普通の女の子 × 地下街のゴロツキ | ナノ
古城の朝
原作編
目覚めると、隣にもうナマエは居なかった。
伸ばした手が空を切り、冷めたシーツに着地する。
「・・・・・。」
目をこすり、欠伸を一つ。
昨夜も、ナマエを抱いた。
ここでの生活の初日だったし、目を覆いたくなるような有様だったこの古城を俺が住めるまでに片付けてくれた彼女の体を労わり、本当はあと何回か交わりたかった所を一度だけに留めておいた。
しかしやはり、いつものように抱き潰しておけば良かったと思う。
そしたら目覚めてすぐに、ギュっと温もりを抱きしめられた。
並んだナマエの枕を引き寄せ、顔を埋めるとナマエの香りがした。
少しは気が晴れたが、やはり本体の方がいい。
まだ誰も起きてはいないだろう。
誰かが起きてくる前に、ナマエを愛でておく事に決めてベットから降りる。
階段を降りたその先の静かな朝に響く物音に引かれ、真っ直ぐに向かったキッチンにやはりナマエはいた。
広いキッチンが余程気に入っているらしく、またあの鼻歌を歌いながらリズムに合わせ、パンを捏ねている。
気付かれないようそっと近寄り、くびれた腰に腕を回してぴったりと身体をくっつけた。
「わ!・・びっくりしたあ・・!
リヴァイ・・?もう起きちゃったの?」
「ああ。・・・お前が居ないから・・。」
言うつもりはなかったが、薄い肩におでこを乗せて甘えていると、するりと言葉が抜け落ちてしまった。
ナマエが小さく笑う気配がして、慰めるように優しい手付きで髪を撫でながら「ごめんね?」と言う。
「気持ち良さそうに寝てたから。少しでも沢山寝かせてあげたいし。」
肩口でぐりぐりと首を振り、ナマエの言い分を否定する。
いい夢を見た訳でもないし、寝足りないと思った事は一度もない。
ナマエとベットに入らない日は別に眠らなくたっていいと思っているくらいだ。
「ふふ、分かったわ。それじゃあ明日の朝から、ちゃんとリヴァイと一緒に起きる。それでいい?」
こっくりと頷き、抱き締めている腕の力を強める。
このまま朝食の準備が整うか、誰かが降りて来るまでくっついていようと目を閉じる。
ナマエがパンを捏ねたり、麺棒を転がす度に身体が揺れて、心地よい揺れが伝わる。
ナマエも離れなくなった俺に何か言うでもなくそのままにして、足を踏んだりしないよう、歩みを合わせやすいように足を踏み出す。
こんなに気の抜けた朝を過ごすのは久しぶりだった。
たまに片手が空くと撫でてくれる手先を堪能しながら、ここに住み始める原因になったエレンにお礼を言ってやってもいいと思った(正直昨日は疎ましく思う場もあった)。
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「あれ?オルオ、早かったのね。」
起床し、喉が渇いていたので水でも飲んで朝食を作っているだろうナマエを手伝おうと、降りかけた階段を上ってくるオルオと出くわした。
珍しく先に起きていたらしく、それでも爽やかな朝にふさわしくない鬱ぎ込んだ顔をしている。
「・・ペトラか。まだ1階には降りない方がいいぞ。そのうちナマエが呼んでくれるだろう。」
「あんた何で朝からそんな顔してんの?」
「もっとシャキっとしなさいよ!」と、だらし無く垂れた肩に手をかけ喝を入れる。
「・・・キッチンを通りかかったら・・兵長がいらっしゃったんだ。」
「ナマエといちゃいちゃしてたんでしょ?そんなのいつもの事じゃない。
兵長が機嫌いいと仕事しやすくて助かるし、いい事だと思うけど。」
「そうなんだがなぁ・・・お前も聞いただろう・・?その・・昨夜の・・・。」
言いにくそうに言葉を濁し、赤くした頬の上の視線を彷徨わせるオルオ。
思い当たる節はあった。
「なーに?まさか眠れなかったの?
それって興奮してとか言わないわよね・・?」
いくら男の性とは言え、それは何かあまりにも気持ちが悪い。
「ちげえよ馬鹿・・!」
無事に言い終わったのにも関わらず、舌を噛み悶絶するオルオに溜息をつく。私だって最初はオルオが噛む度に心配していたが、喋る度に噛むのでもう一々心配なんかしない。
オルオの助言通り1階には降りず部屋に戻ることにして振り返ったけれど、もう一度オルオに向き直る。
「兵長の機嫌がいいのが一番なんだから、一々あの二人の動行に恥ずかしがってちゃダメよ、オルオ!
ナマエの存在に感謝するくらいでなきゃ。」
きっと機嫌よく朝を迎えてくれているだろう上官を思い、今日は穏やかに過ごせそうだと安心する。
甘い朝食が出来上がるまで、もう少しベットの中で休んでいよう。
「・・・・女ってすげーな・・。」
他人のそういう甘い場面に免疫がなく、中々慣れることの出来ないオルオが、凛とした同僚の後ろ姿に呟いた。
この古城で、彼が安眠出来る夜は来るのだろうか。
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