普通の女の子 × 地下街のゴロツキ | ナノ



保護と、自由
原作編



「・・・おい・・クソメガネ・・。
お前は何をやってるんだ・・・?」

朝食の支度を終えたナマエと寄り添い、「他の人間が起きてくるまでお茶でも飲んで休憩しよう」と一日の始まりに相応しい一時を過ごす為に向かった談話室には、昨晩最後に見た同じ光景の、同じ椅子の上の同じ二人がいた。

目の下に隈を携えながらも爛々と輝き、狂気を感じさせる黒い瞳孔が俺達を映す。

「おはようナマエ、リヴァイ!今エレンに巨人の生態について話し終えたトコなんだ!
じゃあエレン、次は捕獲に成功した2体の巨人に行った実験の内容なんだけど、これがまたすっごいんだ・・!」

「巨人の生態だと・・?んなもん、訓練兵時代に習うだろうが。」

「はい・・全部知ってました・・。」

夜中ハンジのおさらい的巨人話に有無を言わさず付き合わされていたらしいエレンの目は隈よりも濃い隈を貼り付け、一晩でかなり老け込んでしまっている。

「エレンくん・・!大丈夫?!
ほら、早く寝室に行こう!横にならなきゃ・・!」

「・・チッ。エレン、お前今日は地下牢で大人しくしてろ。」

ナマエに介抱させるのは気に食わないが、今回ばかりは仕方がないと二人を見送る。
一応は上官になるこの変態クソ奇行種に気を遣い、何も言えなかったんだろう。

こいつが徹夜なんかさせなければ、大切な恋人を貸してやる必要などなかったのに。と、度々こういう面倒事を起こすクソ眼鏡を睨む。

「お前、どういうつもりか知らねえが、部下に迷惑かけるんじゃねえよ。
限度ってもんがテメエには分からんのか?あ?」

「そんな・・!私はエレンに、あのコ達の事を好きになって貰おうと・・!」

「断言する。巨人なんて好きになれるのはお前くらいだ。
お前が巨人狂いなのは構わねえが、周りにもそれを押し付けようとするんじゃねえよ。」

この奇行種も流石にまずかったと反省したのか、こうべを垂れシュンとする。打たれ強さに定評のあるハンジがこの段階でしょげるのは珍しい事だった。

この程度の文句じゃ、てっきりまだ戯言をペラペラと能弁してくるはずだと身構えていたのに。

苛つきながらも憎み切れないのは、お互い長く生き残っているよしみであり、そこがまた面倒くせえ。何だかんだと結局付き合わされ、いつも尻拭いをさせられる。

「もう今日は帰れ。自分の仕事をしてこい。」

まあ・・反省してるようだし、今回は多目に見てこれ位にしとしてやろうと、思った俺はやはり甘かった。

「・・・いやだ!今日はエレンの実験をしていいって言ったじゃないか!」


プチリ、と。何かがキレる音が聞こえる。

こいつ・・・珍しくしょげてやがると思えば・・・・。


「ハンジよ・・・俺に削がれるか、今すぐ城から出て行くか選ばせてやる。」

背後にめらめらと怒りの弧炎をたたえ、ブレードに手をかけると既にハンジは部屋に居らず、バタバタと走り去る音が廊下に木霊する。

「最初っからそうしとけ、馬鹿野郎が。」

文句を一つ吐き捨て、すぐに地下牢へと足を進めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



地下へと降りると檻の中に用意されたベッドで眠りこけるエレンと、その寝顔を隣で見守るナマエが目に入った。

じわりと不穏な感情が胸に疼く。

「ナマエ、そいつは監視されてる身だ。必要以上に近寄るな。こっちに来い。」

「でもリヴァイ、エレン君は私達をどうこうしようなんて、考えてすらないよ?」

「いいから早く牢から出ろ。」

「・・・うん、分かった・・。」

ピリリとした雰囲気を感じたらしく、それ以上は何も言わずにナマエはすんなりと牢をくぐる。

犯罪者のように冷たい簡素な牢に入れられたエレンを振り返る瞳が可哀想だと傷付いていて、溜息を吐いた。

俺だって嫌な恋人になりたくはない。


「そいつが危害を加えるつもりがないのも、誰より巨人を憎んでるのも知ってる。

だがまだ分からないことが多すぎる。

俺の前で仲良くするのはいいが、二人きりになったり必要以上の接触は避けろ。

お前と、俺の為でもあるんだ。分かるな?」


こっくりと頷き、擦り寄る体に腕を回す。

頭に浮かぶのは失ったあの二人の顔。

もう二度と、あんな思いは味わいたくない。


「いつになったらエレンくんの疑いは晴れるのかな・・?」

俺の腕の中でナマエが呟く。

「さあな・・・。もう少しかかるだろうが・・・遅くはないだろう。
その為にもクソ眼鏡がこいつを調べあげる。」

「わたし心配だな。」聞こえてきた意見に同意しかけたが、もっと不安を煽るだけだと気付き口をつぐんだ。

「実験にはリヴァイ達も立ち合うんだよね?」

「それは勿論。」
いつでも”対処”出来るように。
そんな言葉もこの恋人の前では口にはしない。

「私もいてもいい?」

「・・・・・。」

本音は「駄目」だ。
駄目に決まってる。

いくら自分が側にいるとは言え、危険が伴う。
出来る限りそういう可能性は排除しておきたい。

エレンには知性がある。
もしナマエを人質にでも取られれば・・・俺は兵団にとっての最良の選択を選ぶ自信が無い。 自分の命すら軽々と捨てるだろう。

しかし・・・・昨日からの俺は何だ。

エレンが巨人になれるからという理由を除いても、ナマエとエレンの関係に一々目くじらを立て過ぎてやしないか・・?

少しでも班に慣れるようにとエレンに手伝いを頼むナマエの配慮に割って入ったり、ほんの少し二人きりにさせただけで落ち着けない。

嫉妬に駆られて鬱陶しく自由を制限する重い恋人だ。

・・・俺は、本当は・・・・・。

息を深く一つ吐き、答えを出そうとした。

「俺の傍から離れないのなら構わない。」
そう言うつもりだった。

「リヴァイ、やっぱり私、お城で待ってるね。」

先に折れたのはナマエだった。

「・・・・なぜだ。俺はお前が傍から離れないのなら構わないと、そう伝えるつもりだった。」

「だって私・・リヴァイを心配させたくて言った訳じゃないの。
ただエレンくんが心配だった、あのハンジだし・・ね。
それに・・・普段のリヴァイを傍で見れるならって・・そんな軽率な気持ちだった。

だから私は全然気にしてないし、むしろ変なお願いしてごめんね。
リヴァイ・・そんな顔しないで・・・?」


俺は今、酷い顔をしてるんだろう。

目の前の恋人はそんな俺のために笑顔を作ってみせる。

こんな風に、自由を妨げたい訳じゃなかった。

傍にいたいのなら居ればいい。

そんな簡単な一言すら、一度喉元で立ち止まる。

肩書きや予測のつかない環境がそれを邪魔する。

「・・・・すまない。」

噛み締めながらやっと這い出した言葉にナマエは首を振る。

「いーのっ。
リヴァイの心配事が一つでも少ないのが一番大切!またエルヴィンに心配されるからね。
さ、そろそろ皆を起こして、朝ごはん食べよ?

今日はリヴァイが好きな卵サンドだよ

この明るさがナマエの気遣いであることは分かっていたが、何も言ってやる言葉が無く、繋いだ自分より小さな手が解けないように握るのが精一杯の謝罪だった。

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