みじかいゆめ | ナノ



兵士長の恋愛事情 E



「この格好で大丈夫かな・・?
髪型はやっぱり結い上げた方が印象いいよね?!
ああ、もう時間っ!出なきゃ!」

鏡と向き合う事は諦めてバタバタと玄関に向かう。

「あ・・!そうだ・・!」

帽子かけに大切に掛けてある、リヴァイに貰った帽子をそっと被った。

「よし。行ってきます。」

この帽子さえ被れば、あんなに悩んでいた洋服ももう何もかも大丈夫な気がしてくる。

今日は、調査兵団本部へリヴァイに会いに行く。

仕事場に行くなんて、と遠慮したのだけれど、「別に誰の邪魔する訳でもねえし構わない。お前も家ばかりより、こっちに来れた方がいいはずだ。俺の恋人を襲うような馬鹿はいないからな。」

と、リヴァイが言ってくれたので気遣いに甘えさせて貰った。
恋人。改めてそう呼ばれると胸がくすぐったい。

本部に着いて、やっぱり少し緊張しながらキョロキョロとリヴァイを探す。

やっぱりいないな・・。
部屋の地図は貰ってるから部屋に行かないと。


「・・・ナマエさん?」

振り向くと、リヴァイの伝言を届けてくれたペトラさんだった。
その周りにいる女の兵士達も、ペトラさんと一緒に近づいて来る。

「ペトラさん!こんにちは!」

「やっぱり!今日はどうされたんですか?」

「あの、リヴァイ、さんに会いに・・・。」

「リヴァイ兵長に・・・?」

リヴァイに会いに来たという事は、やっぱり言いにくさを感じた。
ペトラさんがリヴァイに好意を寄せてるのは明らかだし・・・。

「ペトラ、まさかこの子リヴァイ兵長の恋人なの?」

「あの、その・・。」

「ううん、友人なんですって。」

確かにペトラさんに最後に会った時はそう言ったけれど、ここで恋人ですと声を上げて訂正出来るほど、私には度胸がない。
言っておいた方がいい事は分かるんだけれど、それは私よりリヴァイから聞いた方がいい気もするし・・・。
でもペトラさんはリヴァイを好きみたいだからこのままにするのも不安だし・・・。

言おうか言うまいか困っていると、「だよね。昨日恋人はいないけどってリヴァイ兵長に断られたってマリーが言ってたもん。
それに、リヴァイ兵長に似合うのはやっぱりペトラよね〜!いいなあ、同じ班だしさあ!」

という台詞が突き刺さる。
え・・?告白?恋人はいないって・・・。

「もう!ナマエさんの前で恥ずかしいじゃない!止めてよ!」

恥ずかしそうに頬を膨らませて友達を叱ってみせるペトラさんは、やっぱり女の私から見ても可愛い。

こんな人にも慕われてるなんて、リヴァイって凄くモテてるんだ・・・。

私の知らない場所で、私の知らない人達に慕われて想われるリヴァイの事を考えると、急にリヴァイが遠く感じた。

どうして恋人がいると言ってくれなかったのか。
一般市民と付き合ってると知られたらまずいんだろうか。
でもこうして私を本部に招待してくれている訳だし・・・。

「リヴァイ兵長の部屋まで行くの?案内するわね。」

もやもやしてしまった気持ちを引きずって、ペトラさんの後ろ姿について行く。
途中、ペトラさんとすれ違った男の人達が一言二言話しを交わす度に顔を赤らめていて、さらに気持ちが澱んでしまう。

それに、当たり前に着けている全身のベルトが、なんだか見慣れない私には目のやり場に困ってしまう。
服は身体のラインに沿うようなものだし、ベルトは胸の上や太もものきわの、かなり”危ないところ”を締め付けて主張させている、ように見えてしまう。
何しろ、ベルトに見慣れていない所為なのだ。

