過去原稿 | ナノ


3.  



 いつのまにか、気付けばわけのわからない場所にいた。鬱蒼とした森の中、泣きそうになりながらもようやく見つけたのは薄暗い洞窟で。何がどうなっているのかもわからないまま、ただ頭を抱えながら冷えてゆく身体を必死に抱き寄せる。今は何時なのか、此処は何処なのか。何もわからない。
 不安からか、寒さからか。原因もはっきりしない震えが私を襲う。抱き寄せた腕に力をくわえ、少しでも震えを抑えようと歯を食いしばった。何故私は此処にいて、こんなことになっているのだろうか。
 温かな陽の差す草原で、母様の為に花を摘んでいた。どれがいいか、どのくらいにしようか、こっちよりもあそこにあるものの方が綺麗かも。いつの間にか夢中になって花を摘んでいた。
 そして、ふと顔を上げたら。可愛らしい花々も、青々とした草も、温かな陽射しも無くなっていて。その代わりにあったのは、重なる木々の葉によって閉鎖された空と、太い木々の幹に纏わりつく禍々しい草花。大木の幹は、まるで人面のような木目を持っていた。
 恐ろしくて、心細くて、そのままではいられなくて。逃げるように森の中を走り回り、やっと見つけた場所がこの薄暗い洞窟だったのだ。少しだけ落ち着いてから、そのまま洞窟の奥へと恐る恐る進んでいき、突き当たりで立ち止まった。腰を下ろして膝を抱える。縮こまった身体は闇の中に溶けてしまいそうで、とても頼りなく感じた。背中を突き当たりに凭れされ、体重をかけた時。
 私の身体は、さらに深い闇へと沈んでいった。

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