トゥルルルル、トゥルルルルルルル。

玄関先に置かれた電話が鳴り響く。

学校から帰宅したばかりの杏奈はカバンを放りだして慌てて電話の受話器を取った。



「はいッ、影宮です」

《ああっ、もしもし杏奈ちゃんっ!?承太郎が大変なのよ〜〜〜ッ!》

「ホリィさん?え?何、承太郎ッ?」





電話口から『どうしましょ杏奈ちゃ〜〜〜んッ』と慌てふためくホリィが聞こえる。

状況がよくわからず、杏奈は頭にはてなを浮かべたままだ。

承太郎はここ数日学校に姿を現していない。

こんなことはしょっちゅうあるから、杏奈自体特に気にしていなかったのだが……。



「とにかく、落ち着いてくださいホリィさん?何があったんです?承太郎がなんですって?えっ?」

《あのね、さっき警察から電話があってね……。承太郎がケンカして、警察にィ〜〜〜》

「はァ〜〜〜?」





彼女の名前は影宮杏奈。

近くの高校に通う高校二年生。

17歳。

どこにでもいる平凡な女子高校生だ。


彼女は今、ホリィからの電話を受けた後、彼女と共に警察にいた。





「やかましい!うっとおしいぞこのアマ!」

「はァーい」



ドオォーーーンッ!


牢屋の中でふてぶてしい態度で自身の母親を怒鳴る承太郎。

彼はホリィの息子で、昔は心優しい青年であった……のだが、今はその面影はどこにいもない。

一体どうしてしまったのだろうか、と心配してしまうほどにだ。



「なーんだ。警察に捕まったとか言うから、何しでかしたのかと思えば……相変わらずのふてぶてしさ。心配して損した…」



慌てて警察に駆けつけた杏奈とホリィだったが、実際はゴロツキとの喧嘩で警察に補導されただけだったらしい。

ほっと胸をなでおろし、杏奈はホリィと担当警官の会話に耳を傾ける。


承太郎と杏奈はいわば幼馴染の関係だ。

家が近所で、小さい頃から一緒にいる。

彼が不良になってしまった際も、彼女は心配しながらも彼から離れず今まで通りに接して来た。



「おまわりさんほんとはさやしい子なんなすよ、そんな大それたことができる子じゃないんですよ」



ホリィの早とちりによる誤解で人殺しのレッテルを貼られるのはなんとも罰の悪い。

そもそも承太郎は喧嘩はしても、人殺しまでするような危険人物ではないし、本当は心優しい男だということを杏奈は昔からの付き合いのため知っている。

いくら外見が変わってしまっても、根の性格が変わっていないことを杏奈は知っているのだ。



「こらッ!起きろ空条ッ!おかあさんがむかえに来てくれたぞッ!出ろッ!釈放だ!」

「ええ!もう釈放ですか?」

「いつまでも泊めておけませんよ」



警官とホリィの会話で承太郎がすぐ釈放されることを知った杏奈は承太郎に『良かったじゃん』と声をかけた。

しかしまるで反省の色がない承太郎。

目上の人に怒られても態度を変えることのない承太郎ゆえに、たとえ相手が警官だろうと今更態度は変わらないようだ。



「なんだ…おふくろに杏奈か。フンッ、帰りな…。おれはしばらくここから出ない」

「…承太郎、それどういう意味よ。ここから出ないって。せっかくわざわざむかえに来てあげたのに」

「おれには『悪霊』がとりついている…。『そいつ』はおれに何をさせるかわからん。さっきのケンカの時もおれはその『悪霊』を必死にとめたんだ。…だから、だからおれを、この檻から出すな」

「承太郎…」

「おかあさーん、これですよ。釈放だってのにさっきかなこういって出ようとせんのです…。こういっちゃなんですがおたくの息子さん…こっちの方は大丈夫なんでしょうね?」



承太郎の『悪霊』という言葉に首を傾げる杏奈。

悪霊とは悪い霊、つまりオカルト系のそっちの意味での『悪霊』だろうか。と。

それにしても意味が分からない。

杏奈もホリィも承太郎を見つめる。

記憶が正しければ、承太郎にオカルト趣味は無いはずなのだが。


そんな時、


プシュッ



「ビ…ビールだ」

「ろ、ろーやの中でビールを飲んだ!き…きさまッ!それをどうやって持ち込んだ!?」

「だからいったろう。『悪霊』だよ『悪霊』が持って来てくれるんだ」



カチリ。


今度はいつの間にかあったラジカセのスイッチが入り、相撲の実況が聴こえて来た。

それをBGMにジャンプを読む承太郎。



「も、問題だぞ。これは問題だぞッ……!」

「まちなッ!この程度のことじゃあまだ釈放されるかもしれねぇ…。『悪霊』のおそろしさをみせてやる」


「おれを外に出したら、どれだけやばいかを教えるためには」



その時、

杏奈には確かに見えた。


承太郎の背後から伸びた腕が、警官の腰にあった拳銃を奪ったのを。



「ああああー!わ…わたしの拳銃が!」

「うばわれちまった。な…なぜ?どうやって!?」

「た…たいへんだ!」

「てめーら見えなかったのか!今の、おれの『悪霊』が!」

「じょ、承太郎……。あなた、」

「見えないのなら、これではどうだ?」

「「じょ…承太郎ーーッ」」



拳銃を自身の頭に向け、発砲。

あまりにも衝撃的な光景に、さすがの杏奈も肝を冷やす。



「おれのうしろに誰かがいる!最近とりつかれたみたいなんだ」

「ジョセフおじいちゃんも…不思議な力を持っているけれど、わ…わたしの息子はい…いったい…!?」

「な、なんだったの今の…。ハッキリとは見えなかったけど、うっすらと見えた人の腕のような……。承太郎がいう『悪霊』って一体…」



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