domani | ナノ



  拒否権を発動します。


家に帰れば、部屋が半壊していた。

「………は?」
「京子ちゃんに拒否られた…」

落ち込んでいるツナは気になるが……。
ダイニングの壁が人型にくり抜かれ、キッチンやテーブルが壊れて散乱。
何かがあったのは確実だが。それの元凶は微動だにせず。

「…―――リボーン?」

声音は優しく。けれど、眼は笑っていなかったのだろう。

「……… Roulette russa nei proiettili di gas a morire.死ぬ気弾でロシアンルーレットをした
「???」

むっつりと開いた口から、やっと零れ落ちたのは。この10年で聞き慣れた異国語。案の定、ツナは理解できなかったみたいで。

È così (そう…」
「…にーちゃ、ん?」
「ん?何でもないよ。―――それより、『キョウコ』ちゃんって?」
「あ!えっと、あのっ。…クラスの子で、優しくて、可愛くて、人気者で―――」

頬を染めながら話すツナに、ついつい頬が緩む。

「オレにも話しかけてくれて、それで、」
「綱吉の、好き な子?」
「!!………………―――う、ん」

褒め言葉を遮って、結論を問えば。耳まで真っ赤に染まって、微かに上下するクルミ色。
―――胸を過ぎる小さな痛みは、もう小さくない弟を寂しく思う気持ち。

「………。そう、か。もうそんな年になったんだ」
「……兄ちゃんの中でオレはいくつなの?」
「んー…、いつまでも可愛い弟、かな?」
「かかか可愛い!!?オレももう13だよ?」

からかえば慌て出す。うん、そんなトコが可愛いんだよなー。


………あー、ダメだ。今日のアイツらの雰囲気が余りにもカップルしかったから。

「…ちょっと着替えて来る」

テレビでも見てて、と会話を打ち切る。
これ以上はダメだ。ちょっとヤバイ、かもしんない。

いつの間にか消えた黒に、今あの場に居れば確実にツッコまれてたな、と揺れる内心をわらう。
階段を上って、突き当りの奥。向日葵のプレートが掛けられた扉を閉めて、そのまま座り込んだ。

「成長は……早い、な」

幼い頃は、どんな時も後ろをついて。無条件で慕ってくれていた。
今も、10年という空白があったにも関わらず、『兄』と慕ってくれている。

小さな空は、可愛い弟。だったのに―――。

「… Inaspettato.予想外

記憶を美化しすぎたのか。はたまた、『わたし』の部分が強いのか。
成長したあの子に、時折感じるざわめき。それは過去、『わたし』が異性に感じていた感覚とよく似ていて。

………溜息しか出ない。

なぜ?あの子に?どうして?
疑問は尽きないが、封印。この感覚を突き詰めれば答えは出るだろうけど―――だって、ねえ?
今の『俺』は、家族で、弟で、男同士だし。いろいろ倫理的にも社会的にもヤバイ。
だから。目尻を下げた、見たこともない顔ではにかむあの子の言葉に。傷付いたり、しない。
告白を断るのも、家族が大事だから。…それ以外の理由なんてない。

「アイツら……―――明日叩く」

八つ当たりを決めて。
俺は兄。と切り替える暗示を呟いて。薄暗い自室から、明るいあの子の元へと扉を押し開いた。

prev next

[back]