進展
エドワードが少しづつリーアに惹かれていくにつれ、リーアも少しづつエドワードに惹かれていた。
「また来たよ。母さん、父さん」
墓地。
次はいつ来られるかわからない。
当ても無い旅の途中、墓参りにくるのは決して容易な事ではないという事をわかってくれるだろうか。
きっとあの二人の事だ。
笑って許してくれるだろう。
すべてが落ち着いたら、ここに弟の墓も建ててやらなければ。
人体錬成をしたあの後どうしていいか分からず、表向きには失踪人扱いになっている。
何も無い墓とは虚しい。
そう思ったリーアは、今でも弟の墓を建てられないでいた。
「今日はもう帰るよ。また明日来る」
来た道を戻り、ロックベル家に向かう。
今日は何をして過ごそう。
こんな形では親戚に会うわけにもいかないし、何より覚えてもいないかも。
10年前、旅に出たあの日。
ここにはもう戻ってこれないだろう。
そう思っていたのに。
「(まさかこんな形で戻ってくるとはね…)」
エルリック兄弟には感謝している。
もちろんピナコやウィンリィにも。
こんな自分を迎え入れ、家族と言ってくれた。
「おーい、」
「?」
「なぁ、暇つぶし、付き合ってくれねぇか」
「暇つぶし?」
「うん。ほら、ボク達まだ知り合ったばかりだけどトレンカさんは前にここにいた事があったんでしょ?思い出話とか聞いてみたいなって」
「さんはいらない。それに、リーアでいいわ。ま、暇つぶしにはもってこいの話題ね。いいわ、話してあげる」
偉そうに壁に寄りかかってリーアに視線を向けるエドワード。
そして手足が壊れていて動けないアルフォンスは場を柔らかくするため自分から話題を振る事にした。
「それじゃあトレンカさん…じゃない。リーアは歳いくつなの?」
「19よ。ここに来たのが9歳の時、出て行ったのも同じ歳」
「なんでウィンリィやばっちゃんと知り合いなんだ?」
「ばっちゃんと知り合ったのは親戚の伝でね。アタシはたまに親戚の家に預けられる事があって、その時に知り合ったんだ。もう忘れられてると思ってたけど、覚えててくれたのはほんとビックリした」
「オレからの質問。どつして国家錬金術師になったんだ?賢者の石を探すだけなら別にならなくてもいいだろ」
「あたしが資格を取得したのは3年前。知り合いの軍人が推薦してくれてんだ」
「マスタング大佐?」
「ううん、全然違う。もっと上の人」
「へー」
「力が欲しいなら上へ来いって。イシュヴァールみたいに人間兵器になるつもりはないけど」
そんな事になったら、速攻国家錬金術師なんて辞めてやる。
そう言ったリーアの目に迷いはなかった。
無関係な人を理不尽に殺すほど、アタシは落ちぶれちゃいない。
国家錬金術師になった時、リーアは大総統・ブラットレイの前でそう宣言した。
リーアは錬金術を使うとき、決して人を傷つける事はしない。
戦いの際、二丁拳銃を使用するのはそのせい。
錬金術は人を救うために使う。
医者の道を歩んでいるのも、困っている人を助けるため。
『錬金術を悪用してはならない』
幼い頃に読んだ錬金術の本に書いてあった。
何気ない一言だが、リーアはそれを守り続けているのだ。
「すごいね、リーアは」
「え?」
「ボク達が考えてた事よりずっと進んでる」
「ったく参ったな…。あんたスゲーよ、思ってたより」
「…リーアよ」
「?」
「会ってからまだ、まともに名前呼ばれた事なかったから」
「………ははっ、そうだったな。なぁ…これからは名前で呼んでいいかな?」
「…もちろん。その代わり、アタシも名前で呼んでいい?」
「ああ、リーア」
「ありがとう、エドワード」
「エドでいい」
「じゃあエドで」
「おう」
「ボクはアルで!」
「うん、わかった。アル」
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