恋カン | ナノ


  


「なまえ、こいつ今日から新しい霧の幹部になったフランな」

そんなベルの言葉にそちらを向くと、大きな黒いカエル(のかぶりものをかぶった人間)が立っていた。
なんだろう、あれ。ものすごく気にはなるがあえてそのことには触れず、とりあえずにこやかに挨拶をする。うん、それが大人ってものだ。

「わたしはなまえです。よろしくね」

まあ同じ幹部としてこれから付き合っていくわけだし、仲良くはなっておきたいものじゃないか、なんて呑気にそう考えていたわたしに返ってきたのは。

「わーなんかすごくアホそうな人ですねー」

というとんでもなく失礼な言葉だった。不覚にもぴしり、と一瞬固まってしまった。

慌てて凍結した思考回路を整理する。
えーと、今こいつなんて言った。あ、多分聞き間違いだろう。
そうじゃなければ、初対面の相手にそんなこと言えるわけがないし。納得のいく結論にうんうんと頷きつつ先輩としての余裕を見せるべくもう一度とびっきりのスマイルで笑いかける。

「よろしくねフラン君」

「ミーは別にアンタみたいなアホどうでもいいですけどー」

一つ、訂正。
さっきのは決して聞き間違いじゃなかった。
この人さっき確かにわたしにアホって言った。
というか今も言われた。
今すぐ彼に鉄拳をお見舞いしてやりたいのをぐっと我慢し、なんとか笑う。

「あははっ。そうかなー?」

「そうですよー。自分で自覚もないなんてやっぱアホですねー」

相変わらずの無表情で彼はそう言い放った。今度は聞き間違いではないらしい。

ブチリ、わたしの中でその瞬間何かが弾けた音がした。
なんだこのカエル。こうも人にズケズケ言っていいと思ってるのか。例え先輩だろうと所詮は人間、限界というものは存在するわけで。もし我慢メーターがあるのなら今なら余裕で針が最大値を振り切れているはず。ていうか絶対その自信がある。

「ねえベル、何こいつ。すごく腹立つんだけど」

「いや、オレもそうは思うんだけどさ。スクが言うにはこいつの幻術の腕半端ねーんだってさ」

「そりゃあまあ、ミーは将来有望なフレッシュな新人ですからー。それがこんな野蛮なとこに拉致られてー」

そう言ってさめざめとわざとらしく泣くフラン。こう見えて意外と演技派らしい。
でも拉致られたっていうことはこいつも結構大変な思いしたんだ、と思えばムカつくカエルだけど少し同情が湧く。

そっか、この人もきっと慣れない環境に戸惑ってわたしにあんなこと言ったんだ。ほらアレだ。転校生がよくツンツンしてるアレだ。
そうとわかればここは広い心で許してあげようじゃないか。
そうなればもうあんな生意気なことも言わないだろうし。そう考え、フランにもう一度にっこりと笑いかけた。

「そっか、大変だったんだね」

「同情するくらいなら金をくださーい」

再び、固まるわたし。
そんなわたしを尻目に至極退屈そうに大きなあくびをするフラン。
ああ、こいつ、多分すごく性格悪い。そう思うと同時に抑えていた殺意もまたゆらりと湧き起こる。

「ベル、このカエル殺っていい?」

「ま、待てってなまえ!落ち着けよ」

珍しく殺気を垂れ流すわたしに驚いたのか、これも珍しくあわあわと慌てるベル。
落ち着けって言われても、ここまでコケにされて冷静でいられる人がいたら見てみたい。多分世界中探してもどこにもいないと思う。

「よーく言いますねー。さっきミーに堕王子って言われてブチ切れてたのはどこの誰なんでしょー?」

「てめっ・・!カエルは黙ってろよ」

「あ、もしかして結構精神ダメージくらってましたー?堕王子堕王子堕王子堕王子堕王子堕王子」

「だーっ、連呼してんじゃねーよっ!」

ベルがこのクソガエル!と言ってフランにナイフをグサグサとさした。
別にフランはたいして痛くもなさそうなんだけど。効果あるんだろうか、あれ。

「それよりベルって堕王子なんだ。わたしずっとベルは本当の王子様だって思ってた」

「いやいやいやオレ王子だから」

「やだな何言ってんですかー。アンタは王子(仮)でしょー?」

わたしの言葉を焦った声で否定するベルに性懲りもなくフランが馬鹿にしたように嘲笑する。
次の瞬間、綺麗な放射線を描いてフランの背中にナイフがささった。フランが口を尖らせてベルに文句を言う。

「もーいったいなー。アンタ本当精神年齢低いですよねー」

「とりあえずその口きけねーようにしてやるよ」

「ちょっとベル、落ち着いて」

ナイフを光らせるベルをなだめるためにそう言いながらわたしとベルの立場がさっきと逆転してるな、とぼんやり思った。
まあすぐに始まった乱闘を抑えるのに夢中になって忘れてしまったけど。

とりあえず、第一印象は最悪だった。




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