The tail of a Phouka 02


 その街の印象は灰色だった。海は近いが森は遠いその街の大学で、壮年の男が教鞭をとっていた。気象についての講義が、講堂に響く。木造の講堂は年月によって磨かれた飴色の箱だった。箱の一辺の底にある教壇と段をもって三方を塞ぐ聴講席は、質素な歌劇場のようでもある。知識を教授する者の眼が黒板を離れ、学生で埋め尽くされている聴講席に移された。そこには同一空間における多種多様の事象が蠢いている。メモを取る者、講義に耳を傾ける者、教授の動向に目を凝らす者。学生という記号の集積は、対象としてそれを見ている者の目から学生という群れを成している個を融解させる。学生の蕩けた塊に、ひとつだけ、融けないものを教授は見つけた。温水に溶かした砂糖の、飽和の一粒のようは凡庸で、目立つ雰囲気を醸し出しているわけでもない。にもかかわらず、気管が収縮し、喉が鳴る。黒髪の学生は教授を見つめ、眼鏡の奥の目を眇めた。


<学者のはなし 抜粋2>


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