沈め石 02


ぼくが竹籠を使って何をしようとしているのかといえば、夏休みの宿題だ。そこになぜ叔父がかかわっているのかといえば、はなしの流れであったと言うほかはない。時折、叔父はお土産を持参して家に遊びに来ていた。叔父は何かを調べたり記録したり教えたりしている人であるらしい。ある時、ぼくの家に遊びに来ていた叔父は、夏休みの宿題である自由研究に何をしたらよいのか迷っていたぼくに、手を差し伸べてみることを思いついた。それにより、ぼくは叔父の家に泊まりにいくことになり、叔父が現在のめりこんでいるという竹籠づくりに付き合い、工作ついでに自由研究まで終わらせてしまおう、という話になっている。
ぼくが手にしている竹籠は、蛇籠ということになっている。ここでは、鉄線で編んだものではなく、竹で編んだものについてのはなしをする。蛇籠というのは、抱きかかえきれないほどの大きさで、細長く、石を詰めて急流に沈め、流速をやわらげるために用いられるという。沈めてからしばらくすると小魚が住み着くこともあるらしい。ぼくが調べようとしているのは後者だ。ぼくの宿題を片付けるのはぼくである。ゆえに、ぼくにもつくれる大きさの竹籠でなければならない。治水に使われていたような蛇籠など、つくれるはずもない。だから、叔父のことばを借りるのならば、これは縮小実験ということになる。
抱えてきた竹籠を川底に沈める。肘を川面が滑っていく。川底の石を見繕い、重石として網目から詰めこんだ。

「固定できたみたいだね」

黒い影が水底にたゆたう光の網を塗り潰した。面をあげると、水に呑みこまれた竹籠を叔父が覗きこんでいた。

「さて、ここできみがしなければならないことは何かな?」

夏休み明けの発表に必要なものを思い描く。生き物が住み着くかどうかを知りたいのだから、沈めた時の籠と沈めてしばらく経った籠が並んでいたら、一目でわかるのではないだろうか。

「写真を撮る」
 ホイップクリームのような入道雲が、ほどなく夕立が到来するであろうことを告げている。

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