みじかいゆめ | ナノ



バレンタインの罠 1/4



お気に入りの鼻歌。部屋中を埋め尽くすカカオの香りと、作業台の隅で中身のチョコレートを待つ優しい色合いのボックス。リボンの色にグリーンを選んだのは、リヴァイによく似合う色だから。そう言うとリヴァイはいつも「マントの色だからそう思うだけだろう」と言い返してくる。でも口元が笑っているのを、恋人の私は見落とさない。
それにグリーンが似合うと思っていたのは地下街にいる頃からだから、マントの色はたまたまリヴァイに似合うグリーンだっただけだもの!

「よし。砂糖はかなり少なめに・・ブランデーもちょっと入れて・・・うん、いい香り!」

まだ温かいチョコレートを一滴垂らした指先を口に含んでみると、カカオの苦味と洋酒が鼻を抜けてすごく大人の味。これならリヴァイでも食べられると確信して顔が綻んだ。きっとウイスキーのお供にしてくれるだろう。

「美味しいって、言ってくれるかな・・?」

冷蔵庫の扉をそっと閉めながら、どうか美味しいと言ってくれますようにと願いを込めた。

あの優しくて暖かかな眼差しが見たいのだ。

「リヴァイが大好きなの。」

にやけ顔から堪らず気持ちが溢れて、音が聞こえてきそうなくらいのぼせ上がった。

もう!私ったら恥ずかしい・・!
誰もいない?!よね・・・?

周りを見渡す。

誰もいない。

心からホッとした。

「あ〜、よかった・・!聞かれちゃってたら恥ずかしすぎるよ、あんな独り言!
よし、誰も来ないうちにさっさと片しちゃおう!」

明日はバレンタインで、本部に一つしかないこのキッチンは今晩必ず混雑するだろう。
まだ皆んな訓練中の時間帯。特にこれといって仕事の決まっていない私は、リヴァイに居場所だけはきちんと断って抜け駆けで明日の準備を終わらせたのだ。

リヴァイのことだから、訓練を早めに切り上げて私の顔を見に来るかもしれない。
それはまずい。明日、きちんとバレンタインデーの日付を迎えるまで、どんなチョコレートを作ったのか・どんなラッピングなのかは、ぜ〜ったいに秘密!
それにリヴァイのことだから、バレンタインという事すら頭にない可能性も高い。
もしそれで驚いてくれたら、もっともっと嬉しいもの・・!

だから絶対、リヴァイが来るまでに証拠を消さないと・・!

使命に駆られた私は大急ぎでボウルや泡立て器を洗ったけれど、カカオの油分をサッパリ落としきるのに手子づって、結局片付けが終わったのはリヴァイがキッチンへの扉をくぐるのと同時で息つく暇も無かった。

何か作ってたのかと聞くリヴァイがバレンタインの存在を忘れていることを確信して胸中でガッツポーズをし、「ちょっと前々から気になってた水垢を落として回ってたの」と上擦る声の後ろ手に道具を手提げにしまった所為で、おめかしの要であるグリーンのリボンが作業台の上に置き去りになることに気がつかなかったのだ。

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