日傘01



 虹を見た。雨上がりの空に、緑したたる山々のどこかをはじまりとして、虹が架かっていた。
床に座ったまま見上げる窓は、外なるものを嵌めこんでいた。ここにおいてはそこだけが眩かった。土の香が滑りこんでくるのも、娘たちのはしゃぐ声がころがってくるのも、窓が開いているからだった。わたしの世話をしている者が閉め忘れていったのだろう。もうすぐ市が立つと、彼女は楽しみにしていたようだった。
 潤んだ風が頬を撫でた。

「こちらを見ただろう」

 まわりの暗闇から響いてきた声に、目を瞠る。
 それは男の声だった。この屋敷の主であるという男の声くらいしか聞いたことはないけれど、女の声ではなかった。
 ここにいるのはわたしだけのはずだ。ここと屋敷とをつないでいる彼女がいないのだから、今、ここには何者であれ入ることも出ることもできないはずだ。
 ならば、これは、なにものだ。
 みじろぎができない。声が、でない。

「戯れに詠おうか」

 先ほどと同じ声が、耳もとで、囁いた。

<日傘 抜粋01>

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