-8- [しおりを挟む] 「……ふーん。」 私の身に起きた出来事を一通り聞いた友人は、つまらなそうにそう洩らす。 「ふーん、て。」 「所詮は夢じゃない。」 彼女の声は、小さい。けれど、街の喧騒に掻き消されるなんて無いほど、高くて綺麗で、それでいて心地良いのだ。 「でもね、律。私、あんな気持ち初めてだったの。」 「そんな相手に恋心抱いたって、辛いだけ。第一、名前も顔もわからないんじゃ。」 「で、でも、瞳は覚えてるよ。」 はぁ、と、溜め息が聞こえた。冷たい私の友人は、この季節にも関わらず汗を掻かないし、肌は真っ白だ。チェック柄のスカートから伸びる華奢な脚が、人混みを抜けてから動きをやめる。 「話にならない。」 木陰に設置されているベンチに向かっているのであろう彼女は、呆れたような眼差しで私を見つめていた。放課後という時間帯からか、彼女の顔には疲れが見える。身体があまり丈夫でない彼女に考慮して、私もベンチへと向かうことにした。 「あの、すみません。」 すたすたと速歩きで涼を求めに行った彼女に取り残された私に、掛かった声。 「此所に行きたいんですが……。」 「あぁ、なら、」 顔を上げ、見つめた先には。 優しく、全てを包み込むかのような、温かな瞳。 言葉を無くした私の顔を覗き込む、ゆったりとした動作。 そして、それらに感じる激しい既視感。 「私、貴方と夢の中で逢いました、」 思わず口走ったそんな台詞さえ馬鹿にせず、笑いもせず、ただ柔らかく微笑んで。 「じゃあ、お久しぶり、かな。」 そう言った貴方に、私はまた恋をします。 (次ページは蛇足に近いおまけです。) |