やっぱり、私ももう少しスリムな服にすれば良かったと思った。

ゆったりとしたワンピースでは、彼女達と比べるとどうしたって子供に見える。

今までもリヴァイと会う日はこういう服ばかりだったけれど、リヴァイは何とも思わないのだろうか。
くびれた腰や、適度に引き締まった身体のラインに、目のやり場に困ってしまうような事は無かったんだろうか。


ー コンコン ー

「リヴァイ兵長。ナマエさんが来ていたのでお連れしました。」

「入れ。」

「失礼します。」

カチャリと扉が開いて、机に向かっているリヴァイの顔が見える。

「すまねえな。迷ってないか心配だったんだ。」

「いいえ、また何かあればいつでも。それではごゆっくり。」

リヴァイと二人きりになった。

リヴァイがペンを置いて、手招きしたのに引き寄せられるように側に立つ。

「どうしたんだその面は。本部まで来るのに疲れたのか。」

ふわりと膝の上に抱えられ、頬を押し潰される。
出来るだけ平静を装ってみても、やっぱりリヴァイはすぐに気付いてしまうらしい。

机の側の屑入れにも、ラブレターらしき封筒が見えて目を伏せる。

「・・・わたし・・リヴァイの恋人じゃないの・・・?」

「あ?」

私を見る目に、深い皺が一気に眉間に集まる。

「何を言ってやがる。誰かに何か言われたのか。」

帽子を外して机の上に置きながらリヴァイが言う。

「恋人はいないけどってフられた子がいるって、聞いちゃって・・。
私の事、隠すつもりならやっぱり来ない方が良かったよね・・?」

リヴァイを頼ってここに来たのに、居場所がない。どうすればいいか分からなくて泣いてしまいそうだ。

「それに皆んな何だかスタイル良く見えちゃって・・・私なんか、いつもこんな服装で子供っぽいし・・・!」

せっかくここまで会いに来れたのに。
こんな風にリヴァイを責めるような言葉と態度しかしてあげられない自分に嫌気が指す。
こんなはずじゃなかった。
仕事を進めるリヴァイの隣で、その姿を眺めながら待てればそれで良かった。

「・・・ナマエ、よく聞け。」

溢れた涙を指で拭いながら、リヴァイが静かに言う。

「確かに昨日、告白されて恋人はいないと言った。
だがそれは他に付き合ってる”兵士”でもいるのかと聞かれたから居ないと答えただけだ。
お前の事を隠すつもりも無いからこうしてここに呼んでいる。
だから堂々としてていいんだ。いつも周りを気にして生活してるお前が、ここでは堂々と過ごせる場所であって欲しい。」

「・・・じゃあ私、聞かれたらリヴァイの恋人だって答えてもいいの・・?」

「勿論。俺もそう答えよう。」

「・・・嬉しい・・!」

胸をはって堂々とリヴァイの恋人だと言ってもいい。
リヴァイがそう認めてくれた事が嬉しかった。

「それで、そのスタイルとかは何だ。お前が気にする事か?」

「気にするよー、皆んなベルトで引き締めてるし細いし凄くスタイルいいなって・・。
私はいつもこんな服装だし・・・。」

ゆったりと余裕のある自分の服を摘む。
着心地もいいし、お気に入りだったのに何だか急に恥ずかしい。
リヴァイはあんな刺激的な服の女性達に囲まれて、恋人の私はこんな色気も無い服で。

「確かにお前はいつも色気の無い服ばかり着ているな。」

ガンッと台詞が頭を殴る。
やっぱりリヴァイもそんな風に考えて・・・・

「でも俺はお前に似合っていると思う。
今日のこのワンピースもお前によく似合ってる。」

膝の上から降ろされて、リヴァイの目の前に立たせられる。

「だがたまには・・・俺の為に刺激的な格好をして貰うのも悪く無いかも知れない。」


しゅる、とリヴァイが自分の身体のベルトを外す。

そのまま私の脚から、ベルトを巻きつけ始めた。

「リヴァイ・・?もしかして・・。」

「巻いてやるよ、ナマエ。
お前が一番綺麗だと分からせてやる。」

リヴァイの瞳が、鈍く光った。

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