いい加減くっついてくれよ [ 24/43 ]

「ナマエ。何やってる。その持ち方はなんだ。」

「あ、兵長!おはようございます!

えへへ・・見つかっちゃいましたか・・ちょっと回転斬りの練習をですね・・ごにょごにょ・・。」

「あ?それはてめえにはまだ早いと言っただろう。
ワイヤーの巻き取りに失敗して、怪我でもしたらどうすんだ。」

「あっ・・!・・・・すみません・・。」


リヴァイが、ナマエが逆手に構えているブレードを取り上げて鞘に戻した。


別にナマエの実力なら、練習する余地はあると思うんだけど。そんな言葉は何とか喉元で飲み込んだ。

「余計な事言うんじゃねえ」と、あの足癖の悪い割と本気の蹴りが飛んでくるのは目に見えてる。


全く・・。
何しろ、どうしたってこの男はナマエに対して過保護なのだ。


回転斬りにしても、普段の生活にしても。

ナマエが、最近装備の調子が何だか悪いような気がするのだと零せば、率先してリヴァイが診てやっていたし(私が同じ事を言った時は「技術班にでも持ってけよ」と、かなり真っ当な回答をされてそれで終わりだった)、事あるごとに休憩という名目のティータイムに誘い、甲斐甲斐しく紅茶を振る舞う始末だ。自慢じゃないが、リヴァイの紅茶なんか、私は一度も飲んだことは無い。


ほら、今もリヴァイに注意されて少し落ち込んでしまったナマエに「紅茶でも飲むか」と機嫌を取っている。


それでも驚く事にこの男は、自分がナマエを贔屓にしているという自覚が全くないらしい。


どうやら度重なる苦境により、表情と一緒に感情も削ぎ落としてしまった様だった。


かく言うナマエも結構鈍い性格で(天然とも言う)、自分がリヴァイに特別可愛がられているなど思ってもいない。

そして私はと言えば、このどうしようもない二人のアハハウフフな日常を見せつけられ、まさに”生殺し”だ。焦れったい事この上ない。何か悩みはあるかと聞かれたら「巨人捕獲作戦」の次に二人の事を挙げるだろう。


「分隊長、何考えているんですか?まさかまた何か企んでいるんじゃありませんよね?」

私の補佐兼世話係である優秀な部下のモブリットが心配を前面に押し出した顔色で覗き込む。


「エルヴィンじゃないが・・君にはあれが何に見える?」


指差す先には、二人並んで歩いて行く後ろ姿。


「何って・・・リヴァイ兵長とナマエさんですが・・。」

「違う。確かにあれはリヴァイ兵長とナマエさんだが、私が聞いてるのはそういう事じゃないんだよモブリット。分かるかい?」

「・・ああ。お二人の仲、ですか?」

「それだよ。」

肩に腕をかけ、大きく頷く。さすが優秀な部下だ。リヴァイに爪の垢でも煎じてやりたい。


「まあ・・・くっつけばいいのになーとは思いますよね。」

「そうだろう?」

「しかしお二人共既に幸せそうですし、現状に満足していらっしゃるのではないですか?

だから分隊長が何かあのお二人に働きかけてやろうと考える必要はない訳で。」

最後あたりは母親が子供に釘を刺すような目線に襲われたが気にしない。

「甘いよモブリット。私たちはリヴァイと付き合いが長いし、ある程度交流もあるからこうしてリヴァイの小さな、それはちぃいさな変化に気づいてる訳だけどもさ。

これが一般の兵士だったらどうだ?リヴァイの普段の顔すら怖くて中々顔も上げられないっていうのに、表情の変化に気づくなんて無理だろう?

そうなるとさ、困るのは周りのそういう男兵士だよ。

まさかリヴァイに寵愛されてるとも知らずに甘い蜜に誘き寄せられた虫がナマエに寄ってくるだろう?現に私はそういう場面を何度か目にした事があるよ。それも一回じゃない。

それがもしリヴァイの目にでも留まってみろ・・・ああ。考えただけでも恐ろしいね。

つまり、あの二人にはきちんとくっついて、そういう関係である事を周りに認識して貰わないと困る訳だよ。リヴァイの被害者を出さない為にもさ。」


「なるほど・・。」と、モブリットは納得したような、しかし本当にそうなのだろうか、余計な事ではないのだろうかと、微妙な所の顔つきで一応頷いた。どこまでも慎重な男だ。昔のキース教官や私の様にもう少し野心て物を持てば、彼は漢としてさらに成長出来るだろう。

「それじゃあ、作戦を考えようか。」

「それは嫌です。」

「何だって!?モブリット・・貴方さっきの私の話を聞いていたかい・・?」

「聞いていました。一応納得もしましたが、分隊長に付き合ってまたリヴァイ兵長に躾られるのは嫌です。
こう言っては酷ですが、誰か被害者が出てから考える事にします。」


・・・開いた口が塞がらないとはこの事か。


何回か施されたリヴァイの”躾”が、随分と効いているらしい。もはやリヴァイの忠犬ではないか。お前は私の部下だろう?モブリットよ・・。

「分隊長も書類が溜まっていますので、遊んでいる暇はありませんよ。
さあ、執務室へ戻りましょう。」

「あ!こ、こら!やめろ!私はリヴァイの制裁を未然に防ぐ役目が・・!こら〜!」


ムンズと中のシャツごとジャケットの首根っこを掴まれ、引きずられる踵が地面に抵抗の曲線を刻みながらも、そのままずるずるとツマらない仕事部屋へ連行された。

尻を落とされた椅子の上で、絶対恐ろしい事になるぞと救世主の言葉を聞かなかった愚かな男に理不尽な恨みを募らせながら、リヴァイの言葉を借りるなら”クソ”な紙の山にひたすら判を叩き押した。

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