01
「退屈だ」

魔界の西端に、死蝋めいた色合いの、幽鬼のごとき城がある。
その鬱々とした城内の、形ばかりは美しく誂えられた居室、そのソファで、怠惰に寝そべりつつ呟くのが、この城の主である。
呼び名をシエル、という。本名は名乗らなくなって久しい。
ブルーブラックの髪、蒼紫のオッドアイ。
幼い外見に似合わず、見る者を威圧する風を纏う少年である。容易く手折れそうなほど繊細な美貌は、はっと人目を惹きつける魅力があった。

「読書には飽きられたのですか」

応じるのは、彼の執事だ。
この城のただ一人の使用人であり、永久に近しい今生のただ一人の道連れである。

「飽きた。怠惰も、暴食も、憤怒も、飽き飽きだ」
「おや、では色欲に興じられては?」

執事が誘うように撓ませた唇を見遣りつつ、シエルはつれない溜息だ。

「遠慮する。お前を相手にするつもりはないが、お前以外に興味はない」
「左様でございますか」

執事は人差し指を下顎に添えた気障な姿勢で、暫し思案しているよう。
鴉の濡羽のように艶めく黒髪、禍々しさを底に淀ませた紅茶色の瞳。人を惑わす妖しい引力のある男だ。名を、セバスチャン・ミカエリスとしている。

「では……こういった趣向はいかがでしょう?」

勿体ぶった言い回しに片眉を上げて応じながら、シエルは強気な笑みだ。

「話せ。だが詰まらない提案などしてみろ、ケロベロスの餌にしてやる」

執事は大袈裟に肩を竦めて見せてから、こんな提案を持ちかけた。


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