domani | ナノ



  焦香。


あの日から、1年。
何度見返しても、わたしの顔は変わらなくて。
何度見返しても、名前が変わることはなくて。
何度見返しても、彼らが"親"と呼ばれる存在で在ることは変わらなくて。

沢田家の嫡男として、わたしは―――俺は存在する。
親譲りの真っ直ぐな金も、大きな赤とも黄色とも言える瞳も、整った顔立ちも、総てあの子とは似ても似つかない。どっちかって言うと…ちょっと彼のイタリアンマフィアの初代に、似ている。

そうやって毎日あの子と似ているところを探しては、落胆する。
あの子の変わりなんていない。成り変わりなんて有り得ない。
あの子はあの子。俺は俺。
あの子と同じ人生は歩めない。

そう言って、考えて。行動に出来ない。

男性に、仕事を尋ねることも。
女性に、この街の名を問うことも。
セカイに、もう一度弾き飛ばされることも。

自分の弱さに泣きたくなる。
まだ大丈夫だと甘い期待を抱いては、動くことが怖いんだ。

そうしてひとり部屋に籠っては、ノートと睨めっこ。
1歳なのに字が書けて、言葉が話せるのは異端だ。それでも、隠して子供のフリなんて俺には出来ない。そんな技量がない。
だから、隠さずに過ごしている。
幸い、二人とも「うちの子は天才!」くらいにしか捉えていない。否、男性はちょっと思う所があるのか、時折その眼に暗い色を滲ませる。

それでも。それでも子供のままじゃいられない。
あの子の通りに、人生を終わらせたリはしない。
書けるようになった字を必死に使って、この先をメモしたノートに視線を落とす。
先ず、14歳までに強くなりたい。死神に掴まらないように。


この、あの子の居ない セ カ イ に『  』を。

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