「フラン様、クッキー作ったので食べてください!」
「これ良かったらどうぞフラン様!」
朝から砂糖にたかるアリのごとくフランの周りで騒ぐ女子の群れ。
きゃあきゃあと黄色い声が飛び交っている。
ここは暗殺部隊であって、彼女たちも一応戦闘員であるはずなのに、なんだろうあの女子高生みたいなノリは。
ルッスの隣であきれつつぼけっと見ていると後ろから声をかけられた。
「う''おおい・・・。朝っぱらから騒々しいなあ」
振り返るとうんざりしたような顔でスクが立っていた。まあその気持ちはわからなくもない。とりあえず挨拶を返す。
「あ、おはよスク」
「あいつらどうにかなんねえのかあ?」
「まあフランちゃん新入りだし、顔も悪くはないものねえ」
スクの言葉に答えながら「でもあたしの趣味じゃないわ」とルッスが腰をくねらせた。
なんか結構気持ち悪いな、と思いながら再びフランを眺める。女の子に囲まれて嬉しそう…でもなさそうだけど、ニコニコと愛想良く笑いながら受け答えしている。なんかわたしのときと全く違う気がするのは気のせいだろうか。複雑な気分になりつつ一人つぶやく。
「顔、ねえ」
確かに、こうしてみるとフランは案外整った顔立ちだ。緑色の髪もさらさらしてるし。あれ、何考えてんだわたし。それを別に誰に指摘されたわけでもないのに慌てて声を出す。
「あ、あいつの性格知らないからあんなに騒げるんだよ」
「それは一理あるわね。あたしなんてクジャクオカマよお!」
そう言いつつもなんか若干嬉しそうなのはわたしの目がおかしいのかな。
聞いてみると、「そういう呼ばれ方新鮮なのよ!」と返事が返ってきた。なんか本質的にはオカマもクジャクオカマもそんなに変わらないと思うけど。でもまあ本人がそう言うのならそうなんだろう。
「ま、スクなんてアホのロン毛隊長だもんね」
「おいちょっと待てえ!なんだそれはああ!」
「あら、知らなかったの?」
「えー、あんなに言われてんのに知らないの」
彼の言葉に驚くわたしとルッス。
あれほど言われてるのに知らなかったとは驚いた。こういうのは意外と本人の耳には入らないらしい。
スクが怒りのせいかわなわなと体を震わせた。
「…あんのガキ。三枚におろしてやるぜえ」
「スクファイトー」
「頑張ってねー」
ルッスと一緒に適当に野次を飛ばす。スクがフランのところに歩いて行った大きく息を吸って、そして叫んだ。
「フラああああん!」
それを見ながらルッスとしゃべる。あっちではスクがフランに剣を向けてるけどそれは気にしなくても大丈夫だろう。なんだかんだであのカエル意外と実力あるし、と考えている自分に少し驚いた。わたしは別に、心配なんてしてないし。
え、じゃあなんでこんなこと考えたんだろう。
「あらあら、本当に行っちゃったわね」
「あの人、いつもはもうちょっと冷静なのにどうしたのかな」
そんなことをしゃべりながらフランに剣を振り回しているスクを眺める。
なんとなく、蹴散らされた女子たちを見てざまあみろと思った。フランも、わたしにはあんなに憎まれ口叩くくせにさ。
ほかの女子には愛想よくしちゃって、なんてトゲトゲした感情が心を乱す。そんなわたしの様子に気がついたのかルッスか少し驚いたような声を出した。
「あらどうしたのなまえ。なんか機嫌悪いわね」
「別に、なんでもない」
妙に鋭いルッスに、慌ててそっぽを向いた。本当、この人こういうのはすぐわかるんだよね。これ以上は悟られないようにとそっと顔を手で隠したとき、フランのわたしを呼ぶ声。
「なまえセンパーイ。お助けー」
スクの振り回す剣を器用にかわしながらフランがこっちに顔を向ける。
「やだね。大人しく三枚におろされとけば?」
「わー酷い」
助けを求められ冷たく言い返せばミー傷つきましたー、とか言いながらも相変わらずの無表情。
これだから、こいつは何を考えてるかさっぱりわからないんだ。
朝のヴァリアー邸で、なぜかもやもやする気持ちを持て余すわたしだった。
わたし以外にはあんな笑顔のくせに。
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