過去原稿 | ナノ


10.  



 扉の向こうへ彼女が消えてから、数分。私は机上に置かれていた薬を水と一緒に飲み干した。睡眠薬がどれくらいで効くのかなんてわからなかったけど、私の瞼はだんだんとろんと落ち始めた。このまま眠りについてしまうのだろう。
 長期間の眠りってどのくらい? 眠り姫は百年だった。なら、私は? 眠った私を彼女はどこに置くのだろう。この部屋に簡素なベッドがあったからそこだろうか。長い眠りについた人間はどうなるのだろう。起きたとき、私の容姿は様変わりしているのかもしれない。くらり、眩暈がして。ベッドに行かねばと立ち上がったものの、私は床に倒れこんでしまった。身体が言うことを聞かない。このまま眠るしかないようだ。ごめんなさい、お母様。私はきっと帰りますから。
 そして、しばらくしてから私は目を覚ました。起きたとき、私は彼女の腕の中にいたのだ。
 浮遊感と先ほどまで香っていた彼女の匂い。うっすらと視界を開けば、女性らしいシャープな顎が認識できた。身体を包んでいるのも彼女の細い腕に違いない。おかしい、どうして。これが数年後? もしかしたら私は気が付かないうちに長い眠りについていたの? それは違うと直感が告げる。うっすら瞳を開けてしまったことに彼女は幸いにも気づいていないようだ。
 浮遊感が消えた。ベッドに寝かされたのだろう。毛布をかける彼女の手つきがあまりにも優しくて、思わずありがとうと言いそうになる。それを慌てて飲み込みながら、私は寝たふりを続行した。
 扉の閉まる音がする。彼女は最後まで気づかなかったようだ。嘘をついた罪悪感に潰れそうになる。これからどうしよう。でも、私が薬で眠れないことがばれてしまえば、殺されてしまうに違いない。どうしよう。このまま何年もやり過ごすことなんてできるだろうか。
 そうしていると、声が聞こえた。まさか人がいるとは思っていなかった私は、驚きのあまりに肩を揺らしてしまったのだ。

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