神様とやらはきっとそう言うのだ。 夢なんて最悪なもので、私は彼の死因が思い出せなかった。しっかりと、この耳で聞いたはずがするのに。何故か、私の脳がそこにだけモザイクを掛けたように思い出せない。それは、余計に私の不安を募らせ、眠れない夜を作り出す原因にもなった。 |