「ホリィさんから救急箱、借りて来たわ」
一時その場を外していた杏奈はホリィから救急箱を受け取り広間に戻ってきた。
そして救急箱の中を漁り、消毒液やガーゼ、包帯で花京院の傷の手当てを始めようとする。
「さあ花京院くん、傷の手当てしてあげる。髪の毛は自分であげててちょいだい。手当しにくいわ」
「ああ…どうもありがとう」
「承太郎ったら容赦無く吹っ飛ばしてさあ!ほーんと、手当てするこっちの身にもなってほしいもんだわ」
「フン」
「あの…君こそわたしのせいで怪我をさせてしまって……。本当にすまない」
「えっ?ああ、いいのよ別に。承太郎の喧嘩に巻き込まれるのはいつのことだしや、怪我って言っても足を捻っただけだもの」
今さっきだって普通に歩いて来たでしょう?と杏奈は言った。
実際足は少し休んだら痛くなくなったし、今普通に歩くことができるようになっているので花京院を責める気は元々なかったのだ。
「そういえば……ハッキリとは覚えてないんだけどね、あの時だれかが守ってくれた気がするのよ。綺麗な碧い、髪の女の人。承太郎、あなた見てなかった?」
「女?いや知らないな」
「そう……。おっかしいわね、ぼんやりとだったからわたしもよく覚えてないんだけど……あれ、なんだったのかしらね。夢…とか?寝ぼけてるわけじゃないけど」
「相変わらずのほほんとした頭だな」
「ちょっと承太郎、それ貶してるの?失礼しちゃうわ」
「どんな奴だったんだ」
「そうねえ……まるで、おとぎ話にでも出てくるような…『人魚』みたいな」
「『人魚』?」
「そう。まあ気のせいだったのかもしれないけど…ちょっとね、気になっちゃって」
「おい杏奈、お前吹っ飛ばされた時に頭でも打ったんじゃあねーだろうな」
「何よ。ちゃんと気のせいだったかも、って言ったじゃない」
「いや待つんだ」
「?」
「杏奈ちゃん。これはまだ仮定だが、君が見たその『人魚』とは、君のスタンドではないだろうか」
「なんだと?」
「嘘、それって考えすぎじゃ」
「もしもの仮定の話だが、杏奈ちゃんは承太郎やわたしたちのスタンドが見えている。故に彼女もスタンドが発現する可能性は非常に高いと私は思う」
「わたしに……スタンドが?ええー」
「うーむ、その仮定の可能性はおおいにあるな。杏奈ちゃん、昨日も言ったが君にはスタンド能力が発現する可能性が、アヴドゥルが言う通りある。そして、今回DIOが花京院にしたように、肉の芽を埋め込まれたスタンド使いがいるかもしれん。承太郎も含め、気をつけるんじゃ。いつまた今回のように狙われるかわからん。少しでも怪しいと思ったやつには注意するんじゃ」
「杏奈ちゃん」
「ホリィさん」
「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、大丈夫かしら?」
「ええ、もちろんです。お手伝いしますよ」
「やっぱり女の子はいいわね〜」
「そうですかァ?」
「そうよ!うふふっ、杏奈ちゃんとこうして家事してると、なんだか娘が出来たみたいで嬉しいわ〜〜」
「わたしもホリィさんと一緒にいると母さんと一緒にいるみたいで、嬉しいですよ。楽しいし!」
「杏子さんが亡くなって、もう5年…。時間が過ぎるのは早いものね」
「そうですね………。にしてもあんのくそ親父、いつまで経っても帰ってこないし今頃なにやってんだか」
「でもタダノブさんから毎月ハガキが来てるんでしょう?」
「ええ。この間はベトナムからでしたよ」
「おい杏奈」
「ん?なに承太郎」
「お前足はもう平気なのか」
「うん、もう大丈夫だよ。さっきも言ったじゃない?でも心配してくれてありがと」
「じじいからの伝言だ。お前、今日は泊まってけだとよ」
「ん、わかった」
「要件はそれだけだ。おれは戻るぜ」
「あ、ちょい待ち承太郎」
「?」
「背中になにか付いてる」
「ッ!?」
「肉の芽…!まだ残っていやがったのか」
「あーぶなッ!触らなくてよかった………。あんなグロテスクなのに乗っ取られたくないもの、うー気持ちワル」
「おい」
「ん?」
「後ろ」
「後ろ?」
「……うおわッ!?」
「どうしたんじゃ!」
「何かあったのか!」
「いや。杏奈のスタンドが現れただけだ。やれやれだぜ」
「何!?スタンドじゃと」
「た…たしかに杏奈ちゃん前にいるのはスタンドのようだな…………」
「杏奈が言っていた人魚ってのは、あながち嘘じゃあなかったってことだな」
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