The tail of a Phouka 03


「お久しぶり、二コラ」

 老人の身がねじられ、背凭れが軋みをあげる。そこには微笑む青年が立っていた。老人の目に驚愕が閃く。声がかたちを定めたかのように、老人しかいないはずのそこには、もうひとりがいた。

「約束を、果たしにきたよ。契約の履行と言い換えてもいい。あの日、君に訪れるはずだったものを、君が先送りにしたものを、与えに来た。そのために、今日まで私は君を護ってきたのだから」

 夜をすら弾く黒髪が、炎をすら呑みこむ紅の目が、余裕から生じる無防備さをもって老人に晒される。黒の外套を纏う来訪者の影が、草木の文様に彩られた絨毯に躍った。凍てついた気流が老人の脚を這いのぼる。


<学者のはなし 抜粋3>

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