6. [しおりを挟む] 演技に決まっているだろう。 上司が放った言葉に、私は黙って頷くことしかできなかった。私だって、彼女の話全てを信じているわけではない。ただ、彼女が悪意のある侵入者とは思えないだけだ。 「私は、殺されてしまうのでしょうか」 桃色の唇と、細く華奢な肩。戦いとは程遠い彼女の容姿。囚われの姫君という言葉が浮かんで、思わず頷いた。彼女はこの世界に不似合すぎる。 ぶるぶると小刻みに震えながら言葉を発した彼女。もし彼女のお伽噺が本当なのだとしたら、突然全く知り得もしない土地にやって来てしまい、やっと人に会えたかと思えば命の危機に晒されているわけだ。気の毒だとは思う。もしも、彼女の言い分が真実なのだとしたら、だけれども。 「さあ、私に上の考えていることはわからない。今まで侵入者がどう処置されてきたかなんて、私のような下っ端には関係のないことだ」 唇を噛み締め、無言で地を見つめる彼女。全てを諦めたのか、彼女を纏う雰囲気が生気の無いものへと変わっていく。そんな様子を見ていられなくて、思わず言ってしまったのだ。 「最悪の事態は、防いでみせるよ」 そんな保証など、どこにもないと言うのに。私は無力だ。それは、彼女も薄々わかっていたはずなのに。 「ありがとう、優しいのね」 穏やかにひっそりと微笑む彼女は、神聖な何かを纏っているようにすら見えた。 |