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家族の待つ家

「よう、ピナコばっちゃん。またたのむよ」

自然あふれるのどかな町。
リゼンブール。
ここはエルリック兄弟の故郷でもある。
緩い丘の上、そこに一軒の家があった。

「こっち、アームストロング少佐」
「ピナコ・ロックベルだよ」
「で、こっちがリーア・トレンカ。俺と同じ国家錬金術師」
「リーア?……もしかしてアンタ、あの“リーア”かい?」
「?知り合いか…?」
「あー…お久しぶりです。ピナコさん」

ピナコはリーアをみて驚いていたが、それもつかの間の出来事。
再会を喜ぶように、二人は笑いあっていた。

「五年ぶりだね。こんなに大きくなって……あたしゃ嬉しいよ」
「前と全然変わってませんね。なんだか懐かしい。ウィンリィは元気ですか?」
「ああ、元気だよ。あれもすっかり成長しちまって……今じゃあたしと同じ機械鎧義肢さ」
「おいおいどういう事だよ、おまえばっちゃん達と知り合いなのか?」
「そうだよ。しかししばらく見ないうちに、エドはちっさくなったねぇ」
「だれがちっさいって!?このミニマムばば!!」
「言ったねドちび!!」
「豆つぶばば!!」
「マイクロちび!!」
「ミジンコばば!!」

そりゃ巨体の少佐と比べられれば小さくも見えるだろう。
身長、腰くらいまでしかないし……。
リーアはそう心の中で思いながらエドワードからから目をそらす。
ちなみに、エドワードにとって“小さい”や“低い”など身長に関する言葉はすべて禁句である。

がいんっ!!!
エドワードの頭に突然スパナが飛んできた。

「こらー!!エド!!」
「ごふ!!!」
「メンテナンスに来る時は先に電話の一本でも入れるように言ってあるでしょーーーーー!!」
「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」
「あはは!おかえり!」
「おう」



ピナコの孫、ウィンリィの登場だ。
そしてリーアとの感動?の再会を終えたのもつかの間。

「んなーーーーーっ!!?」
「おお悪ィ、ぶっ壊れた」
「ぶっ壊れたってあんたちょっと!!あたしが丹精こめて作った最高級機械鎧をどんな使い方したら壊れるって言うのよ!!」
「いや、それがもう粉々のバラバラに」
「バ……」
「で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたらいったいどんな生活してんのよ」
「いやぁ」

傷の男によって粉々に破壊されてしまった機械鎧。
散らばった破片を集めて持ってきたものの、ほとんどの部品は使い物にならないらしい。
仕組みさえ分かっていればリーアにでも直す事は可能だろうが、所詮は素人の機械鎧。
すごどこかに不具合が出てしまうだろう。

「――で、その賢者の石の資料とやらを手に入れるために一日も早く中央に行きたいって言うのかい?」
「そう。大至急やってほしいんだ」
「うーん、腕だけじゃなく足も調整が必要だね」
「あら、一応身長は伸びてんね。この前測った時は●●センチだったっけ」
「足の方は元があるからいいとして、腕は一から作り直さなきゃならないんだから…」
「ええ?一週間くらいかかるかな」
「なめんじゃないよ、三日だ」
「とりあえず三日間はスペアでがまんしとくれ」
「うん。…と、やっぱ慣れてない足は歩きにくいな」
「削り出しから組み立て、微調整接続仕上げと……。うわ、カンペキ徹夜だわ」
「悪いな無理言って」
「一日でも早く中央に行きたいんでしょ?だったら無理してやろうじゃないのさ。そのかわり、特急料金がっぽり払ってもらうからね!」
「っ!」
「あ、慣れない足だっけ」

ばしっ!
ウィンリィはエドワードの肩を叩くと、バランスを崩したエドワードは積まれていたダンボールの山へと倒れ込む。

「あーあ…」
「はは、ごめんエド…」



―――――
――――
―――
――


ロックベル家の裏庭。

「…ったくなんなんだあの凶暴女は!!」
「ははは、何を今さら」
「はーーー、三日か………。とりあえず、やる事が無いとなると本当にヒマだな」
「ここしばらくハードだったからたまにはヒマもいいんじゃない?」
「ヒマなのは性に合わねぇ!!」
「そうだ、そんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」
「墓参りか…。でもおまえそんなナリじゃ行けないじゃん」
「少佐にかついで行ってもらうのも悪いからボクは留守番してるよ。機械鎧が直ったらすぐ中央に行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」
「そーだな…。ちょこっと行って来るか…」

そんな話を兄弟がしていた頃、リーアは空を見上げていた。
ここ、リゼンブールは五年前、リーアにとってとある思い出が残る場所であり、思い出したくもない葬り去りたい記憶がある場所でもある。

「…って、何でおまえまでついて来るんだよ!」
「何でって言われても、アタシもこっちに用があるの。親友のお墓」
「―――!!」
「ここで亡くなったの。汽車に轢かれそうになった子供を助けようとして」
「事故…か」
「そう。結局その子は助かったけど、親友はアタシの目の前で死んでいった」

そよ風に吹かれ、リーアの髪がなびく。
儚くも美しいリーアの横がをみたエドワードは一瞬どきりとしてしまう。
五前、リーアは親友の住む町、リゼンブールへと旅行に来ていた。

『シルビア!』
『いらっしゃい!リーア!!』

今でも脳裏に焼きついていて離れない親友・シルビアの死に様。
その悲しみが、人体錬成後のあの悲惨な光景を思い出させてしまう。
いくら忘れようと努力しても、忘れられない過去の記憶。

「夜眠りにつくと、あの時の出来事が悪夢みたいに何度も繰り返し繰り返し蘇って……夜も眠れない。この左目が見えなくなった時に、記憶ごと全てなくなってしまえばよかったのに。そう何度も思った」

『シルビア・モール、ここに眠る。』
リーアとエドワードの前にある墓碑にはそう書かれていた。

「オレだって同じだよ。忘れたいと思ったけど、アルを元に戻してやんなきゃ」
「失った身体を取り戻す方法なんてあるの?」
「あるさ。例えそれがなくたって、見つけ出してやるまでだ」
「その方法が見つかったら、この見えなくなった左目も見えるようになると思う?」
「え?」
「この目は見えていないのに、ここにある。ただあるだけ見えない。あるだじゃ意味はないの、あるならこの目で見たいものがある」

見えない左目を抑えながら、リーアはうつむく。
もし、もし見えるようになるなら………



《見てみたいな、君達が元の身体を取り戻すところ。》


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