灰色境界線 | ナノ



 今は授業中だが、自習中でもある。国語担当の先生は出張だか何だかでお休み。
 クラスを見張っていた先生は、先程慌てたように教室を出て行ったしまった為に不在。
そんな為に、少し、いや結構、クラス内は好き勝手やっていた。
 男の子は固まって何やら楽しそうに談笑しているし、女の子も席を出歩いて仲の良い子と話したり新たな友達をつくろうと一生懸命だ。何人かの真面目な生徒は、そんな様子に眉を寄せていたりする。

「それにしても、芽衣は小さいねえ」

「う……」

 絵里ちゃんは、恐らくクラスの女子内でも背が高い方。座高だけでも私とは結構な身長差がある。
 改めて突き付けられた現実に打ちひしがれて、机に上半身を預けながら手をだらんと垂らす。さっきのことも思い出して、一層その現実が私の胸を突き刺した。絵里ちゃんはごめんごめん、と言いながら私の頭を撫でてくれている。
 その感覚が気持ち良くて、思わず目を細めた。絵里ちゃんは「猫みたい」と笑いながらも、その手を動かし続ける。

 やがて、授業終了のチャイムが鳴り響いた。確か今日は五時間授業だったはず。形だけの号令を聞きつつ、数人の礼に合わせて頭を下げた。今日はこれで終わりなんだなあとぼんやり思う。
 長いような、短いような。転入初日から不吉なスタートを切ってしまったような気がする。
 間延びした雰囲気のクラスに、まだ担任の先生は現れない。

「あ、芽衣」

「なーに?」

 後ろの席でいそいそと帰り支度をしていた絵里ちゃんは、その手を止めて私を見ていた。ロッカーから取ってきた鞄を机の上におろす。絵里ちゃんの一年間が詰め込まれた鞄と違って、私のそれは綺麗なままだ。

「校内、見て回る?」

「うんっ」

 明るく返事をすると、絵里ちゃんも笑ってくれた。こんなに親しみを込めて話すことが出来るのは、きっと絵里ちゃんのおかげだ。
 今日は部活が無いんだ、とさっき絵里ちゃんは言っていた。彼女はテニス部に入っているらしい。せっかくの放課後を私の為に使わせてしまうのは、申し訳ない気がした。
 でも、これで彼女が昼休みのことを気にしなくなるなら、甘えてしまった方がきっとお互いのため。

「ありがとうね、絵里ちゃん」

 絵里ちゃんのせいじゃないのに。言葉にはしなかったけれど、そう思った。私がもっと社交的な性格だったらな、なんて。そんなの、今更過ぎるけれど。
 少し日に焼けた彼女は、笑いながら「気にしないのー」と言ってくれた。

 仲良しのお友達がいて、温かいクラスがあって。
 私の憧れていた学生生活に、今度こそ近付けるかもしれない。



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