The tail of a Phouka 01
緑であるはずの樹木は赤かった。枯れて乾いた下草の群れは綿毛のようで、薪が爆ぜるかのような音を立てて揺れていた。天蓋なるは樹皮が砕け降る枝の網。蜘蛛糸が掬う乾涸びた葉が、網のそこここで回っている。
土煙が螺旋をもって中空に舞った。乾きをもって肌を刺す風が、潤いを欠いた森を吹き抜ける。砂よりも細かな土の粒が、青灰の目の少年の頬を叩いた。眼球を貫いた痛みを流すために少年は目をしばたたき、枯れ木の隙間から空を仰いだ。晴れ渡った空には雲ひとつない。
ひりつく風になぶられながら、枯れ枝が塞いでいないというだけの道を少年は進んでいく。やがて少年は葉の無い木々の迷路に拓けた空き地に辿り着いた。滾々と湧きいずる水のきらめきを見つめる青年を少年は幻視した。だが、少年を迎えたのは涸れた泉の痕跡にすぎなかった。それでも、そこには赤い髪の青年が佇んでいた。青年の眼の先では、鳥の頭蓋が嘴を開けて、熱に晒されて脆くなった骨を風に撫でさせていた。
「このあたりでは、永いこと雨が降っていないようだ」
少年に向けられた青年の目は、黒であるように見える、滴り落ちるような緑の凝縮だった。
「森を出たところにある集落に遊びに行っていたのかい?」
やわらかく冷徹に、青年は少年を見つめた。
「君を心配している女の子から、君を守ってくれと頼まれたんだ。もしかすると、今、君が会いに行っていた子かな」
それまで漠然と音を得ていた少年の、茫洋としていた青灰の目に、警戒が閃いた。
「あなた、誰なんですか?」
棘をひそめた優美ですらある微笑が、青年の唇を彩る。突如として背を這い上がってきた畏怖に、少年は狼狽した。
「そろそろかな」
少年を見つめる緑に、憐憫が湧いた。
「君のお父上は、雨を降らすことができるかい?」
夕焼けが森を赤に染めていた。
青年の微笑は崩れない。少年の狼狽は離れない。父のいるはずの場所を、丘の上にある我が家を、枯れ枝の網目を額として、少年は見遣った。
<学者のはなし 抜粋1>
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